いくつかの自動車メーカーによる完成検査の不正については、プロジェクト管理と日常生活 No.513 『日産自動車の不正な完成検査から見えてくること』などでお伝えして来ました。
そうした中、8月31日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で完成検査の近況について取り上げていたのでご紹介します。
クルマの完成検査で不適切な検査が相次いで発覚した問題を受け、国土交通省(国交省)は8月31日に国内自動車メーカー14社の担当役員などを集めて対策会議を開催しました。
会議で国交省側は、「信じ難い深刻な事態だ」として最大限の危機感を持って対応するよう求めました。
メーカー側からは、役員による現場チェックや人為的なミスを防ぐための検査の自動化などが提案されました。
こうした完成検査について不適切な事例が相次ぐ背景について、番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤
高明さんは次のようにおっしゃっています。
「「ルールを守りなさい」っていうのは理解出来るとして、完成検査自体の必要性、あるいは内容の大幅な見直し、これが必要じゃないかなと思います。」
「完成検査は1951年、道路運送車両法という法律ができて、それに基づく通達ベースの制度なんですね。」
「言ってみれば、出荷前にメーカーが代行して車検をするというような制度です。」
「車検を思い出していただければ分かりますけど、それはランプが点くかとか、ブレーキがちゃんと効くかとか、あるいはガラスにヒビが入っていないかとか、割とハードウェアのチェックが中心です。」
「で、日本の自動車メーカーって過去数十年で生産技術も品質管理も相当高度化して、1個一個の工程で完結をする。」
「だから下流に問題になるものを一切流さないというプロセスが出来ています。」
「なので完成検査の段階で問題が発見されるというのは極めて稀なケースだと思います。」
「だとすると、この完成検査自体が無用の長物になっている可能性は高い。」
「(内容を見直すとすればどういう部分かという問いに対して、)ハードウェアのところに今問題があるケースは少ないんですけど、これからリスクが高まるのは本当にソフトウェアです。」
「で、2021年に実際に検査の見直しが入るようです。」
「(自動ブレーキや自動車線維持など、)自動車の制御に関するソフトウェアのバグがないかとか、あるいは(ハッキングされる)セキュリティホールがないかとか、実はこの辺が一番大事なチェック項目にこれからなってくると思います。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
この番組で完成検査は1951年、道路運送車両法の施行に基づく通達ベースの制度であることを知りました。
この通達から既に70年近く経っており、その間に自動車の技術革新は大幅に進歩してきました。
通常、国においても企業においても、技術革新など環境の変化に伴い、適時通達や規定の類は見直されるべきなのです。
ところが、完成検査は2021年に見直しが予定されているといいます。
ですから、常識的に考えて完成検査に関する通達は現状に合わなくなっていると思われます。
こうした状況から梅澤さんは、完成検査自体が無用の長物になっている可能性は高いと指摘されているのです。
ちなみに、私が以前勤務していた外資系のIT企業では定期的に社内標準文書の見直しをしておりました。
このように完成検査に関する通達は現状に合わなくなっていることが度重なる不正検査を生み出しているとも考えられます。
一般的に何か問題が発生すれば、問題の原因を明らかにして再発防止策が検討されます。
今問題になっている不正検査では、各メーカーごとに社内という枠内で再発防止策が検討されています。
しかし、そもそも現在国により規定されている検査項目における完成検査が現在の技術レベルに照らして不要ということになれば、そもそも問題視することはなかったということになります。
こうしたことから、完成検査は2021年に見直しが予定されているといいますが、その計画をもう少し前倒しして実施すべきだと思います。
なお、こうした国や自治体による規定の良し悪しは企業、のみならず管理する官庁の生産性にも大きく影響を与えます。
ですから、国の進める「働き方改革」の一環として、既存の規定の見直しをすべきだと思います。
同時に、規定の定期的な見直しもすべきなのです。