2019年02月14日
アイデアよもやま話 No.4252 全固体電池の最新状況 その1 全固体電池の持つ3つの優れたポイント!

これまで全固体電池(バッテリー)については、アイデアよもやま話 No.3597 自動車をめぐる新たな動き その3 次世代バッテリーは長持ちで安全!などでお伝えしてきました。

そうした中、昨年11月25日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で全固体電池の最新事情について取り上げていたので2回にわたってご紹介します。

1回目は、全固体電池の持つ3つの優れたポイントについてです。

 

昨年、筑波サーキットで行われた自動車レース「全日本 筑波EV 55kmレース大会」、走っているのは全て電気自動車(EV)です。

これらのクルマはリチウムイオン電池によって走っています。

このリチウムイオン電池には今はまだ性能に限界があるため、レースをするのは大変なのです。

 

(大変さ その1)

この自動車レース、予選と決勝の間に充電のため5時間半も空いています。

レースは55kmを走るのですが、予選で電池を使い過ぎると55kmを走り切れないこともあるので、充電タイムが5時間半も必要なのです。

 

(大変さ その2)

レースでは大きなクルマも小さなクルマも全て一緒に走ります。

優勝候補の筆頭は、最も大きい電池を積むテスラの「モデルS」です。

でも、電池が大きくても乗り方を間違えると思わぬ負けを喫してしまうところがEVの怖いところだといいます。

 

敢えて間違った電池の使い方をした、東大阪市消防局の実験です。

リチウムイオン電池は、高温になり過ぎると発火する危険があります。

そのためEVは、安全性を考えて電池が熱を持つとスピードを抑える仕組みになっています。

ドライバーは、無駄なブレーキングをしないなど、電池の使用を控えるための注意が必要です。

 

結局、このレースで優勝したテスラ「モデルS」も2位の日産「リーフ」もほとんどリチウムイオン電池を使い切った状態でゴールインしていました。

電池の性能を極限まで使うEVレース、でもこの極限状態ももうすぐ終わるかもしれません。

実は、日本の研究者が執念を燃やし、30年かけて全く新しい電池を開発したのです。

それが全固体電池です。

リチウムイオン電池の3倍もの電気を溜められ、高温でも使える夢の電池です。

一体どんな電池なのか、その正体に迫ります。

 

実は、今の国産の市販のEVは最高で航続距離400kmくらいとされていますけども、全力で走る先ほどのレースですと55kmも持たないのではないかとも言われています。

ところが、全固体電池には優れた点が3つあります。

  1. 熱に強く安全

  2. 容量が従来のリチウムイオン電池の3倍

  3. 充電時間が従来のリチウムイオン電池の3分の1 

一体どういうことなのでしょうか。

まず、私たちが日常的に使っているリチウムイオン電池の構造ですが、+極とー極に挟まれて存在する電解質、その部分には液体が使われています。

電球をつなぐと、ー極にあるリチウムが電子と無数のイオンに分かれ、電子が回路を通ることで電気が流れます。

同時にリチウムイオンが液体の電解質を通って再び+極で合流します。

更に充電器をつなぐと逆の反応が起こり、充電も出来るのがリチウムイオン電池の画期的なところなのです。

ただ問題もあります。

1つは漏れてしまうことです。

それを防ぐために、液体を使っている電池は丈夫な箱やセパレーターが必要になり、電池自体が大きくなってしまいます。

更に、液体の中にはいろいろなものも溶け込んでいるので、高温になると化学反応を起こして余計な物質が電極に付いてしまうのです。

すると、中を通っていったリチウムイオンが移動しづらくなり、劣化にもつながるということがあります。

ところが、液体が全て固体になると、リチウムイオン以外は移動しないので、熱に強くてEVに向いているということになります。

 

そこで、今回は全固体電池の実用化までの道のりを登山に例えてみました。

目標としては2020年前半、およそ5年後までに全固体電池のEVの実用化を目指しています。

今は8合目あたりまで来ているというイメージです。

でも、実はこの山自体がとても高く、そして誰も登ったこともない山だったのです。

ですから、この8合目まで来るのに、30年以上の研究の月日が費やされてきたわけです。

 

全固体電池を開発したのは、東京工業大学 科学技術創生研究院の教授、菅野 了次さんです。

30年以上にわたって、電解質となる固体を探し続けてきました。

実は、菅野さんが全固体電池の研究を始めて10年くらいしたところで、大きな出来事がありました。

1991年に液体を使ったリチウムイオン電池が実用化されたのです。

開発者の一人、吉野 彰博士は2018年に日本国際賞を受賞、今やノーベル賞候補の一人にもあげられています。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

まず驚いたのは、今期待を集めている全固体電池の研究が30年以上も前から続けられてきたという事実です。

そして、この研究に長年携わられてきた菅野さんは、番組で見る限り、とても温和で優しそうな感じを受けましたが、その内面はきっと優れた研究者に必須の不屈の精神が宿っているのだと思いました。

また、リチウムイオン電池の開発者がノーベル賞候補にあげられているといいますから、菅野さんもいずれノーベル賞候補にあげられるはずです。

 

さて、番組では全固体電池には優れた点が3つあると伝えていますが、リチウムイオン電池に比べて大きなメリットが抜けていると思います。

それは、以下の2つです。

  1. 長寿命

  2. 低価格 

現在市販化されているEVの搭載しているリチウムイオン電池の設計寿命は8年くらいです。

また、走行距離によっても寿命は変わってきます。

 

ちなみに、私は初代「リーフ」に乗っておりましたが、そのフル充電での航続距離(カタログ値)は200kmでした。

しかも設計寿命は5年でした。

しかし、購入して7年ほどで走行距離は7万kmでしたが、その時点での実質的な航続距離は100km程度になっていました。

ここまでフル充電での航続距離が落ちてくると、ちょっと遠くまでドライブするとなると、必ず途中で急速充電しなければならないので、ニューモデルの「リーフ」に買い替えることになったのです。

 

このように、リチウムイオン電池には、現在のEVの普及に大きな貢献を果たしたという実績はありますが、その技術的な限界から爆発的な普及にはつながっていません。

しかし、全固体電池には、リチウムイオン電池の持つ技術的な限界を突破し、EV普及の起爆剤となり得るメリットがあります。

更に、全固体電池をスマホやカメラなど様々な分野に適用すれば、充電回数や突然のバッテリーの発火リスクを減らすことが出来ます。

 

ということで、具体的な寿命の長さや大量生産技術など、まだ課題は沢山あると思いますが、全固体電池の実用化に向けての動きは、まさに“乞うご期待”というところです。


 
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