1月24日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で今話題のMaaSについて取り上げていたのでご紹介します。
この先、移動の方法が画期的に変わるという仕組みがあります。
それは、今、世界中が注目している次世代の交通サービス、MaaS(Mobility as a Service)です。
自家用車以外の全ての交通手段による移動を一つのサービスとして捉えるというものなのです。
これまで現在地から目的地まで行こうとすると、まず目的地の場所を調べます。
そして、交通手段は電車やバス、タクシーなど別々に選択する必要があります。
支払いについても別々に払わなければなりません。
それがMaaSを使うと、目的地までの電車やバス、タクシーなどを一括で検索・予約・支払いまで出来るようになるのです。
スイスで開催されている(放送時点)世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に日本の国土交通省大臣として初めて石井大臣が参加しました。
日米欧を中心とした、モビリティ分野をけん引する企業が出席し、MaaSが果たす役割や課題について議論されました。
その会議で、日本が共同議長を務めたのです。
既にアメリカやドイツなど、世界で導入が進むMaaSですが、生まれは北欧のフィンランド、首都のヘルシンキでは月額定額制で電車やバス、タクシーなどが乗り放題のサービスが生まれています。
このサービスの活用により自家用車の利用率が40%から20%へと半分に減った一方、公共交通機関の利用率は48%から74%へと増加しました。
渋滞の緩和につながり、環境にも優しいとして、世界が注目したのです。
実は既に日本でもMaaSの実証実験が行われています。
昨年11月からマイルートというアプリを使って、西日本鉄道(西鉄)とトヨタ自動車が実証実験を行っています。
須黒 清華 番組キャスターがこのアプリを使って、まずは明太子が食べられるお店を検索してみます。
飲食店やイベント情報のサービス事業者と連携しているので、移動手段だけでなく、行先を決めるのもこのアプリで出来ます。
いろいろあるお店の中から行きたいお店を選択して目的地に設定すると、出て来た移動手段はタクシー、自転車、電車にバスの4パターン、移動時間の速さや料金の安さも表示されます。
今回は安さ優先でレンタサイクルを選択、料金はたったの32円です。
そのまま最寄りの自転車置き場の空車確認が出来ます。
利用を確定すると、提携先のメルチャリのサイトにつながり、その場所まで地図案内をしてくれます。
決済はメルチャリのサイトを通じてスマホ一つで完了します。
ただ一つ問題があります。
車のようにカーナビを見ながら運転するわけにはいかないので、スマホ上に表示されたナビの道順を覚える必要があるのです。
自転車で移動すること8分、バスなどに比べ道路渋滞の心配もありません。
予定通り、目的地に到着しました。
次に設定したのは、人気のソフトクリーム店とカフェのはしごです。
今回はバスとタクシーを組み合わせて移動します。
バスの到着時間に合わせて、このままタクシーを予約することも出来ます。
バスの決済はこのアプリで完了、ソフトクリームを買い終わる頃には予約していたタクシーが到着していました。
このように複数のアプリを使わなくても一括で検索・予約・決済が完了するMaaS、西鉄では人の移動のデータを分析し、移動サービスの効率化につなげていきたいといいます。
西鉄 自動車事業本部の荒木 元太朗さんは次のようにおっしゃっています。
「バスや電車だったり、私たちの乗り物を使って移動していただいている方の状況は確認されていたものの、それ以外の方がどういう交通手段で福岡の街を移動していらっしゃるかっていうのは分かりませんでした。」
「このMaaSアプリ「マイルート」を使って実際にお客様の移動手段ですとか移動しているエリアが分かることで、私たちとしてはそのデータを生かして、例えばバスの路線を再編するですとか、更に皆様の移動をし易くしてもっと街を活性化出来たらなと思っています。」
こうした実証実験は西鉄以外にもJR東日本、小田急電鉄、東急電鉄など、鉄道会社を中心に各社で実施が予定されています。
政府はこのMaaSを都市ごとではなく、全国で連携し、国内どこでもMaaSを使って移動が出来る“日本版MaaS構想”を世界に先駆けて行うことを考えています。
東京大学生産技術研究所でMaaSについて研究を行っている須田 義大教授は次のようにおっしゃっています。
「社会にとっても全体の交通モビリティの最適化が期待出来ると。」
「例えば公共サービス、高齢ドライバーが免許返上ということで、(移動する)足がなくなってしまうと、バスのドライバー不足で路線が廃止になる可能性も出て来ている。」
「そういうことに対して非常に解決策になると。」
そのためには様々な民間企業が実証実験を進めているMaaSを縦割りにならないように連携する必要があるといいます。
須田教授は続けて次のようにおっしゃっています。
「日本の場合は交通事業は民間で動いてるということがありますから、一つは政府みたいな機関がきちんと旗を振る制度を作るということも必要・・・」
取材を担当した須黒キャスターは次のようにおっしゃっています。
「まだ実験段階なのでスムーズにタクシーの予約が出来ないですとか、アプリとサイトを併用しなければならないというようなことがまだあるんですけど、うまくいけば確実に時間短縮になると思いました。」
「導入する企業側としても、データを利用することで市内だけではなく、例えば交通の移動手段が少ない郊外などに需要のある時間にうまく配車するというようなこともしていきたいということでした。」
こうした状況について、番組コメンテーターで大阪大学の安田 洋祐准教授は次のようにおっしゃっています。
「(MaaSのメリットとディメリットについて、)MaaSの本質は、所有から利用への変遷だと思うんですよ。」
「どういうことかというと、今までモビリティを実現するためにはクルマや自転車といったものをも購入する必要があった。」
「それが移動サービスということを消費しているかたちに変わっていくと。」
「で、具体的に言うと、例えば日本でも地方、郊外というのは一家に1台、場合によっては一人1台クルマを持っていないと中々モビリティを確保できなかった。」
「そこにMaaSが入ってくることで、例えば最近でも高齢ドライバーが免許返納とかありましたけども、クルマという移動手段が無くなってしまうと、MaaSが実現しないと移動自体が出来なくなっちゃう。」
「それが出来るようになっていくというのが大きいメリットじゃないかと思います。」
「都市でももちろんメリットがあるんですけども、地方郊外で特に大きいメリットが期待出来るんじゃないかなと。」
解説キャスターの山川 龍尾さんは次のようにおっしゃっています。
「まずMaaSの概念が分かりにくいんですけど、よく今スマホで駅を入力して経路を探索するというのはみんな使うじゃないですか。」
「あれがドアからドアへっていうイメージ。」
「自宅から目的地を入れれば、そのまま移動手段が出てくるというふうにして、これで一番最終的にメリットがあるのは、特に高齢者の方の外出が増えて健康状態が良くなって、医療費の削減につながるところだと思っていまして。」
「(国土交通省都市局作成のグラフを見せて、)これは75歳以上の後期高齢者の方の、免許を持っているか持っていないかで外出率がこれだけ違うというグラフなんです。」
「運転免許ある方は73.7%、一方運転免許無しの方は49.5%」、駅まで行くのが高齢者の方はおっくうなんですよ。」
「そもそも地方に行けば、最寄りの駅までが遠いですからね。」
「ですから、ドアからドアまでの移動手段が出てくるというのは非常にありがたくって、安心して免許も返上出来るようになるというメリットがあると思いますね。」
「(ただし、共通化という課題があるということですが、)イメージとしては交通機関の、関東地方でいうとスイカとかパスモってありますね。」
「これいろいろシステム連携していろんなところで使えるようになりました。」
「バスでも使えるし、買い物も出来ますね。」
「ただ、最初はそうじゃなかったんです。」
「結局、後でシステム連携しようとすると、いろんな追加投資が必要になるから、ああいう共通化出来る部分は出来るだけ利用者の視点に立って、最初から共通化するというのが大事だと思いますね。」
一方、番組コメンテーターで大阪大学の安田准教授は次のようにおっしゃっています。
「先ほどモノからコトへという動きが進んで行くと。」
「で、モノの世界で、日本が一番産業の競争力が強いのは自動車産業なんですね。」
「自動車というモノを作っている分野が強いと。」
「それが、コト、移動サービスを提供していく時に、引き続き日本の自動車メーカーがその中心で居続けられるか、それとも別のタイプのプラットフォーマーが力をつけていくのか、日本としてはそこは競争力を落としたくないので、次のMaaSの世界でもきちんと覇権を取れるような投資が出来るか、そこがやっぱり焦点になってくると思います。」
解説キャスターの山川 龍尾さんは次のようにおっしゃっています。
「(それはつまり最初に共通化を先頭に立って出来るかどうかというところにもかかってのではという指摘に対して、)出来るだけ仲間づくりを最初に沢山したところが最終的には勝利者になると思いますね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
番組を通してまず分かったことは、MaaSの本質は“クルマという移動手段の所有から利用への変遷である”ということです。
次にクルマや電車、バスなど陸上の移動手段を取り巻く状況の変化を以下にまとめてみました。
・高齢者が自動車免許の自主返納などにより移動手段を失うこと(特に過疎化の進む地方において)
・少子高齢化による電車やバスなどの運転手不足の進行
・自動運転車の実用化が間近
・既にMaaSはアメリカやドイツなど、世界で導入が進みつつあること
・日本政府はMaaSを都市ごとではなく、全国的に連携した“日本版MaaS構想”を世界に先駆けて行おうとしていること
そしてMaaSのメリットについて以下にまとめてみました。
・複数のアプリを使わなくても一括で検索・予約・決済が完了出来ること
・自家用車の利用率が減る一方で、公共交通機関の利用率が増加し、その結果渋滞の緩和、およびCO2排出量の削減につながること
・交通モビリティ全体の最適化
こうしてみてくると、MaaSの推進により、クルマの所有から移動手段全般の共用へのシフトが進み、交通モビリティ全体の最適化のみならず、クルマを中心とした移動手段の生産量の最適化が図られ、それが省エネ、ひいては持続可能な社会の実現につながると、大いに期待が持てます。
しかしその反面、自動車メーカーの売り上げは削減されると見込まれます。
だからこそ、トヨタ自動車などは次の収益の柱としてカーシェアリングビジネスに取り組み始めています。
そして、この基本的な考え方は交通モビリティのみならず、他の分野にも広がりつつあるのです。
ということで、現在は“持続可能な社会”の実現に向けて、“所有からサービスへ”という大きな流れの中で、AIなどの先進テクノロジーや再生可能エネルギーをベースに産業も含めて社会全体の再構築が進みつつあると俯瞰出来そうです。