2018年12月13日
アイデアよもやま話 No.4198 1日100食限定で残業ゼロのステーキ丼店!

今、働き方改革、一方ではブラック企業が話題になっていますが、そうした中、8月15日(水)、および11月30日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で1日100食限定で残業ゼロのステーキ丼店について取り上げていたのでご紹介します。

 

まず、8月15日放送分からです。

飲食店(居酒屋)では1年間の従業員の離職率が30%と高く、人手不足が問題となっています。

その主な離職理由は以下の通りです。(出典:リクルートジョブズ ジョブリサーチセンター)

・仕事内容が体力的にきつい

・休日が少ない

・残業が多い

・給与・収入が上がらない

 

そうした中、残業ゼロという働き方改革を実現した飲食店があります。

そのキーワードは“100食限定”でした。

真夏の京都、繁華街から少々離れた場所にある佰食屋(ひゃくしょくや)、お昼にはちょっと早い午前11時に既に店内は席に座れず順番待ちの列ができていました。

お客のお目当ては国産牛100%のステーキ丼(1080円)です。

このステーキ丼にお客が殺到していました。

お客の中には、京都から姉妹で4回目に来たり、食べログで検索して高得点ということで大阪から来たお客がおります。

 

佰食屋のオーナーは中村 朱美さん(34歳)です。

元々調理学校で広報の仕事をしていましたが、2012年にこのお店を開業しました。

中村さんは次のようにおっしゃっています。

「私はお肉がすっごく好きで、今から6年くらい前にはお肉というと安い牛丼屋さんか高い焼肉屋さんしかなかったんです。」

「どっちかというとランチだったら1000円ぐらいで食べたいなという、本当に庶民的な感覚で(そういうお店を)自分が作ろうかなと思って、女性の行きやすいお店というコンセプトで作りました。」

 

佰食屋は現在京都市内に3店舗を展開、すき焼き専門店では国産牛すき焼き定食(1188円)、また肉寿司専科では肉茶漬けと肉寿司のおすすめ定食(1188円)をそれぞれ提供しています。

更に、ジェイアール京都伊勢丹でも佰食屋の肉寿司三種盛合わせ弁当(1188円)が販売されています。(月曜・金曜の11時より販売)

 

この佰食屋には、ある特徴があります。

中村さんは店内で何かを数えて、その数字をこっそり従業員に見せて回ります。

番組で取材したある日の店内の様子について、中村さんは次のようにおっしゃっています。

「今、お昼の1時ですが、76食までいってますという、(100食まで)あと24食というかたちで・・・」

 

実はこのお店はランチのみで100食限定なのです。

100食売り切れた時点で閉店するというのです。

そして、2時半に最後のお客を見送ると100食が完売、閉店の看板を出します。

 

従業員に笑顔が広がります。

中村さんがランチのみ100食限定のお店にしたのには、ある理由がありました。

中村さんは次のようにおっしゃっています。

「(飲食店は)世間ではブラックと言われたりとか、働き方が大変だったりというのを見て、私は食べるの好きやのに、そこで働いている人がしんどいって何か嫌やなとすごく思ったんです。」

「それで思い付いたのが「100食限定」で売り切って終了するっていうスタイル。」

 

現在、佰食屋では3店舗で正社員14名、アルバイト16名、合計30名の従業員が働いています。

なぜ100食限定にすると、働き方が変わるのでしょうか。

 

朝9時20分、出勤して来たのは入社して半年の社員、西村 美香さん(38歳)、西村さんは3歳と1歳の二人の子どもを持つ主婦、以前は別の飲食店で働いていました。

西村さんはその当時について次のようにおっしゃっています。

「お客さんがいらっしゃるのに忙しい状態では、やっぱり帰れなかったりとかというのがあるんですね。」

「子どもがいるので、お父さんだけに任せるのも中々心苦しいところもあったので・・・」

 

子どもの保育園の迎えは夫に任せっきり、そんな状態を変えたいと佰食屋に転職したのです。

午前9時半、まずはお店の看板を出します。

すると開店前だというのに既にお客の姿があり、予約券を渡します。

そして11時、配膳するとすぐに満席になります。

やがて午後2時頃になると、中村さんが83という数字を従業員に見せて回りました。

西村さんは次のようにおっしゃっています。

「「やっぱりあとどれぐらい?」みたいな感じで頑張れる感じがします。」

 

100食というゴールが見えているのでモチベーションをキープ出来るといいます。

そして午後3時、100食が完売、佰食屋の正規の勤務時間は午前9時〜午後5時45分ですが、西村さんは午前9時30分〜午後5時です。

保育園は午後6時までに迎えに行く必要がありますが、それが可能になりました。

西村さんは次のようにおっしゃっています。

「(給料について、)ちゃんと社会保障もしっかりしていただいているので、保険の面とか安心かなとかと思っています。」

 

佰食屋では他にもシングルマザーの方や妊娠7ヵ月の女性社員も働いています。

妊娠7ヵ月の女性社員は次のようにおっしゃっています。

「世間でいうマタニティハラスメントとかそういったことは一切無くて、すごく良くしていただいて働かせてもらっています。」

 

オーナーの中村さんも4歳と2歳の子どもを持つ主婦ですが、子育てと主婦を両立出来ているそうです。

しかし、100食限定で本当に儲かっているのでしょうか。

佰食屋の1日の売上は3店舗合計で約36万円、月間の売上は約1000万円、そのうち約30%が人件費は充てられ、従業員の給料は一般的な飲食店と同水準だといいます。

中村さんの給料や全ての経費を差し引いても利益は出ているといいます。

中村さんは次のようにおっしゃっています。

「めちゃくちゃ儲けたりはしないですよ。」

「ただ何とかやっていける数字なので、やっていけるんやったらやっぱり幸せな働き方でやっていきたいなって私は思うんです。」

 

中村さんの取り組みは今大きな注目を集めています。

関西圏の女性起業家を発掘・育成する国家プロジェクトのセミナー(7月31日、大阪府北区で開催)で中村さんは講演をし、次のようにおっしゃっています。

「私たちは飲食店の常識を翻したら、新しい働き方が出来上がりました。」

 

中村さんは女性起業家たちへのアドバイスや支援もしており、次のようにおっしゃっています。

「出来れば全国いろんな各地でこの働き方を広げられたらいいなとすごく思っています。」

 

100食限定が生み出す新たな働き方は飲食業界に広がっていくのでしょうか。

中村さんは、100食限定というシステムやレシピ、ノウハウ、こういったビジネスモデルをパッケージにして地方の飲食店に販売していくことも考えているといいます。

中村さんは、このことを働き方のフランチャイズと呼んでおり、日本の飲食店の働き方を変えていきたいと考えているそうです。

 

次は11月30日放送分からです。

中村さんは、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019に選ばれ、授賞式のスピーチで次のようにおっしゃっています。

「私が働きたいと思う働き方を実現したら、今の働き方が出来上がりました。」

「この仕組みだったら絶対残業なんて生まれないんです。」

「絶対休みも取れる。」

「だから、この働き方をもっと日本に広めたい・・・」

 

お店の従業員は働く時間を1時間単位で選べ、育児や介護などの事情を抱えた人が正社員として活躍出来る新たな事業モデルとして高く評価されました。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそも居酒屋では1年間の従業員の離職率が30%と高く、その結果人手不足が問題となっているという事実が大きな問題です。

こうした状況下で、外国人労働者を大量に受け入れるようになれば、この問題は何ら解決されないまま、居酒屋に限らずどの業界もこれまで以上に過酷な労働環境の状態が続くと容易に想像されます。

同時に、一方で外国人労働者と一緒に働く日本人労働者の待遇もこれまでより悪くなる可能性が高くなります。

こうした状況に対して、国は最低賃金を定めたり、残業時間の上限を設定したりと制度面で従業員の労働条件を保護しています。

しかし、従来の事業の進め方が続く限り、従業員は制度面でギリギリ、あるいは制度の上限を超えて働かされるところが後を絶たない状況が続くと見込まれます。

そして、今問題になっている人手不足がこうした状況に拍車をかけているのです。

 

飲食店に限らず、事業を始める際にオーナーはその事業を通して儲けたいということは誰でも考えます。

そして、消費者やユーザーに対して少しでも安くて優れた商品やサービスを提供したいとも考える経営者も少なからずいると思います。

あるいは、高価でも購入者が欲しいと思うような商品やサービスを目指す経営者もいると思います。

しかし、経営者の中には賃金や労働時間など従業員の働き方についての対応は後回しにして自分の取り分を多くすることを優先させるケースが少なからずあると思います。

このように考えると、従業員の労働環境の是非はひとえにその経営者の考え方1つで決まってしまうということになります。

 

そうした中、中村さんの展開している1日100食限定のお店はまさに“目から鱗(うろこ)”です。

「(飲食店は)世間ではブラックと言われたりとか、働き方が大変だったりというのを見て、私は食べるの好きやのに、そこで働いている人がしんどいって何か嫌やなとすごく思ったんです。」

という言葉に象徴されるように、中村さんは従業員の労働環境問題に注目したのです。

このことに対する中村さんの強い想いこそが“1日100食限定のお店”の誕生につながったと思います。

そして、番組から伝わってくるのは中村さんの考える以下のお店の運用方針です。

・会社、あるいは経営者としての利潤を重視せず、従業員の労働環境とのバランスを維持すること

・従業員の賃金は同じ業界内で平均以上を維持すること

・労働時間は1時間単位で選べること

・残業ゼロにすること

・1日の売り上げ目標を掲げ、その目標を達成したらその日の販売を終えること

・目標達成の経過を随時従業員に伝えること

・この目標を達成出来るような商品やサービスを実現させること

 

こうしたお店の運用方針は現政権の掲げる働き方改革の1つの理想パターンだと思います。

しかし、この理想パターンを現実に実現出来るかどうかはアイデア次第なのです。

なぜならば、お店の運用方針の最後に掲げたように、魅力的な商品やサービスでなければそもそも成り立たないからです。

また、飲食店に限らずどのような事業においても需要と供給の関係から、常に競争状態にあります。

そうした中、常にこの競争に打ち勝つような商品やサービスを提供し続けなければ一時的に成功を収めてもいずれ廃業に追い込まれてしまいます。

ですから、中村さんには今後とも常に業界をリードするような商品開発を続けると同時に“働き方のフランチャイズ”の展開により、日本の飲食店の働き方を変えていただきたいと思います。

また、業界によっていろいろな制約はありますが、あらゆる業界において、出来るだけ先ほど掲げたお店の運用方針に沿った経営を目指していただきたいと思います。

そうすれば、ブラック企業の撲滅、あるいは離職率の改善に大いに貢献出来るはずです。

同時に、外国人労働者の受け入れについてもスムーズに進むと期待出来ます。

 

なお、こうした働き方は以前言われていた日本の経営の特徴である“家族経営”とはちょっと違うと思います。

家族というよりも、従業員一人ひとりのライフスタイルを尊重した働き方を可能にする新たな働き方改革だと思います。

また、利潤追求を第一にはしないので、当然経営層と従業員との間の賃金格差もそれほど多くならないと思われます。

 

しかし一方で、芸術家や経営者、あるいは企画を考えたりするアイデア勝負の職種の人たちには時間的にこうした働き方は当てはまらないと思います。

こうした人たちにとっては、アイデアが生まれやすい時間こそが勝負なのです。

ですから、極端に言えば、仕事とプライベートの時間がはっきりと区別出来ない、文字通り24時間いつでも戦闘態勢にあるわけです。

 

ということで、働き方のスタイルについては、大きくこうした2つの流れがあると思うので、それぞれに即したよりよい労働環境の整備、そしてワークライブバランス(仕事と生活の調和)が求められると思うのです。


 
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