2018年12月24日
アイデアよもやま話 No.4207 食糧危機はバイオテクノロジーで救えるか!?

8月30日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でバイオテクノロジーについて取り上げていたのでご紹介します。 

 

現在、世界の人口は76億人と言われています。

これが2050年には98億人まで増えると予測されていて、全ての人に食糧が行き渡るには生産量を現在の1.7倍に増やす必要があるという試算もあります。

ただ農地を広げるにも限界があり、足りないということが懸念されています。

そこで注目されているのがバイオテクノロジーを使った生産の拡大です。

こうした中、ドイツの製薬大手、バイエルの子会社、日本モンサント株式会社8月30日に日本で運営する遺伝子組み換え作物の試験農場を公開しました。

迫る食糧危機に私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。

 

8月30日、日本モンサントの試験農場(茨城県河内町)がメディアに公開されました。

一般的な品種のトウモロコシは殺虫剤を使っていないため、虫食いが多く見られます。

一方、遺伝子組み換えがされたトウモロコシでは害虫がこれを食べると死んでしまうため、虫食いなどはなく、とてもつややかです。

違いは歴然、遺伝子組み換えトウモロコシは虫食いもなく、実もしっかりしています。

このトウモロコシに組み込んだのは、土の中に存在する微生物の遺伝子、この微生物が作るたんぱく質が害虫に対して毒素を出すというのです。

人や他の生き物には害がないとされています。

 

現在、世界26ヵ国で遺伝子組み換え作物が栽培されています。(2016年国際アグリバイオ事業団調べ)

アメリカではトウモロコシや大豆の約9割が遺伝子組み換え作物といいます。

日本も約20年前からこうした遺伝子組み換え作物を飼料用や加工用として輸入しています。

そして遺伝子組み換え作物は輸入されるトウモロコシや大豆の実に8割以上にも及ぶと見られています。

一方、国内では食用の遺伝子組み換え作物は商業栽培されていません。

トウモロコシや大豆をはじめセイヨウナタネやパパイヤなど8種の作物で栽培は承認されているものの、消費者の抵抗感が強く、企業は栽培・流通に踏み切っていないのが現状です。

 

一度も除草剤を散布していない状態の遺伝子組み換え大豆の畑では、大豆が見えないほど雑草が生い茂っています。

一方、除草剤を1回だけ散布した状態の遺伝子組み換え大豆の畑では、大豆だけが生育して雑草はきれいに枯れている状況です。

使用したのは、モンサント社の除草剤「ラウンドアップ」です。

通常の畑に使うと雑草とともに農作物も枯らしてしまいますが、この遺伝子組み換え大豆は「ラウンドアップ」の影響を受けない特性を持っています。

モンサント社の遺伝子組み換え大豆の種と除草剤をセットで購入すれば、農家は除草する手間を大幅に省くことが出来るため、アメリカでは多くの大豆農家が使用しています。

 

この「ラウンドアップ」については、8月に利用者から発がん性があるとして裁判を起こされていましたモンサント側にカリフォルニア州裁判所は約320億円の支払いを命じました。

モンサントは「除草剤の成分に発がん性がないことは明らかだ」として上訴する方針です。

 

逆風下のモンサントが筑波大学との共催で開催したのが高校生や大学生向けのイベントです。

クイズを通じて、今後世界が直面する食糧問題の解決に遺伝子組み換えなど、新たな技術が不可欠だとアピールしました。

日本モンサントの中井 秀一社長はイベントの場で次のようにおっしゃっています。

「品種改良への理解をより更に深めていただきたいと思っています。」

 

日本市場での広がりを見据えて、消費者の理解を広げようと努めています。

イベントでは今注目されているゲノム編集についても紹介されていました。

ゲノム編集とは、遺伝子を自在に操作出来る新しい技術のことです。

細胞の中に特殊な酵素を入れるだけで狙った遺伝子をピンポイントで切断します。

すると遺伝子に変化が起こり、新しい品種を作ることが出来るのです。

これまで新しい品種を作るためには10年以上かかることもありましたが、ゲノム編集なら数年で作ることも可能なため、世界各国が研究にしのぎを削っています。

 

しかし遺伝子を操作することから遺伝子組み換えと同じように法律で規制するべきか、世界中で議論が巻き起こっています。

アメリカやオーストラリアでは外部の遺伝子を組み込んでいなければ規制の対象から外す方針を示しています。

しかしヨーロッパでは欧州司法裁判所が規制対象に含めるべきだとの判断を示しました。

こうした中、8月30日、日本でもゲノム編集の規制について遺伝子組み換え生物等専門委員会の会議が開かれました。

会議では外部から遺伝子を組み込まなければ、生態系に影響を及ぼすリスクが少ないとして規制の対象から外す方針がまとめられました。

今後は各省庁で食品の安全性や表示方法などが議論される見通しです。

 

なお、ゲノム編集に関しては農作物だけでなく動物についても研究が進んでいます。

京都大学と近畿大学は筋肉の成長を抑える遺伝子の機能を止めて筋肉量を1.2倍に増やす「マッスル真鯛」の開発を進めています。

量産化に目途をつけていてトラフグなど他の魚にも研究を広げているということです。

 

そして全く違うアプローチも今始まっています。

ベンチャー企業のインテグリカルチャー株式会社が取り組んでいるのは、細胞から育てて肉を作るという「細胞農業」です。

培養液の入ったシャーレだとか試験管などで細胞を肉にまで育てるというもので、現在100gで1万円までコストが下がって来たといいます。

このベンチャーですが、今年の5月には農業の官民ファンドや企業などから3億円の資金を調達して来年末にも商業用のプラントを建設する予定だといいます。

 

番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは次のようにおっしゃっています。

「そもそも食用の生物の新しい種を作るというアプローチとしては3つあって、1つ目は昔からやられている交配、2つ目は遺伝子組み換え、そして3つ目がゲノム編集というかたちになります。」

「で、遺伝子組み換えは他の生物の遺伝子を組み込むということなのでかなり変化の度合いは大きい。」

「その代わり試行錯誤は相当必要で、新しい種を作るのに時間がかかってきたということで、ゲノム編集の場合はより精度が上がっていて、かつ外来の遺伝子を使わないということであれば、安全性も大丈夫だろうというふうに今見られています。」

「で、このゲノム編集に関しては既に商用化されているものでいうと、マッシュルームがあって、酸化する酵素の遺伝子を破壊してしまって、その結果として切っても変色しない、茶色くならないというのがあります。」

「あとは「マッスル真鯛」もありましたし、ジャガイモの芽に毒がない品種を作ろうみたいな研究も進んでいます。」

 

また解説キャスターで日経BPの雑誌編集者の山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。

「まず現実問題として我々は既にもう食べているということですね。」

「例えばトウモロコシ、日本が一番輸入しているのはアメリカからなんですけども、そのアメリカでは作付け面積の92%は遺伝子組み換えで作られていると。(農水省のデータをもとに作成 2016年の実績)」

「(大豆は94%。)」

「ナタネはオーストラリアから輸入していますけど、これも93%なんですね。」

「で、一番はっきりするのは油です。」

「油に使われていますから、本当のエキセントリックなことを言い出すと、フライドポテトも食べられなくなるし、コロッケもから揚げも食べられなくなる。」

「そもそも外食にも行けなくなってしまうっていう、そういう意味では我々はまず消費しているっていうことを受け止めなきゃいけないということですね。」

 

特に注目している分野について、梅澤さんは次のようにおっしゃっています。

「農業、水産業、畜産業、全て将来的には兆円規模の市場になると思います。」

「農業が一番大きい、遺伝子組み換えだけで既にこれだけの市場があるということで明らかなんですけども、もう一つ大事なのは畜産業、特に肉ですね。」

「例えば、牛肉1kg生産するのに穀物11kgが必要だと言われていて、人口が増えます、肉を食べたい人が増えますという中で、どうやって肉を効率的に生産するかと考えると、この筋肉がどんどん育つ肉というものがちゃんと作れたら、大分食糧危機を緩和することが出来る。」

 

また山川さんは次のようにおっしゃっています。

「農家を楽にするっていうことを考えた方がいいと思うんです。」

「農家の高齢化の問題が出ていますからね。」

「害虫駆除だとか雑草を取るとか、そういう負担が減るわけです。」

「今、日本の農家は65歳以上の方が7割以上占めているわけですから、その方々を楽にする技術でもあるんだとっていうことは受け止めた方がいいと思いますね。」

「(遺伝子組み換えの種や技術、特許などを持っている企業や国が独占してしまうと強くなって、いびつな権力闘争が生まれる可能性があるのではないかという指摘に対して、)そこは競争になりますけど、私は今の食糧自給率だとか、いろんな農業の生産性の低さを考えた時に、日本がもっと率先して取り組んでいくべきものだと思っていますけどね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組では遺伝子組み換え、ゲノム編集、細胞農業という3つのバイオテクノロジーについて取り上げていましたので、それぞれについて整理するとともに私の思うところをお伝えします。

 

まず遺伝子組み換えについてです。

そもそもアメリカではトウモロコシや大豆の約9割が遺伝子組み換え作物といいますから驚きです。

こうした中、日本も約20年前からこうした遺伝子組み換え作物を飼料用や加工用として輸入しているのです。

ですから、私たち日本人も遺伝子組み換え作物とは無縁ではないのです。

 

しかし、モンサント社の遺伝子組み換え大豆の種と除草剤「ラウンドアップ」をセットで購入すれば、農家は除草する手間を大幅に省くことが出来るため、アメリカでは多くの大豆農家が使用しているといいます。

しかし、この「ラウンドアップ」については、8月に利用者から発がん性があるとして裁判を起こされていたモンサント側にカリフォルニア州裁判所は約320億円の支払いを命じました。

 

一方、オーストラリアから輸入しているナタネも遺伝子組み換えが93%といいますが、フライドポテト、コロッケなど多くの食物を揚げるのに使われています。

ですから私たちが普段食べている食物は遺伝子組み換え技術で溢れ、発がん性などのリスクのある食物を食べていることになるかもしれないのです。

 

2番目はゲノム編集についてです。

これまで新しい品種を作るためには10年以上かかることもありましたが、ゲノム編集なら数年で作ることも可能なため、世界各国が研究にしのぎを削っているのは当然と言えます。

なお、ゲノム編集に関しては農作物だけでなく動物についても研究が進んでおります。

京都大学と近畿大学が開発を進めている「マッスル真鯛」は量産化に目途をつけていてトラフグなど他の魚にも研究を広げているといいます。

 

しかし遺伝子を操作することから遺伝子組み換えと同じように法律で規制するべきか、世界中で議論が巻き起こっています。

こうした中、日本でもゲノム編集の規制について遺伝子組み換え生物等専門委員会の会議が開かれ、外部から遺伝子を組み込まなければ、生態系に影響を及ぼすリスクが少ないとして規制の対象から外す方針がまとめられました。

今後は各省庁で食品の安全性や表示方法などが議論される見通しという状況です。

 

気になるのは、“リスクが少ない”という表現です。

“リスクが少ない”ということは“リスクゼロ”ではないということです。

しかし考えてみれば、自動車や飛行機など文明の利器と言われるものはとても便利ですが、その頻度の差はあれ、事故がつきものです。

ですから私たちは暮らしに係わるあらゆるものについて、利便性とリスクを天秤にかけて選択したうえで使用しているというのが実態なのです。

また長い目でみて懸念されるのは、こうした遺伝子組み換えやゲノム編集により作られた食物がどんどん増えていき、これらを人類が食べ続けて、人類の遺伝子やDNAに悪影響が出てこないかということです。

 

3番目は細胞農業についてです。

遺伝子組み換えやゲノム編集とは全く違うアプローチで、細胞から育てて肉を作るというものですが、どのようなリスクがあるのかが気になるところです。

しかし来年末にも商業用のプラントを建設する予定だといいますから、実用化までそう遠くはないと期待出来そうです。

 

さて、一方で日本の農家は65歳以上の方が7割以上占めているといい、少子化高齢化の進行とともに農業に携わる人口は今後増々減少していくと見込まれます。

ですから、若い世代の人たちにとって農業や畜産業が魅力的な産業になるような状況を作り出すことは私たちの食生活を維持していくうえで、あるいは食糧の自給率を上げていくうえで国策としてとても重要なのです。

 

こうした状況下において、今回ご紹介した3つのバイオテクノロジーがそれぞれのリスクを克服してどんな農作物や動物においても適用出来るようになれば、まさに食糧危機の救世主となり得ます。


 
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