リーマンショックについては、プロジェクト管理と日常生活 No.361 『あらためて感じるリーマンショックの罪深さ』やプロジェクト管理と日常生活 No.552 『金融危機は10年周期!?』でお伝えしてきました。
そのリーマンショックから既に10年を経過しましたが、その教訓は生かされているかについて2回にわたってご紹介します。
2回目は、昨年9月14日(金)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)を通して、日本社会に残した傷痕についてです。
リーマンショック時には日本でも多くの企業が打撃を受け、リストラや派遣切りが深刻化しました。
あれから10年、企業は、雇用はどう変わったのか、リーマンショックが残した日本社会への爪痕を番組が追いました。
日本、アメリカ、ユーロ圏のGDP(国内総生産)を比較すると、リーマンショックが起きた2008年を見ると、日本が一番落ち込んでおり、危機の震源地であるアメリカよりも経済的な影響を受けたと言えます。
その影響を番組で取材を進めていくと、日本企業に今も色濃く残っていることが分かりました。
大手照明機器メーカー、岩崎電気株式会社、従業員は約2000人、工場やスタジアムなどで使う照明を製造しています。
社長の伊藤 義剛さん、10年前は経営戦略を担う部署の部長でした。
当時の会社の売り上げは700億円余り、海外にも販路を広げていましたが、そこに突如リーマンショックが襲いかかったのです。
売り上げは1年で100億円減少、海外からの注文はパタリと止まりました。
当時について、伊藤社長は次のようにおっしゃっています。
「急に仕事が冷え込んできて「先行きどうなるんだろう」というようなかたちがあったのを覚えていますね。」
危機に直面し、会社がまず手を付けたのは最大15%の給与カットです。
その後、グループ会社の統廃合なども行いましたが、売り上げの減少分は補えませんでした。
リーマンショックから3年後、会社は正社員100人の希望退職を募りました。
伊藤社長は退職希望者との面談を行いました。
当時について、伊藤社長は次のようにおっしゃっています。
「面接するのは当然先輩ばっかりなんですね。」
「昨日まで一緒だった人が辞めていくわけですから、それはいい感じではなかったですけどね。」
何とか危機を乗り切り、売り上げはリーマンショック前の8割まで回復しましたが、業績は伸び悩んでいます。
国内市場の縮小に加え、LED照明を安く作る新興国のメーカーと厳しい競争にさらされているためです。
伊藤社長は、給料を上げたくても十分に社員に還元出来ないジレンマを感じています。
「社員の皆さんには、出来るだけ給料を払いたいんです。」
「やはり一度縮小したマインドは、正直言ってまだ完全に戻っていないのかなというのがありますね。」
リーマンショックが一つの要因になって、企業経営者は縮み思考になっており、日本経済にとっても大きな問題になっています。
このことは統計からも分かります。
民間企業の現金・預金はリーマンショック以降、ずうっと上がっていって2017年度は過去最高の約260兆円になっています。(出典:日銀
資金循環統計)
この資金は、会社として次に何か起きた時のためにため込んでおきたいという心理が働いているものと解釈出来ます。
このことを働く側の人の立場で見ると、40代前半の平均月収(大卒男子 正規社員)を年代ごとに比べると、以下のようになります。(出典:日本総研まとめ)
15年前 49万円
10年前 50万円
5年前 46万円
現在(*) 43万円 *2018年
リーマンショックが40代前半の人たちにどのような影響を与えているのかを探ります。
リーマンショックの煽りを受けてリストラされた40代のある男性は、リーマンショックが起きた当時、広告代理店で働いていました。
ところが1年後、会社は業績不振を理由に男性を解雇しました。
この10年、男性はたびたび転職を余儀なくされ、給料も上がりませんでした。
結婚し、子どもが生まれたばかり、人材サービス会社に勤めた手取りは約23万円、年収は390万円ほどでした。
その後、塗料メーカーに転職し、月給は5万円ほど増えましたが、“自分たちは報われない世代だ”という思いはぬぐえません。
この男性は次のようにおっしゃっています。
「辛い時も勿論ありますし、もう少し時代が変わっていればと思うこともありますけど、受け入れるか、飲み込むかして、何とかしていかないといけない、何とか生きていくしかないかなという感じですね。」
リーマンショックによる影響を強く受けた40代、大和総研 経済調査部の小林 俊介エコノミストは次のようにおっしゃっています。
「10年経ってリーマンショックの傷痕からかなりの程度回復してきているということ自体は事実だと思います。」
「しかしながら一方で、企業の事業戦略として即戦力を求めていると、しかも若年層の即戦力を求めている。」
「そうした中で、固定費が高いミドルシニア層に対して必ずしも目線がいっていない。」
「こういうことが起きている。」
40代前半の働き盛りで給料が上がらないという苦しい状況の理由について、番組キャスターの豊永 博隆さんは次のようにおっしゃっています。
「この世代は、転職を余儀なくされて、専門性を培う機会を逃してしまったり、あるいは企業がこの期間、人材育成への投資を減らしたことで十分な教育を受ける機会がなかった、そういう人が多いっていうことなんですよね。」
「そのために景気が回復してきても中々賃金が上がらないということにつながるということなんですよね。」
「今回の取材を通じて、金融危機の最前線にいた人たちからは“危機はまた起きる”、あるいは“2つと同じかたちで起きない”、こんな言葉を聞きました。」
「紛争や事故などと違って、金融危機は目に見えるかたちでは現れにくいということがありますよね。」
「それだけに、関心を持って知ることこそが次の危機を防ぐ原動力になるのではないかと感じました。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
まず、リーマンショック以降の日本の状況について、番組を通して分かったことを以下にまとめてみました。
・リーマンショックが一つの要因になって、企業経営者は縮み思考になっており、日本経済にとっても大きな問題になっていること
・民間企業の現金・預金はリーマンショック以降増え続け、2017年度は過去最高の約260兆円に上っていること
・40代前半の働き盛りの世代は、転職を余儀なくされて、専門性を培う機会を逃していること
・40代前半の平均月収(大卒男子 正規社員)は下がり続けていること
・金融危機の最前線にいた人たちからは“危機はまた起きる”、あるいは“2つと同じかたちで起きない”という声があること
・金融危機は目に見えるかたちでは現れにくいこと
・関心を持って知ることこそが次の危機を防ぐ原動力になること
前回もお伝えしたように、やはり日本経済は今もリーマンショックの傷痕が残っているのです。
しかも40代前半の働き盛りの世代は、専門性を培う貴重な機会を逃しており、平均月収も下がっているのです。
ところが、番組でも指摘しているように、金融危機は目に見えるかたちでは現れにくいのです。
ですから、ある日突然やってくるのです。
しかもそのきっかけは世界中のどこの国が震源地になるか分かりません。
今、震源地として最も世界的に注目されているのは、米中の経済摩擦のエスカレート、およびイギリスのEU離脱による影響と言われています。
では、こうしたリスクに対して、日本にはどのような対応策が考えられるでしょうか。
以下に私の思うところをまとめてみました。
・米中の経済摩擦、およびEUの離脱による国際経済、および日本経済への影響を把握し、そのリスク対応策を検討すること
・具体策として、以下のような対応策が考えられること
日本独自に国際金融、および国際経済の安定の視点から今後の方向性を打ち出し、国際機関に対して積極的にリスク対応策を提唱すること
米中の首脳に対して、経済摩擦がこれ以上エスカレートしないように働きかけること
政府、および企業の立場でそれぞれコンティンジェンシープランを検討しておくこと