2019年02月15日
アイデアよもやま話 No.4253 全固体電池の最新状況 その2 全固体電池開発の3つのブレイクスルー!

これまで全固体電池(バッテリー)については、アイデアよもやま話 No.3597 自動車をめぐる新たな動き その3 次世代バッテリーは長持ちで安全!などでお伝えしてきました。

そうした中、昨年11月25日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で全固体電池の最新事情について取り上げていたので2回にわたってご紹介します。

2回目は、全固体電池開発の3つのブレイクスルーについてです。

 

前回お伝えしたように、1991年に液体を使ったリチウムイオン電池が実用化されました。

そんな中、東京工業大学 科学技術創生研究院の教授、菅野 了次さんは全固体電池にこだわって研究を続け、実用化の一歩手前まで来ました。

その背景には3つのブレイクスルーがありました。

1つ目が最も大事な固体電解質の発見です。

リチウムイオンを動かすために、どうしても必要な電解質、これが液体であれば塩が水に溶けるようにリチウムイオンも簡単に動くことが出来ます。

しかし、これが固体となるとほとんど反応を起こさないため、イオンが全く動きません。

何とかしてイオンを通すことが出来る特殊な物質を作り出さなければならないのです。

候補となる材料は山ほどあります。

菅野さんは30年もの間材料を手探りで配合し続けて来たのです。

材料と分量を少しずつ変えて作った電池はなんと1000種類以上、そして遂に2011年、固体の電解質を発見したのです。

それがリチウムとゲルマニウム、リンと硫黄を組み合わせたものでした。

こうして出来た全固体電池は、固体を使っているにも係わらず液体を使ったリチウムイオン電池とほぼ同等の性能を出せたのです。

ということで、前回お伝えしたように、2020年前半に全固体電池のEVの実用化を目指すという目標に対して7合目辺りまで登ることが出来たということなのです。

菅野さんは次のようにおっしゃっています。

「固体の中をリチウムイオンが速く動くと、それだけ電池にした場合には電流が沢山取れるということになります。」

「固体でリチウムが液体並みに動くというのは我々にとっても大変不思議な現象なんですけども、結晶構造を調べてみますと、固体の中にリチウムイオンが動く通り道が存在している。」

「この(番組で紹介された図)の場合は、ゲルマニウムとリンと硫黄とリチウムの一部ががっちりとした、動かない骨格構造をつくっていて、一部分のリチウムがまるで液体のように動いているということです。」

「(配合はどれくらい微妙な差でどれくらいの差が出るのかという問いに対して、)周期表から元素をピックアップして物質を作り出すんですけども、これまでの知識からどのような元素をどのような割合で組み立てると物質が出てくるという、大体予想はつきます。」

「でも実際にその性質が出てくるかどうかというのは、実際に物質を作ってみないと分からないので、それはこの組み合わせでいくかなと作ってみて、自然に聞いてみて、「ああ、それはダメなんですよ」っていう回答が返って来たり、すると「この組み合わせ、この割合でいいですか」って試すと「その割合でいいですよ」っていう、物質との会話を交わしながら物質を作り出していくという作業を長い間やってみて、ようやく液体並みのものが見つかったということです。」

「イオンの動きがそれほど良くない時には、やはり物質はそうは簡単に考えてないんだなというのを読み取るというのは、それも面白いところですね。」

 

次は2つ目のブレイクスルーです。

こうして山の目標の7合目辺りまで来たわけですけども、固体電解質の実用化に向けては、ある課題がありましたが、菅野さんは次のようにおっしゃっています。

「ゲルマニウムは少し価格が高い元素ですので、このゲルマニウムをもう少し使い易い元素に置き換えるということが次の課題としてありました。」

 

周期表でみると、2011年に見つかった固体電解質はリチウム、リン、硫黄、ゲルマニウムの4つを使っていました。

このうちのゲルマニウムを他の物質に変えなければなりません。

そこで注目したのが、その周りのシリコン、ガリウム、ヒ素、スズです。

周期表の並びの近くにある元素は近い性質を持っているからです。

そこで、これらの元素を使って固体電解質を作る研究を進めました。

しかし、ゲルマニウムを他の元素に置き換えるとイオンの動き易さである導電率が半分以下になってしまうこともありました。

中々うまくいかない中で、ある研究員が不思議なことに気が付きました。

塩化リチウムを使った時にイオン導電率が少し良くなるように思えたのです。

塩化リチウムは塩素とリチウムの化合物です。

この塩素は電池にとって不純物でしかないため、注目していませんでした。

しかし、ゲルマニウムの代わりにシリコンを使い、少し塩素を添加したところ、それまでの性能をしのぐ、リチウム、シリコン、リン、硫黄、塩素の化合物による固体電解質が2016年に出来たのです。

ゲルマニウム入りの固体電解質のイオンの通り道に比べて、新しい固体電解質のイオンの通り道は広がり、まるで高速道路のようになっていたのです。

電池の性能を調べると、なんとゲルマニウム入りのものの3倍もの電気を流すことが出来たのです。

ということで、ゲルマニウムを使わない固体電解質が出来たことで、少し山を登ったということなのです。

菅野さんは次のようにおっしゃっています。

「少し別の元素を加えることによって、元の物質の性質を様々に変えることが出来ます。」

「たまたま塩素を入れた時に、リチウムイオンがより動き易くなったということですね。」

「この物質(塩素)の場合は、企業から来られた研究者の方が非常に多くの実験をされて、それでこの非常に複雑な組成でこの物質が存在して、それでリチウムイオンがよく動くというのを見つけた。」

「(番組で紹介された図では、)リチウムイオンの通り道が縦の4本に加えて、横もつながっているんですね。」

「3次元的にイオンが動き回るということがこれから分かります。」

「(2次元から3次元に動き回れることになったことはかなり大きいことなのかという問いに対して、)そうですね。」

「実際、この物質を電池に使う場合は粉末のかたちで使うんですけど、粉末を組み合わせた時に、やはり一方向にしか動かないと粒子と粒子の間で止まってしまいますけども、3次元的に動くとどういうかたちをしていてもスムーズに動き回るというので、3次元的に動き回るというのは、実際に電解質に使う場合には大変重要です。」

「電流が3倍取れるということなので、充電、放電の電流が沢山取れるということになります。」

「(だから充電が速くなる、3分の1になるのかという問いに対して、)基本的にはそう考えています。」

「(これまでリチウムイオン電池の問題となっていた熱との相性について、)この固体は500℃に上げた電気炉に入れて焼いて合成して作りますので、500℃までは安定ということになります。」

「電池にした場合には電極と電解質の反応がありますから500℃までは上げられないんですけども、100℃でも150℃でも電池としては動くだろうということは予想されます。」

「リチウムイオン電池では安全性の問題もありますので、60℃以下で使うように今設定されています。」

 

こうした全固体電池が高温でも使える可能性について、実験の結果で示されています。

100℃の環境で電池の性能を調べたグラフでは、充電と放電を1000回繰り返しても全く劣化しませんでした。

 

しかし、まだ山の頂上までは道のりがあります。

それが3番目のブレイクスルーです。

それは界面の問題です。

+極、−極の電極があって、それに挟まれるかたちで固体電解質がありますけども、リチウムイオンが流れていく境に界面と呼ばれるものがあるのです。

とてもイオンの動きが素晴らしい固体電解質が出来たんですけども、それを使って電池をつくると、思ったほど電気が流れなかったのです。

物質・材料研究機構の高田 和典拠点長は、固体電解質が硫黄の含まれた硫化物であることが問題ではないかと考えており、次のようにおっしゃっています。

「開発の進んでいる固体電池は、電解質に硫化物を使っています。」

「なぜ硫化物がいいかというと、イオンが高速で流れる。」

「電気が流れ易くなって、電池としては大きな電流が出るんですけど、今後は逆に+極がリチウムイオンを引き抜こうとした時にあっさりと引き抜かれてしまう。」

 

+極に使われているのは、コバルト酸リチウムという酸化物、一方固体電解質は硫黄が含まれた硫化物です。

これをくっつけると、酸化物の方がイオンを引きつける力が強いために、元々固体電解質にあった界面のリチウムイオンを引き抜いてしまいます。

すると、空間が出来て不均一になります。

これがイオンにとっての壁になってしまうと考えたのです。

そこで高田さんは+極と固体電解質の間にイオンが引き抜かれるのを防ぐ膜を入れることにしたのです。

 

その作り方を見てみましょう。

+極の物質を装置にセットします。

電圧をかけると、下の白い部分が光り始めました。

ここにあるのが薄い膜の材料、チタン酸リチウムです。

プラズマでその分子を霧吹きのように飛ばすことで、+極の上にナノレベルの薄い膜が出来ます。

ピンク色に見えるのがチタン酸リチウムの膜、これを固体電解質と混ぜて電子顕微鏡で見てみると、固体電解質と+極の間に数ナノメートルの膜が入っているのが見えます。

この状態で電池をつくり、性能を調べてみました。

すると、膜が無い場合、出力は200w程度でしたが、膜を付けただけで600wと3倍以上になったのです。

菅野さんは次のようにおっしゃっています。

「実際に、間に入れた層がどのような役割をしているかというのは、本当のところはまだよく分かっていないところです。」

「でも、1層入れないとうまく動かないことは分かっていますのですで、そこでどういう現象が起こっているかというのをまだもう少し詳しく調べて、もっとよく動くような状況にならないかというのは今の研究で進んでいます。」

「(今、何合目かという問いに対して、)9合目まで行ったと思いたいんですけども、まだちょっと下かもしれないですね。」

「頂上に近くなればなるほど登るのが厳しくなる。」

「今も多分そういう状況かと思います。」

「我々が使えるようなデバイス、電池そのものに仕上げるというには、どのようにして電池を組み立てるかというプロセスの技術開発が必要になります。」

「そこが今、大変大きな課題になっています。」

 

「(今後、この研究をどのように進めていくのかという問いに対して、)固体電池のプロジェクトとしては、今現在国が主導で自動車メーカー、電池メーカーが集まってクルマ用の大きな固体電池を作ろうというプロジェクトがつい最近スタートしました。」

「2020年代前半の目標が達成出来ればいいなと思っていますけども。」

 

「(2020年代前半には電気自動車(EV)というかたちになっているが、携帯電話にも使えるのではという問いに対して、)そうですね。」

「こういう新しい電池が出来るとなると、またデバイスとしても別のデバイスが出来るのではないかと、いろんな発想が多分広がると思います。」

「全固体電池が実用化出来て、我々の世界がもし少しでも変わるんであれば、この基礎研究に携わっている研究者としては大変ハッピーですね。」

 

まさに界面の問題を解決することで、また更に山を登れたということなのです。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

ご紹介したように、全固体電池の実用化に向けては、以下の3つのブレイクスルーがあるといいます。

  1. 固体電解質の発見

  2. ゲルマニウムの代わりになる低価格で電気が流れ易い物質の発見

  3. 界面問題の解決

 

そこで、そもそもなぜリチウムイオンを動かすために必要な電解質として固体を使うというアイデアが浮かんだのか気になるところです。

ほぼ全ての人はこうしたアイデアを“あり得ない”と簡単に片づけてしまいます。

ですから、画期的なアイデアというものは、ある意味で常識に囚われない、周りからは変人と思われるような、ごく限られた人から生まれるのだと思います。

ちなみに、今NHK総合テレビで放送中の朝ドラ「まんぷく」の主人公もインスタントラーメンを発明しましたが、当初は周りの誰にも全く理解されませんでした。

しかし、今やインスタントラーメンは世界的に大量に普及し、無くてはならない存在になっています。

 

そして、菅野さんは30年もの間、材料を手探りで配合し続け、遂に2011年に固体の電解質を発見したのです。

その間、材料と分量を少しずつ変えて作った電池はなんと1000種類以上といいます。

ここであらためて思い出されるのは次の2つの言葉です。

 

アイデアは既存の要素の組み合わせである

アイデアは存在し、見つけるものである

 

菅野さんがこうした言葉をご存知だったかどうか分かりませんが、きっと心の中ではこうした信念があったと思います。

そうでなければ、30年間という長い期間にわたって固体電解質の発見を続けることは出来なかったと思います。

 

なお、3つのブレイクスルーは突破出来たようですが、残る大きな課題は、どのようにして電池を組み立てるかというプロセスの技術開発だといいます。

そして、2020年前半に全固体電池のEVの実用化を目指すといいますから、とても楽しみです。

また、全固体電池は携帯電話などのデバイス、あるいは一般家庭用バッテリーとしてなど、その用途は様々な広がりがあります。

ですから、是非計画通りに実現していただきたいと思います。

 

さて、全固体電池もそうですが、優れた発明にはその厳密な裏付けが解明されていないケースがあります。

ですから、当初は詳細な裏付けが解明されないまま実用化されますが、徐々に解明が進むにつれて更なる改善がなされていくのです。


 
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