昨年10月10日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で高齢者の認知症対策に挑む社内ベンチャーについて取り上げていたのでご紹介します。
ジョージ・アンド・ショーン合同会社(東京都渋谷区)創業者、井上 憲CEOは、2016年に起業する前に、どこの家族にも起こり得るある問題に直面し、仕事が手につかない状態でした。
井上さんは次のようにおっしゃっています。
「私の祖母が認知症で、徘徊を始めたのが最初のきっかけです。」
井上さんのお婆さんが徘徊を始め、市販の見守りセンサーを携帯してもらおうとしたのですが、「そんなの重そうだし、管理されるみたいで嫌だわ」と言われてしまいました。
そこで井上さんが起業して生み出したのが「ビブル(biblle)」という端末です。
井上さんは次のようにおっしゃっています。
「「ビブル」という端末を使って、位置情報を見ることが出来るサービスになっています。」
この「ビブル」という小さな端末、重さはわずか9gです。
実際に、番組キャスターが認知症患者に成り代わって周辺を歩き回ると、一方、その頃オフィスでは、番組キャスターがどこを通ったか一目瞭然です。
どういう仕組みかというと、街行く人々のスマホやタブレットなどに「ビブル」のアプリを入れておくと、「ビブル」端末が近くを通った時に感知し、位置情報を把握出来るのです。
この情報を元に番組キャスターを追いかけてみると、徘徊する人を見つけ出すことが出来ます。
この「ビブル」端末は、電池の消費が多いGPSを使わないので、小型の電池だけで半年は使い続けられます。
ちなみに端末代は3996円です。
また通信料などもかからず、最初の購入代金だけでサービスを使い続けることが出来ます。
しかし、この仕組みでは、人がいない場所や時間帯はどうするのかという疑問が湧いてきます。
この件について、井上さんは次のようにおっしゃっています。
「そうですね、そうするとどうしても機能しなくなってしまうんですが、例えば自動販売機やコンビニエンスストアの中にも、モバイル端末があったり、ネットプリントがあったりするので、そういうモノとすれ違っても拾えるようにするような開発を今進めています。」
既に、大手飲料メーカーやコンビニなどと「ビブル」端末の読み取りに協力してもらう方向で詰めの作業を行っています。
そんな活動の一方で、井上さんは今もIT大手の日本オラクルの社員なのです。
「ビブル」端末を手掛けるジョージ・アンド・ショーンはあくまで副業として立ち上げました。
日本オラクルの同僚や上司は、井上さんの経験が他のビジネスを進める上でお客さんにリアルになる、あるいは話の幅が広がったというように好意的に捉えています。
このように、ジョージ・アンド・ショーンの従業員、9人中8人が本業の合間に副業として働いています。
井上さんは次のようにおっしゃっています。
「みんな兼業のスタイルで生活をある程度安定させながら、新しいサービスをゆっくりと、きちんと戦略に合わせて起こしていきたいという思いがあって、・・・」
井上さんたちが取り組む認知症との戦いは、大企業を巻き込んで新たな展開を見せています。
住宅型有料老人ホーム、スマイルらいふ寝屋川で、入居者の男性にクイズを出すのはシャープのロボホンです。
実はロボホンを使い、会話に反応する速さなどのデータを集めています。
他にも「ビブル」の位置情報をNTT西日本の機械が読み取り、行動履歴もデータとして集めています。
多様なデータを集める目的の一つが、認知症になる前に、認知機能の低下を知ることです。
認知症の発症前に適切な治療をすれば、回復する可能性があると言われているためです。
井上さんたちは、行動履歴などの情報をAIに読み込ませ、認知機能の低下を検知するシステムを開発中です。
一昨年度行われた実験では、80%以上の確率で症状を予測することが出来ました。
井上さんは次のようにおっしゃっています。
「高齢者の生活を少しでも改善出来るようなサービスを模索して作っているところではあります。」
「中々単純に、すぐ儲けになるわけではないんですけど、長い目でプラットフォームとして育てていって、いろいろなサービスに展開していけるようなシステムにしていきたいなとは思っています。」
街中の見守りサービスが成立するためには、街中の人がアプリをダウンロードしておく必要がありますが、井上さんたちは高齢者だけでなく子どもやペットの見守りにも用途を広げていくということです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
高齢者の認知症対策をプロジェクト管理の手法で考えると、認知症にならないようにするリスク対応策と、認知症になってしまった後のコンティンジェンシープランに大別出来ます。
そして、この2つの対応策は以下のような内容にまとめられます。
(リスク対応策)
・リハビリなどによる認知機能向上のための対応策
・認知症発症前の認知機能低下の早期発見
(コンティンジェンシープラン)
・認知症の症状改善のための治療
・徘徊など認知症患者の問題行動に対する対応策
このようにまとめてみると、ロボホンを使った取り組みはリスク対応策であり、「ビブル」を使った取り組みはコンティンジェンシープランとして位置付けられます。
また、認知症の対応策全般からみると、更にリハビリセンターなど医療機関との協業が有効です。
高齢化社会到来に伴い、今後とも認知症患者の増加が見込まれ、それに伴う対策は増々重要になってきます。
ですから、是非、井上さんには総合的な観点から認知症対策に取り組んでいただきたいと思います。
なお、ビジネス的な観点では、井上さんもお考えのように、「ビブル」を使った取り組みは子どもやペットの見守りにも適用出来るので潜在需要はかなり期待出来ると思われます。
また「ビブル」端末が3996円とそれほど高くなく、しかも毎月の利用料金は発生しないところはとても魅力です。
ですから、是非「ビブル」の利用可能エリアを広げて、より多くの人たちがこのサービスを使えるようにして欲しいと思います。