2018年12月15日
プロジェクト管理と日常生活 No.571 『今回のゴーン日産自動車前会長騒動にみる内部告発制度の重要性!』

日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が有価証券報告書で報酬額を過少に申告していたとして11月19日に逮捕されました。

報道によれば、有価証券報告書への虚偽記載があり、これは金融商品取引法違反になります。

今回の逮捕のきっかけは社内告発制度で不正の情報がもたらされ、日産が検察当局に報告し、全面的に協力した上で内部調査も実施したといいます。

 

こうした不正が発覚するたびにコンプライアンス(regulatory compliance)という言葉が飛び交います。

企業コンプライアンスとは、 「コーポレートガバナンスの基本原理の一つで、企業が法律や内規などのごく基本的なルールに従って活動すること、またはそうした概念」を指します。(Wikipediaより)

 

さて、プロジェクト管理において、具体的な作業プロセスを標準化し、それを文書化した「標準マニュアル」を作成し、実際にそれぞれのプロセスの関係者が「標準マニュアル」に沿ってきちんとそれぞれの職務を全うすることが求められます。

しかし、理解不足や意図的などの理由で「標準マニュアル」通りに作業が行われない場合が発生するのが現実です。

そこで、こうしたことが発生しないように、あるいは発生してもタイムリーに発見して是正する仕組みがあります。

具体的には、ピアレビュー(仲間内の検査)と第三者による検査の2つがあります。

この2つの検査の使い分けですが、ピアレビューは一般的なプロセスや成果物を対象とし、第三者による検査は小規模でも特に重要なプロジェクトであったり、大規模プロジェクトを対象とします。

こうした検査の仕組みも企業コンプライアンスの一環を言えます。

しかし、こうした「標準マニュアル」や検査の仕組みがあれば、全てうまくいくかというと残念ながらそうではありません。

そこで、プロジェクト管理ではコミュニケーション管理という方法を取り入れています。

要するに、「標準マニュアル」の理解を深めるために、定期的に関係者向けの説明会を実施したりします。

また関係者間の情報共有を図るために、文書化して関係者が誰でも参照出来るようにしたり、必要に応じて説明会などの会議を開催します。

 

さて、先日ゴーン日産自動車前会長騒動が起きてしまいましたが、少なくとも日産自動車のような大企業には、しっかりした「標準社内規定」のようなものがあるはずです。

しかし、今回の騒動に限らず、日産自動車ばかりでなく同業他社でも完成品の不正検査が発覚してきました。

また自動車業界ばかりでなく他の業界でも次々に不正に関する報道がされています。

 

このような企業トップ自らが不正に係わるようなケースは中々表面化に結に付きにくいのが現状です。

また売上や利益重視で、例えば納期厳守で上層部からの締め付けが厳しく、製造現場で検査工程の不正が行われるようなことが現実に起きています。

こうした不正は時には人命にかかわるような事故をもたらすリスクがあります。

こうしたリスクや問題を“見える化”させる手段の1つとして内部告発制度があるのです。

こうした制度もコミュニケーション管理の一環と言えます。

そして、大々的に報道される企業内の不正の発覚は多くの場合が内部告発です。

今回のゴーン日産自動車前会長の騒動もそうです。

なお、これまでプロジェクト管理と日常生活 No.556 『劣化する官僚機構 その4 汚職がはびこる官僚組織!』などで企業内の不正対応策として内部告発制度の重要性をお伝えしてきましたが、今回の騒動であらためてこうした外部からは非常に見つけにくいような構造的な不正については、内部告発制度という仕組みが威力を発揮することを認識しました。

 

ただし、この内部告発制度は告発者の止むに止まれぬ正義感に依存しています。

報道で知る限り、告発者の多くは他の部署に飛ばされて閑職扱いされたり、会社に居ずらくなって退社したりというケースが見受けられます。

 

しかし、内部告発される案件の中には、そのまま放置していれば、いずれ公にあり、その企業に大きな痛手を負わせたり、企業イメージを大きく落としかねないケースが少なからずあります。

ですから、客観的に見れば、また願い目で見れば、内部告発者はその企業にとってだけでなく社会的にも大きな貢献をしていると言えます。

こうした勇気のある内部告発者が閑職に追いやられたり、退職に追い込まれたりというのは理不尽と言わざるを得ません。

 

そこで、大切なことは以前にもお伝えしたように、内部告発者の保護です。

具体的には、内部告発者が閑職に追いやられないような歯止めをかけたり、退職せざるを得ないような状況になった場合には例えば3年分の年収分を企業が負担するというような内容を法律で規定することです。

 

いずれにしても最も大切なことは、企業のトップ自らが不正を憎み、不正が起きないような仕組みを設け、それに従わない場合には厳罰で臨むと同時に、個々の組織、あるいは従業員との間のコミュニケーションを密にして、現場の労働環境などの問題に目を配ることなのです。

そういう意味で、今回のゴーン日産自動車前会長騒動から見る限り、ゴーン前会長の振る舞いは反面教師と言わざると得ません。

 

ゴーン前会長は“コストカッター”と呼ばれたカリスマ経営者でした。

そして1999年にルノーから送り込まれて日産自動車の経営危機を救い、救世主的な存在であると言われ、長期にわたり日産自動車を支えてきました。

ですから、今回の騒動との格差にとても驚き、とても残念に思います。

やはり“権力は腐敗する”運命にあるのでしょうか。


 
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