2018年10月14日
No.4146 ちょっと一休み その668 『世界的に広がる強者の政治!』

7月22日(日)放送の「サンデーモーニング」(TBSテレビ)で世界的に広がる強者の政治について取り上げていたのでご紹介します。

 

今、世界のあちこちで見受けられる政治の風潮、その根底にあるものとは何でしょうか。

7月19日、イスラエルの国会でネタニヤフ首相は次のように演説しました。

「ユダヤ主義とイスラエルの歴史において、歴史的瞬間だ。」

「ここは我々の国だ。」

「これが我々の言葉だ。」

 

この日、イスラエルの国会で成立した「ユダヤ人国家法」という法律を巡って議場は大混乱しました。

この「ユダヤ人国家法」では、「イスラエルはユダヤ人の歴史的なふるさとであり、民族自決権はユダヤ人のみにある」としたうえで、ユダヤ人が使うヘブライ語だけを公用語にすると認定、アラビア語を公用語から外したのです。

約20%を占めるアラブ系住民を排斥するかのような法律にアラブ系議員は激しく反発しました。

 

「数の力」で強引に押し通される法案、それは他人ごとではありません。

7月11日、日本でも野党の反対を押し切り可決された参議院の「6増」法案、JNN世論調査でも7割近い有権者が反対と答える中、強行された採決に、小泉元総理は次のようにおっしゃっています。

「参議院制度の改革に、あれはなんであんな変なのを出すのか、私は理解出来ないんだよね。」

「よくまた参議院も認めたよね。」

 

この間、森友問題や加計学園を巡る疑惑を置き去りにしたまま、「数の力」で採決強行を繰り返し、「働き方改革関連法案」や「IR整備法案」の法案を次々に可決・成立させていく国会運営には疑問の声が上がっています。

 

こうした中、国際政治に関するある演説が注目されました。

7月17日、南アフリカ・ヨハネスブルグで行われた講演会でオバマ前アメリカ大統領は次のような演説をされました。

「周囲を見渡してみて下さい。」

「突如として「強者の政治」が優勢になっています。」

「権力の座にある人間が民主主義を具現化する全ての制度や規範を壊そうとしています。」

 

オバマさんの指摘する「強者の政治」、勿論その念頭にあるのは“アメリカファースト”を掲げるトランプ大統領の政治姿勢と思われます。

就任以来、イスラム圏からの入国禁止やメキシコとの国境に壁の建設を計画するなど、強引な姿勢が混乱を生みました。

 

しかし、オバマさんが危惧するのはトランプ大統領だけではありません。

こうした「強者による政治」が世界的な風潮になっている現実です。

世界を見渡せば、今年5月にクリミヤ半島でロシアのプーチン大統領は次のような演説をされています。

「帝政時代から人々はこの橋を架けることを夢見てきた。」

「これからも国土全体でプロジェクトを続けていく。」

 

3月の選挙で更に6年、2024年までロシアを率いることになったプーチン大統領は、2014年に併合したウクライナ南部のクリミヤ半島とロシア本土を結ぶ橋を開通させるなど、「力には力」の政治を誇示しています。

 

更に、今年3月、中国の習近平国家主席は次のような演説をされています。

「私たちの人民共和国はたくましく成長し、全く新しい姿で世界の東方にそびえ立っている。」

 

先ごろ、憲法改正により無期限に権力の座に留まることが可能となった中国の習近平国家主席、人権問題や海洋進出など、国際社会が危惧する課題は残されたままです。

 

そしてトルコでも7月9日、エルドアン大統領は次のような演説をされています。

「我々は防衛産業から安全保障まで、トルコをあらゆる分野で強化する。」

 

これまで反政権派の粛清や摘発を行ってきたエルドアン政権、大統領選挙で勝利するや、議院内閣制から実権型の大統領制に移行、更に権力を集中させたことで、EU諸国の懸念を生んでいます。

 

7月17日、南アフリカ・ヨハネスブルグで行われた講演会でオバマ前アメリカ大統領は次のような演説をされました。

「権威主義的な政府が腐敗を生み出すことはこれまで何度もありました。」

「過激なナショナリズムや外国人への嫌悪、人種や宗教的優位性などに頼って国民を抑えていこうとする国々は、結局内戦や戦争で疲弊しています。」

「今、世界はより危険で、より残虐な状態に戻るリスクをはらんでいます。」

 

「私は、平等と正義と自由と他民族による民主主義を信じています。」

「私たちは近年の過去の過ちから学ばなければならない。」

 

さて、以下に一部の番組パネリストによるコメントをまとめました。

寺島 実郎さんは次のようにおっしゃっています。

「「強者の政治」をもし日本人として議論するならば、日本の民主主義を有効に機能させることを我々自身が努力しなければいけないっていうことなんですね。」

「で、参議院の「6増」っていう話に触れておきますけども、なぜ日本が二院制を取っているのかというと、まさに「数の政治」も重要だけども、これは衆議院なんですね。」

「(これに対して、)参議院は「理の政治」という言葉を使っているんですよ。」

「つまり、筋道の通った政治をするために、バランスをチュックするために参議院っていうことなんですね。」

「要するに、政治で飯を食う人を出来るだけ少なくするということが非常に重要なわけで、そういう時に代議制を鍛え直していかなければいけないわけですよ、緊張感を持ってですね。」

「例えば、今回「6増」の鳥取県、島根県なんですけども、人口が今57万、70万、これが3割近く人口が減るだろうと見込まれている状況の中で、さてどうする。」

「僕はこういう地方を無視していいっていう意味で言っているんじゃないんです。」

「逆でね、もし地方のどんなに少なくても1議席つくるんなら、全体の数を圧縮する中で地方を大事にするっていう政治改革の方法、制度設計を議論した方がいいっていいますかね。」

「要するに、政治というものに対する緊張感を持って我々が向き合わないと駄目だということをまず申し上げておきたいです。」

 

大崎 麻子さんは次のようにおっしゃっています。

「オバマさんが過激なナショナリズムで国をまとめあげても、内戦や戦争が起きるっていうのは歴史が示しているとおっしゃってましたけど、まさにその反省を踏まえて1945年以降は普遍的な価値観を共有する多国間の枠組みをつくってきたわけで、その流れの今集約されているのが持続可能な開発目標です。」

「SDGsと言いますけど、そういう国連193ヵ国、全部が合意して、なおかつ政府だけじゃなくて民間企業や市民社会も巻き込んで環境や社会の持続可能性を高めて行こうという枠組みだったり、さっきのEPA、ヨーロッパと日本の経済連携協定もそういう価値観が入っていますし、そういう動きをいかに高めて行くかということも私は非常に重要だなと思います。」

 

荻野 チキさんは次のようにおっしゃっています。

「強者の政治というふうに言った時に、2つ大きくあると思うんですね。」

「一つは独裁的で権力に基づいて言論を弾圧しながら、自分たちの政治体制を維持しようとする古典的な動きがあります。」

「一方、ポピュリズムのように人々の反感をより鼓舞して、人々への弱者のより感情的な高ぶりをよりアピールすることによって、煽ることによって、攻撃心を自分たちなら背負えると、自分たちならあのエスタブリッシュメントを引きずりおろすことが出来ると。」

「そうした路線は、場合によっては、例えばものすごく緊縮路線に行けば、バラマキ路線にも行き得るわけですよね。」

「そうしたような、ある種の好奇心が果たしてそことマッチする仕方でいいのかという、やっぱり個別の政策と見ていく体制をこれからも維持していく、その意味で民主主義の中でいかに政治をコントロールする意志と具体的なシステムがこれから問われるんだなと思いますね。」

 

元村 有希子さんは次のようにおっしゃっています。

「強いものってなんだろうと感じざるを得ないですね。」

「強いというのは、その人が強いわけではなくて、その人の取り巻きが強いわけですよね。」「そして、共通の何かしらの利益によってつながっている、まとまっている人たちが専横を振るうっていうことですね。」

「これは本当に私から見れば男性的、筋肉質的、そして数を頼むっていうイメージがあります。」

「だから、多分弱い人のことが見えているというのが本当の強い人だと私は道徳で習いましたから、例えば今出て来た大統領たちは皆男性ですよね。」

「どうして、もう少し女性的な視点とか弱い人たちの声が彼らに届いてないんだろうってことを素朴に思いますね。」

「だから、日本もパターナリズム、「由らしむべし、知らしむべからず」じゃなくて、もう少し本当に下を虫の目を大切にするような、そんな政治に生まれ変わらなければ世界平和はないなと素朴に思いました。」

 

「今年の始めにイギリスである学者さんにインタビューしたんですが、その方はグローバル経済の結果、民主主義が機能しなくなるという、予言めいたポスト・デモクラシー、次の時代が来ると20年ほど前に予言をした、まさにそういう時代になっているようにも思えるんですが、その中で印象に残った言葉で、「人は不安になると独裁的な指導者を選ぶようになる、それもごく普通の人が悪意なく独裁的な指導者を選ぶようになる」と。」

「これが民主主義のダークサイドなんだと。」

「これがものすごく印象に残っているんですね。」

「思い起こすと、我々は決められない政治というのにちょっと前に苛立って、「早く決めてくれよ」と。」

「やはり、民主主義のコストみたいなものを嫌悪する、「決めてくれよ」という意識は誰にもあると思うんですね。」

「だから、普通の人にもある、自分たちの中にあることを見つめることが民主主義をもう1回立て直すことの第1歩になるんじゃにかなと思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず、番組を通して政治に関する一般原則のようなものを私なりに以下にまとめてみました。

・権威主義的な政府や長期政権は腐敗し易いこと

・過激なナショナリズムや宗教は内戦や戦争を引き起こし易いこと

・民主主義はコストと時間がかかること

・一方、独裁政権は判断や行動がスピーディであること

・人は不安になると独裁的な指導者を選ぶ傾向があること

・国民の政治意識のレベルがその国の政治レベルを決定すること

・選挙で投票しても、選挙民はその政党や政治家の政策に100%賛成しているわけではないこと

 

このようにまとめてみると、結局私たち国民一人ひとりの政治意識次第で、国の政治のレベルは規定されるのです。

ですから、私たちはこのことを肝に銘じて少しでも政治に対してしっかりした意識を持つようになることが求められるのです。

政治が悪いからと政治から目をそらし、投票所にも行かなければ、政治家を批判する資格はないと思うのです。

同時に、特に国のあり方を左右するような大きな政策の決定に際しては、国民の声が直接反映出来るような政治制度が求められると思うのです。

 

ちなみに、“アメリカファースト”を唱えるトランプ大統領も多くのアメリカ国民の支持があったからこそ、大統領になり得たのです。

ですから、トランプ大統領の存在は良くも悪くもアメリカ国民の政治レベルを反映した結果と言えます。

 

一方、中国の習近平国家主席は憲法改正により無期限に権力の座に留まることが可能となりましたが、それでも権力維持のためには多くの国民の声を無視することは出来ないといいます。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています