以前からスーパーなどでは夕方になると売れ残り商品の一つひとつに「30%引き」などのシールを貼り付けて、少しでも売れ残りを防ぐようにしています。
そうした中、8月1日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でサッカーの試合でのダイナミックプライシングの導入について取り上げていたのでご紹介します。
販売状況や対戦カードなど様々な条件をもとにAI(人工知能)がチケットの価格を提案するダイナミックプライシング、つまり価格変動型のチケットが8月1日にJリーグのチームで初めて導入されました。
スポーツなどエンタテインメントの業界に革命をもたらす新しいシステムの導入は集客につながるのでしょうか。
横浜市にあるニッパツ三ツ沢球戯場、Jリーグの横浜F・マリノスがホームに迎えたのは現在(放送時点)首位を独走するサンフレッチェ広島です。
横浜F・マリノスはこの日、観客に販売する約4分の1のチケットにダイナミックプライシングを導入しました。
横浜マリノス マーケティング本部の永井 紘さんは次のようにおっしゃっています。
「稼働率が上がり、スタジアムのお客様が増えると。」
これまでチケットの価格は対戦カードや天候などに関係なく同じ価格で販売されてきました。
ダイナミックプライシングは、天候や日程、チームの順位などの基本情報と過去の販売実績の関係をAIが分析し、チケットの最適な価格を導き出す仕組みです。
2日前の7月31日(月)、横浜マリノスのオフィスを訪れていたのは三井物産の社員です。
今年、三井物産はヤフーやチケット販売を手掛けるぴあと共同で新会社、ダイナミックプラス株式会社を6月1日に設立しました。
ダイナミックプラスの平田 英人さんは次のようにおっしゃっています。
「欧米では2009年頃からスポーツエンターテインメント市場においても価格は変動するというものが導入されてきています。」
「そういう文化を日本において広めたいと・・・」
アメリカから導入したシステムを使い、AIが最適なチケット価格をはじき出しました。
最も高いメイン席の価格のチケットはこの日6900円だった価格を7600円に値上げするように提案、ただ販売枚数は45枚から38枚に減少します。
一方、AIはバックスタンド席の価格を4400円から4100円に下げるように提案、そうすることで125枚から141枚に増加すると分析しました。
席ごとに細かく変動させ、トータルでの収益アップを狙います。
アメリカではダイナミックプライシングでチケット全体の売り上げは平均1割から3割アップしているといいます。
そこで8月1日のチケットをダイナミックプライシングで通常より800円安く購入出来たサポーターに話を聞くと、「お得だった」ということでした。
一方でよく試合観戦に来るというサポーターからは「変動制というのは不正な売買などを考えても積極的にやっていくべきだと思う」という意見でした。
適正価格で販売することにより、オークションなどで行われている高額転売を防止することにもつながるダイナミックプライシング、横浜マリノスはスタジアムにより多くの観客を呼び込み、稼働率を上げたい考えです。
永井さんは次のようにおっしゃっています。
「今は一部の席種でのテストトライアルということでやっているんですけども、将来的にはこの実証実験を経た後にエリアを広げて全席種でやるところまで視野に入れて進めていきたいと考えております。」
番組コメンテーターで早稲田大学ビジネススクールの入山 章栄准教授は次のようにおっしゃっています。
「(ダイナミックプライシングは日本でも浸透していくかという問いに対して、)はい。」
「元々市場メカニズムの基本は需給のアンバランスを価格が変化することで調整するというのが基本ですから、今までのように価格が固定されていることの方がおかしいんですね。」
「ですから、そう考えるとある程度ダイナミックプライシングが入って来るのは私は日本のためにもいいことだと思っていまして、例えばコンサートや高速道路、電車に入ると面白いんじゃないかなと。」
「アメリカではテイラー スイフトという歌手がいますけど、その歌手のコンサートにダイナミックプライシングが入ったということで非常に話題になりました。」
「それから高速道路とか電車といった公共サービスに入ると、時間単位、分単位で価格が変わるので、混んでいる時は価格が上がり、混まない時には価格が下がれば、いわゆる渋滞とか混雑の解消になる可能性が高いということですね。」
「(アメリカの鉄道会社、アムトラックではニューヨーク、ワシントン間の乗車料金がララッシュ時には300ドルくらい、夜中とか早朝は100ドルほどと3倍近い差があるが、日本の新幹線で東京、大阪間の乗車料金が3万円と1万円というような差が出ることは許容されるかという問いに対して、)公共サービスは高くても使わざるを得ない人がいるんで、そういう極端な価格差は絶対出すべきではないと思うんですね。」
「ですからそういうバンド、ある程度ゆるいレンジみたいなものを設けてやる必要があって、ただAIがあれば、むしろやり易いわけですね。」
「ですから、そういった緩やかなレンジの中で公共的なものは価格を調整してやると。」
「そうやるとですね、一人ひとりにとっての負担はそんなに大きくないかも知れないけど、考えていただきたいのが、例えば通勤のためのお金を支出する企業からみると、そういったお金が積もっていきますんで、大きな負担になる可能性があるんですよ。」
「ですからダイナミックプライシングが入ると、実は時差通勤みたいなものを企業が積極的にやる可能性もあるということで「働き方改革」なんかにもプラスにかも知れないということですね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
入山教授のおっしゃるように、商品やサービスの価値は季節や時間帯、あるいは消費期限などいくつかの条件により変動します。
ですから、既にアナログの世界ではこうした価値の変動に応じた取り組みが断片的になされてきています。
ところが今回ご紹介したダイナミックプライシングの導入は、AIの活用によりこうした需給バランスによって生じる価値の変動を考慮したタイムリーで最適な価格設定を自動的に可能にするのです。
IoT(モノのインターネット化)の普及とともにこのダイナミックプライシングはあらゆるところで適応出来ます。
例えば、スーパーやコンビニなどで陳列されているあらゆる商品の数量、あるいは消費期限などのデータがIoTによりデータセンターで集中管理出来れば、状況に応じてタイムリーなダイナミックプライシングが出来ます。
ここで大切なことは、こうした商品の一連のお得情報を来店客がスマホなどで見ることが出来るようにすることです。
いくらダイナミックプライシングを導入しても、肝心の来店客がお得情報を知ることが出来なければ、意味がないからです。
また、こうした商品情報をお店がリアルタイムで把握出来るようになれば、いちいち店員が店内を見回らなくてもよくなり、商品管理の生産性向上が期待出来ます。
更に、「30%引き」などの値下げのためのシールを貼る作業も不要になります。
ということで、ダイナミックプライシングは、あらゆる商品やサービスの適正価格を自動設定するだけでなく、関連する作業プロセスの自動化も可能にし、まさに“商業革命”をもたらす可能性を秘めているのです。
一方、ユーザーにとっても季節や時間帯などによって、これまでよりも低価格での商品の購入、あるいはサービスを受けることが出来るようになるのです。
ですから、ダイナミックプライシングの普及をどんどん進めていただきたいと思います。
ということで、ダイナミックプライシングは安倍政権の進める「働き方改革」の柱の一つとして大いに期待出来るのです。