前回は大規模な太陽光発電の普及の弊害とその課題対応策についてお伝えしました。
そうした中、10月23日(火)放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)で太陽光発電存続の危機について取り上げていいました。
そこで、番組を通して太陽光発電存続の危機とその対応策についてご紹介します。
大規模な太陽光発電事業を展開する事業者(メガソーラー事業者)がありますが、大きな問題が立ちはだかっています。
例えば東京電力が公開している茨城県の地図では全域がピンク色です。
実はこの色、送電線の「空き」がないことを示しています。
送電線が使えないと太陽光パネルで発電してもその電気をどこにも送れません。
ですから事業にならないのです。
平らな土地が安く手に入り、太陽光発電には絶好な条件が揃う茨城県、しかしその全域がピンクで埋め尽くされています。
しかし、福島原発から首都圏へ電気を送る巨大な送電線がありますが、原発が動いていない今、空いているのではないかと思われています。
首都圏の送電線を管理する東京電力パワーグリッド株式会社(東京都千代田区)の劉 伸行系統計画室長はこうした状況について、次のようにおっしゃっています。
「福島第一原発の廃炉等々がございましたので、従前に比べれば「福島幹線」の容量の空きは十分にあると思っております。」
「再生可能エネルギーにご活用いただけるようには、必要となる連携の変電所とか、そういうものが必要になってまいりますけども、・・・」
設備を増強する必要はありますが、空いている送電線は太陽光発電のために使えるといいます。
更に送電線を増やす計画もありますが、その工期は約9年かかり、建設の準備を進めているという状況なのです。
一方で、劉さんは次のようにおっしゃっています。
「(メガソーラー事業者が)「認定」だけ取って、発電をやっていないという話になるんであれば、その分当然送電線の「空き」は出来るということになります。」
「認定」とは、国が与える送電線を使う権利のことです。
「認定」が増えていくと、送電線が埋まっていきます。
いっぱいになると、それ以上は受け付けられません。
再生可能エネルギーを使った発電では、全国で約8500万kw分の送電線が「認定」されています。
しかし、実際には約4100万kw分しか使われていません。(資源エネルギー庁 まとめ 2012年7月〜2018年3月)
つまり「認定」を取った事業者のほぼ半分が発電をしないまま、権利だけを抑えているのです。
この制度をつくった経済産業省の電力基盤整備課の曳野 潔課長は次のようにおっしゃっています。
「そういう方(「認定」を受けた方)が、例えば事業を断念するようなことがあれば、新しく再生可能エネルギー発電をやりたいと思っている方にその枠が振り向けられるということも可能だと思います。」
「(国として断念してもらうことについて、)国が個別の事業者の意志に介入して「やめろ」とか「やれ」とかそういうことは非常に不適切だと思っています。」
本当に発電したい事業者が発電出来ない実態を国は知っていますが、何も出来ないというのです。
さて、太陽光発電事業を全国に展開する株式会社エンブルー(東京都千代田区)の社長、三浦 浩之さん(35歳)は野村證券の出身で、当時のお客に太陽光について相談を受けたのがこの業界に飛び込むきっかけでした。
最初はビジネスばかりを考えていましたが、次第に変化が出てきました。
三浦さんは次のようにおっしゃっています。
「結局、民間企業が頑張らないと原子力・火力・再エネ(再生可能エネルギー)の中で、民間が出来なかったら火力と原子力しかなくなっちゃうんですよね。」
「で、私自身やっぱり原子力と火力に依存する国がこれから何十年も続いていく姿はあまり想定したくないので、まさにこの正念場となったこの時期だからこそもっとアクセルを踏んでやっていくべきだと思っています。」
送電線の問題に直面する三浦さん、それでも何とか太陽光発電を拡大したいと考えていました。
その意外な一手とは、送電線を使う権利を持つ認定を受けた企業を調べ上げたリストの活用です。
送電線に空きがないなら、権利を持つところから土地を買い取るという作戦です。
当たってみると、意外に手ごたえがありました。
10月上旬、認定を持つ事業者と約束を取り付けた三浦さんが向かったのは送電線がいっぱいだった茨城県常陸大宮市です。
この開発業者は、三浦さんを案内した土地に商業施設をつくり、太陽光発電を設置するための認定は取りましたが、設備を自分たちで管理出来ないというのです。
三浦さんは、自分たちなら太陽光発電をうまく運営出来るとアピールしました。
開発業者は次のようにおっしゃっています。
「将来的にも可能性のある物件を保有しているので、いろいろなことで相談させていただいてチャンスがあればと思っています。」
こうして三浦さん、何とか契約の見通しが立ちました。
しかし、そんな時、また新たなハードルが現れました。
それは九州電力からの書類、「今秋の九州本土における再生可能エネルギー出力制御実施の見通しのお知らせ」でした。
出力制御とは、太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電力を電力会社が買い取らず、そのまま捨ててしまうということです。
発電量が多過ぎると消費する電力量とのバランスが崩れて、電気の状態が不安定になり、これが停電の原因になります。
そこで電力会社は発電量が多過ぎる時に太陽光発電などを切り捨ててバランスを保つのです。
出力制御が続くとビジネスが成り立たなくなります。
しかし、なぜ今なのか、今年に入って九州電力は玄海原発2基を再稼働、合わせて約240万kwの出力で電力供給量が大幅にアップしたのです。
その分出力制御の可能性が高まります。
こうした状況について、三浦さんは次のようにおっしゃっています。
「(出力制御は)再エネの事業者としては、大きな逆風になりますので、見通しが立てられない、事業計画が立てられないので、じゃあ来年、再来年、太陽光発電者の開発って続けられるのかって分かりません。」
原発の再稼働が出力制御にどれほど影響するのか、番組が九州電力に取材を申し込むと回答が文書で寄せられました。
以下はその回答の内容の一部です。
原子力発電所の再稼働如何に関わらず、今後、電力需要が低く推移する春秋の休日等には、以下のような需給状況の変動要因によって九州全体の発電量が需要量を上回る可能性があります。
予想以上の需要の減少
太陽光、風力の接続量の大幅な増加
想定以上の降雨による水力発電所の供給力増
揚水発電所の想定外のトラブル
供給力が電力需要を上回る状況になった場合には、あらかじめ定められた国のルール(優先給電ルール)によって、九州エリア内の火力発電の出力制御、揚水発電の活用(上ダムへの水の汲み上げ)、関門連係線を活用した他エリアへの送電(長周期広域周波数調整)等、運用上の対応を行いますが、それでも厳しい場合には電力の安定供給維持のため、ややむを得ず再生可能エネルギーの出力制御を行う必要があります。
九州本土では、今春昼間には太陽光出力が最大となった時点で電力需要の8割程度となり、その後も太陽光の接続は増加しているため、火力発電などの調整による需要と供給のバランスの維持が困難な状況になりつつあります。
というように、再生可能エネルギーの出力制御については国の手順に従ったという回答でした。
一方で、太陽光発電はピーク時には需要の8割程度を満たし、太陽光発電が今や大きな役割を果たしつつあることも明らかにしました。
この状況について、専門家の東京理科大学大学院の橘川 武郎教授は次のようにおっしゃっています。
「九州電力は、1基も原発が動いていないとしたら、このタイミングで出力制御はしていないかもしれません。」
「優先順位は原子力発電がまずあって、太陽光発電より上だったことが示されたと。」
政府の方針とは裏腹に現場では太陽光発電より原子力発電が優先されていると指摘したのです。
更に次のようにおっしゃっています。
「一つ大きく九州電力にも他の電力会社にも見落としている論点があるんですよね。」
「それは、原子力発電は不安定な電源だっていうことなんです。」
「例えば自分の会社が問題なく運転してたとしても、他社が問題を起こして事故やトラブルがあったら現実に「3.11」後に起きましたが、いつ止まるか分からないですよね。」
「残念ながら「3.11」前と変わらない発想だと思います。」
九州電力は10月20日と21日、約50万kwから90万kwを出力制御、1日に原発約1基分に当たる太陽光による発電量が捨てられました。
こうした状況について、三浦さんは次のようにおっしゃっています。
「逆風の中で一民間企業として工夫と努力でやれることは引き続き最大限やっていって、何とか汗をかいて知恵を絞れば出来る案件は是非全部取り込んでいきたいと考えています。」
「それだけでもまだチャンスは残っていると思うんで・・・」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
番組を通して、まず驚いたのは、九州本土では今春昼間には太陽光出力が最大となった時点で電力需要の8割程度となり、その後も太陽光の接続は増加しているという事実です。
国内でも地域によってはここまで太陽光発電の導入が既に進んでいるのです。
そして再生可能エネルギーを使った発電では、全国で約8500万kw分の送電線が「認定」されているということです。
一般的に原発1基の発電出力はほぼ100万kwと言われていますから、認定されている再生可能エネルギーによる発電の出力はほぼ原発85基分に相当します。
勿論再生可能エネルギーによる発電量は発電効率や天候などに左右されますから、実際の発電量は原発に比べてかなり少なくなります。
一方で、「認定」を取った事業者のほぼ半分が発電をしないまま、権利だけを抑えているという事実は事業者のビジネスに対するシビアさを物語っています。
こうした事業者の中には、設置場所の当てもなく太陽光発電システムの価格が下がるのを待ってから設置を考えたり、その権利を転売して儲ける事業者が出て来たとの報道もあります。
さて、番組の内容を参考に太陽光発電存続の危機の具体的な内容について以下にまとめてみました。
・上記のように、「認定」を取った事業者のほぼ半分が発電をしないまま、権利だけを抑えているために、本当に発電したい事業者が発電出来ない実態を国は承知しているが、何も対応出来ない状態であること
・太陽光発電より原子力発電が優先されたかたちで出力制御が実施されていること
・再生可能エネルギーにより発電した電力を系統電力に送る送電線の対応が不十分であること
では、こうした問題の対応策ですが、まず「認定」関連については、そもそも国が「認定」制度を実施する際に、権利だけを抑える事業者が出てくるというような想定をするフィージビリティスタディ(事前調査)をしっかりとしてこなかったことが大きな理由だと思います。
常識的に考えても、太陽光発電の設置を推進するうえで、未だに具体的な計画がない事業者については設置期限を決めて、それまでに設置出来ないと回答した事業者には「認定」の取り消しを行い、他の事業者が新たに「認定」出来るように速やかに制度を変更すべきです。
また出力制御については、火力発電にしても原発にしてもすぐに稼働させたり、稼働を停止させたりすることは出来ません。
こうした背景や太陽光発電のような再生可能エネルギーによる発電の不安定さもあって、出力制御が必要になった場合にまず再生可能エネルギーが対象になってしまうと考えられます。
では、火力発電、原発、そして再生可能エネルギーにより発電された電力をどのようにバランスして供給すべきかですが、その対応策は2つ、再生可能エネルギーにより発電された電力を一時的に蓄えるためのバッテリーの導入、および電力における“地産地消”政策、すなわちスマートグリッドの推進だと考えます。
バッテリーの導入により、再生可能エネルギーで発電した電力を溜めるダムのようにバッテリーを位置付けるのです。
また、再生可能エネルギーによる発電は、個々の設置面積としては火力発電や原発ほど広大な土地を必要としないので“地産地消”に適しています。
そしてこの“地産地消”は自ずから発電した電力を系統電力に送る送電線の負荷を最小限にすることが出来るのです。
ということで、早急に余剰電力を溜めるための、低価格で小型、しかも安全なバッテリーの実用化、およびスマートグリッド政策の具体化が求められるのです。