2019年04月17日
アイデアよもやま話 No.4305 拡大する「ギグ・エコノミー」!

昨年12月21日(金)付け読売新聞の朝刊記事で「ギグ・エコノミー」という耳慣れない、新しい働き方を意味する言葉を目にしたのでご紹介します。

 

「ギグ・エコノミー」とは、インターネット上のプラットフォームを通じて、単発の仕事を依頼したり、請け負ったりする働き方を意味します。

ほぼ同様の意味で「クラウドソーシング」、「クラウドワーク」、「オンライン・フリーランシング」などと呼ぶ場合もあります。

なお、「ギグ(gig)」とはライブハウスなどで行われるその場限りの演奏を意味します。

 

マレーシア在住のノーダリラ・モハメドさん(35歳)は、日本企業から市場調査などを受託する機会が多く、未明から家族が起きる早朝にかけて自宅で働きます。

収入が増えただけでなく、働き方に満足しているといいます。

 

国や地域を限定せずに仕事を受発注出来るプラットフォームには全世界で7000万人の働き手が登録しているとの推計もあります。

イギリスのオックスフォード大学インターネット研究所の調査では、その規模は2016年5月末時点と比べて直近(2018年12月)では20%程度増加しています。

また、大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の推計では、2020年までに「ギグ・エコノミー」の規模は金額換算で630億ドル(約7兆1000億円)に達します。

 

その勢いは国内にも及んでいます。

アジアの人材を主な対象にプラットフォームを運営するワークシフト・ソリューションズ株式会社(東京都渋谷区)はJTBと提携し、ギグ・ワーカーのノウハウを活用しながら訪日外国人の消費を取り込む試みを始めています。

新たな働き手は企業と個人にもたらすメリットの普及を後押ししてきました。

 

企業は外部から幅広い人材を確保出来ます。

社外からノウハウや技術を導入することで人材のミスマッチを解消し、技術革新や画期的なアイデアが生まれるとの期待もあります。

一方、働き手は空き時間に場所を問わず仕事が出来ます。

所得の向上にもつながる他、通勤することが難しいハンディを持つ人が在宅で働く機会も広がります。

 

英語圏の大手プラットフォームに登録した雇用者は、アメリカが約4割で最も多く、ヨーロッパが続きます。

一方で、働き手は世界中に広がっています。

ちなみに、「ギグ・エコノミー」で働く人の国別シェアは、インドが約25%と最も多く、次いでバングラデシュ、パキスタン、アメリカ、フィリピンと続いています。

主に欧米企業が発注した仕事を、アジアやアフリカのフリーランサーが請け負う構図です。

交通機関が整備されていない、工場やオフィスがない、といった悪条件でもプラットフォーム経由で仕事を見つけることが出来ます。

 

ただ、普及に伴う課題も指摘されています。

オックスフォード大学インターネット研究所が、あるプラットフォーム対象に実施した調査では、仕事を求める登録者は受注者を大きく上回っています。

インターネットの普及に伴う登録者の増加は、受注機会の減少や報酬の下落につながります。

同研究所のヴィリ・レードンヴィルタ准教授によると、最近ではプラットフォームが登録者を選別する傾向も見られます。

仕事の受注競争は更に激しくなっている可能性があります。

 

「ギグ・エコノミー」の広がりは、雇用のグローバル化を象徴する新たな動きとも言えます。

1980年代に始まったアウトソーシング(外部委託)では、主に先進国の大企業が低賃金の途上国に業務の一部を事業単位で移管し、コスト削減と競争力の強化を図りました。

これに対して現在の「ギグ・エコノミー」では企業はプラットフォームを介して個人に業務を発注します。

対象となる職種もソフトウェア開発や市場調査、翻訳など幅広いです。

インターネットの普及によって労働力の供給源は一段と広がろうとしています。

こうしたデジタル化の進展による雇用機会の拡大は、賃金水準の上昇を阻む可能性があります。

既に日米では失業率の低下が賃金の上昇につながりにくくなっています。

 

新たな働き方を巡る摩擦も起きています。

欧米では働き手が最低賃金の適用などを求める訴訟も起きています。

国内でも将来に備えるべきだとの声は多いです。

 

2020年から導入される「同一労働同一賃金」の実施は企業のコスト負担を増やす方向に働きます。

日本で通常は「自営業者」に分類されるギグ・ワーカーに対しては労働法などの保護は及びません。

「人件費を抑える手段として活用が広がれば、賃金の下落や長時間労働を助長する」との指摘もあります。(ニッセイ基礎研究所の金 明中さん)

 

新たな働き方に対応した制度をどう整えるか、労働政策研究・研修機構の山本 陽大さんは、デジタル化や人工知能(AI)の活用による第4次産業革命で先を行くドイツの動向に注目しています。

 

ドイツ政府は、2016年に公表した提言「労働4.0白書」の中で、社員でも自営業者でもない働き手を労働法の枠組みの中で保護するアプローチについて検討を行っています。

また、ドイツ金属産業労働組合(IGメタル)は、ギグ・ワーカーの加入を認めています。

仕事を受発注する企業と個人が国をまたぐことから、ヨーロッパの労働組合が連携する試みも動き始めました。

 

新たな働き方のメリットを損なわない枠組みの構築は、人手不足が進む中で企業が競争力を維持するためにも避けて通れません。

 

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

 

そもそも従来は、モノを購入する際には購入者がお店まで買いに行くというのが一般的でした。

ところが、インターネットが普及した今のネット社会では、お店まで出かけなくてもアマゾンなどのネット通販サイトで注文すれば、ほとんどの商品が全国どこへでも直接自宅まで届けてくれるようになっています。

 

同様に、仕事の受発注も「ギグ・エコノミー」という言葉が生まれる以前から既にインターネット上のプラットフォームを通じて単発の仕事を依頼したり、請け負ったりされて来ています。

それが今や「ギグ・エコノミー」という言葉が生まれるくらい、世界規模でどんどん広がりつつあるというわけです。

こうした流れの行き着く先は、ある業務を発注したい世界中のあらゆる企業と世界中の仕事を求める個人個人とがインターネット上のプラットフォームを通じて直接やり取りするようになるという状況です。

また、受注する個人同士が案件ごとに必要に応じて世界規模でチームを組んで受注するというような対応も派生的に出てくると思われます。

これに伴い、特定の企業に属さないプロジェクトリーダーの役割を担うスペシャリストも「ギグ・エコノミー」をうまく機能させる大きな存在となると思われます。

こうした状況の変化を受けて、企業としてはコアとなる社員がいれば業務が回っていけるようになるので、今後増々正社員の比率が少なくなっていくと思われます。

 

なお、洗練された自動翻訳技術がこうした流れを加速させるうえで大きく貢献することになると思います。


 
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