昨年9月27日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でノルウェー発の画期的な洋上風力発電について取り上げていたのでご紹介します。
風力発電は次世代のエネルギー源とされますが、陸地や水深の浅い海など、設置出来る場所が限られるというのが課題でした。
しかし、北欧からやってくる“黒船”がこの課題を解決し、発電の場所が一気に広がりそうです。
東京都千代田区にあるオフィスビル、ここに昨年9月27日に年間売上高約7兆円のノルウェー国営石油会社、エクイノールが日本支店をオープンしました。
ポール・アイトラハイム副社長は次のようにおっしゃっています。
「日本は洋上風力発電で大きな可能性がある。」
「うまくいけば日本と一緒に協力出来る。」
その実力を探るため、番組は今回ノルウェーに向かいました。
南西部に位置する港町、スタバンゲル、エクイノールが本社を構える町です。
町から船に乗ると、ほどなくして氷河が山や陸地を削って出来たフィヨルドの雄大な風景が広がります。
こうした豊かな観光資源に加え、エクイノールなどが運営する世界屈指の北海油田が経済を支えてきました。
しかしエクイノールは今、化石燃料からの脱却が進み、将来に備えています。
船は風や波が強い沖合へと進み、激しい揺れで取材スタッフも船酔い状態です。
やがてエクイノールが開発した世界初の洋上風力発電の大きな風車が見えてきました。
最大の特徴は、海の上に浮いているところです。
この風車、水深200mの海にまるで茶柱のようにまっすぐ浮かんでいます。
風車の柱は水中に100m伸びていて水面から上の高さも100m、重さは5300トンですが、重心は水中にあり、風を受ける羽の活動を自動で調整し、直立のまま安定させているといいます。
プラントマネージャーのネノート・ケセリックさんは次のようにおっしゃっています。
「羽の中心に内蔵したシステムが揺れを制御し、安定させている。」
洋上の風力発電は柱を海底に突き刺す着床式というタイプが主流ですが、エクイノールは海に浮かべる浮体式の技術を世界で初めて確立させました。
浮かんでいる柱は柔軟に動いて風を受け流せるため、地面に固定された着床式より暴風に強いのです。
既にスコットランド沖で海面からの高さが170mを超える巨大な風車5基を実用化し、沿岸の2万2000世帯に電気を供給しています。
ノルウェー沖にも更に11基を設置する計画で、着々と事業の拡大を進めています。
ケセリックさんは次のようにおっしゃっています。
「浮体式の風力発電では我々が世界で最も経験を積んでいる。」
今回、エクイノールは日本にこの“浮かぶ風車”を売り込もうというのです。
エクイノールの幹部、ソニア・クレーグさんは次のようにおっしゃっています。
「日本の海は風も良く、沖合での発電能力は高い。」
「特に海が深いので“浮体式”が適している。」
さて、ノルウェーでの海底油田に携わる企業の商談会ですが、会場内で目立つのが風力発電の風車の模型です。
世界のエネルギー供給に占める風力発電などの再生可能エネルギーの割合は2040年には40%にまで急拡大すると予想され、次世代のエネルギー源として注目を集めています。
石油採掘企業の関係者は次のようにおっしゃっています。
「浮体式風力発電が急激に伸びている。」
「5年以内に石炭火力発電の強力な競争相手になるだろう。」
「私も“石油ガス事業担当”だから、“次世代エネルギー担当”になった。」
また、別の企業の関係者は次のようにおっしゃっています。
「風車が大きくなり、技術も成熟して浮体式風力発電の大きな市場が出来る。」
「世界の海が浮体式風車で覆われれば、原子力や特に火力発電を取り除ける。」
ビジネスチャンスを見出す日本企業もあります。
横河電機では、海底油田からガスなどが噴き出した時、洋上の設備を守る装置で世界シェア7割を誇ります。
浮体式風車の広がりで、今後同じく自社が開発した無人管理システムに商機が生まれると期待しています。
横河電機の日高 佳久さんは次のようにおっしゃっています。
「洋上風力発電は基本的に無人なので、この技術が転用出来ると思っています。」
「こちら側(陸地)で風力を適切にモニタリングして監視、管理することは可能だと・・・」
一方、発電の要となる浮かぶ風車は現在福島沖など、日本でも実証実験が行われていて、特に先頭を走る戸田建設は長崎県五島列島で1基の実用化に成功しました。
ただエクイノールが既にこの3倍もの発電能力を持つ巨大風車を複数稼働させていて、日本勢は後れを取っているのが実情です。
これを見て日本企業を支援する日本財団は、日本とエクイノールなどノルウェー企業との共同研究開発を可能にする基金を設立、約12億円の枠組みで先進国、ノルウェーから学び、後を追います。
日本財団の海野 光行常務理事は次のようにおっしゃっています。
「やはり日本に海外の事業者がどんどん入って来るかもしれないという危機感があります。」
「日本の技術を生かした中で、日本の企業が浮体式発電の施設などを運用していける力をつけてもらいたい。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
国内では再生可能エネルギーと言えば、太陽光発電、中でも主に企業が推進しているメガソーラーが主流です。
そして、最近ではクルマでの移動中、あちこちで空き地や山を切り崩した跡地に沢山の太陽光パネルが敷き詰められたメガソーラーの光景を目にするようになりました。
特に、今まで木々に覆われていた緑の山だったところがメガソーラーに置き換わった光景を目にすると再生可能エネルギーの普及と環境破壊の進行とのジレンマで複雑な気持ちになってしまいます。
しかも、以前お伝えしたように、メガソーラーに限らず、太陽光発電パネルは巨大台風などの強風になると剥がれて飛んで行き、凶器と化す可能性があるのです。(参照:No.3312
ちょっと一休み その529 『突風被害の指標に見る地球温暖化の影響の怖さ』)
風力発電の場合も同じで、更に騒音の問題もあります。
こうして見てくると、今回ご紹介した洋上風力発電の持つ可能性についてもっと真剣に取り組む必要性を感じます。
その際の考慮点を以下にまとめてみました。
・より高い発電効率
・巨大台風などの強風対策
・海洋環境への影響の有無
・遠隔操作などの管理システム
・火力発電との費用対効果の比較
そこで、番組でも取り上げていた日本財団による、日本とエクイノールなどノルウェー企業との共同研究開発を支援する動きはとても理に適っていると思います。
是非、無人の洋上風力発電の管理システムの技術に強い横河電機やアイデアよもやま話 No.3369 ”町工場”の逆襲!でご紹介したベンチャー企業の株式会社チャレナジーなども巻き込んでより優れた洋上風力発電の実用化に向けた取り組みを進めていただきたいと思います。