6月18日(月)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)でDIYバイオについて取り上げていたのでご紹介します。
DIY(Do It Yourself)とバイオテクノロジーというこの2つの言葉がくっつくとDIYバイオ、つまり生物科学の実験や研究を自宅などでするという人がアメリカを中心に増えています。
カリフォルニア州に住む18歳の男性は、ある微生物に光るクラゲの遺伝子を組み込んだことで光ります。
また、酵母の遺伝子を改変して“光るビール”を作りました。
更にこの男性が作り出したトマトは牛肉の甘味の元になる遺伝子を組み込んでいて、ビーフステーキ風の味がするトマトを作りました。
一方、カリフォルニア州で共同実験室で市民グループが取り組んでいるのは糖尿病の治療薬、インシュリンを安く作る研究です。
発展途上国の患者などを救いたいと考えています。
このDIYバイオ、日本でもユニークな挑戦をしている人たちがいます。
週末、都内の雑居ビルに集まった人たち、真剣に議論しているのが自宅で肉を培養する方法です。
牛や鶏の細胞を培養して食肉を作ろうというプロジェクトです。
このプロジェクトの代表者、羽生 雄毅さんは次のようにおっしゃっています。
「今の畜産が抱える問題を解決しようという大きな流れなんですが、ゆくゆくは“自宅で肉を育てる”みたいなものを実現しようとしています。」
実は5年前、オランダの大学教授が世界で初めて培養した肉を披露したのです。
培養肉のハンバーグを試食した女性は、本物の肉みたいだという感想を述べています。
培養したのは、牛の筋肉から採った幹細胞で、最先端の再生医療技術を応用することで実現しました。
牛を殺すことなく、食肉を作り出せる画期的な技術の誕生です。
今、世界中のバイオマニアやベンチャー企業がこぞって研究に乗り出しています。
将来、食料革命を起こせると、投資家たちも期待を寄せています。
アメリカの投資会社のアレックス・コペリアンさんは次のようにおっしゃっています。
「ハンバーグ1枚分のコストは大きく下がったとはいえ、2000〜3000ドルかかるので、まだ市場に参入出来るレベルではありません。」
「でも将来的には普通の肉と同じかそれよりも安い価格になるでしょう。」
日本で挑戦しているのは、ショウジンミート・プロジェクトで、精進料理から採りました。
メンバーは高校生から会社員、主婦まで約40人です。
その中の一人、会社員の杉崎 麻友さん(25歳)は大学院でバイオテクノロジーを専攻していました。
杉崎さんの実験室は自宅のマンション、リビングの一画で鶏肉の細胞を培養しています。
平日は外資系の企業でITコンサルタントをしている杉崎さん、帰宅して細胞の成長を見るのが一番の楽しみです。
杉崎さんは、今は莫大なコストを下げるためにいろいろな工夫を試しています。
高価なものは1台数百万円する培養装置、杉崎さんは簡易的なものをネットショッピングで5万円で購入しました。
培養に大切なCO2の量は重曹水を使って調整します。
そして細胞を取り出す時に使うのは扇風機です。
遠心分離機の代わりに使っているのです。
手軽な実験で大きな成果を生み出せるかもしれないと、杉崎さんは多くの人に参加して欲しいと考えており、次のようにおっしゃっています。
「みんなで培養肉をつくるための技術をどんどん磨いていきましょう。」
「効率よく細胞が増えていけるような実験系を確立させていきたいなと思います。」
培養肉のなどDIYバイオにはビジネスとしての注目も集まっています。
6月11日の週に千代田区で開催されたDIYバイオのセミナーには商社や投資家など約70人が参加しました。
セミナーでは以下のような説明がありました。
「培養した細胞そのものが商品・製品になるパターンです。」
「150兆円の食肉市場を目指している段階にあります。」
参加した投資会社からは非常に大きな産業になるという期待の声がありました。
このDIYバイオは今後どんどん増えていくと思われますが、番組で紹介された日本の人たちは法律に則っているのですが、急激に広がっているアメリカでは次のような人が現れています。
昨年ユーチューブで公開された映像では、腕に注射をしています。
この男性が自分で設計した遺伝子を注射していて、筋肉を増強する可能性があるといいます。
今のところ体に影響は出ていないそうですが、批判の声など世界的な反響を呼びました。
この分野に詳しい早稲田大学理工学部の岩崎 秀雄教授は、遺伝子改変を行うと、必ず副作用があると考えるべきだと指摘しています。
今後、生命倫理に係わる実験を個人が行うようになると、リスクを伴うのでそれをどう規制するのか今から検討する必要がありそうです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
以前、どこかで今後注目すべき技術はバイオテクノロジーであるというようなことを耳にしたことがあります。
この時はあまりピンと来ませんでしたが、この番組を見てなるほどと思いました。
今回ご紹介したDIYバイオについて、以下にまとめてみました。
・バイオテクノロジーは牛や鶏などを殺すことなく、遺伝子操作だけで食肉を作り出せる画期的な技術であること
・このバイオテクノロジーの実験や研究は自宅などで比較的容易に出来ること
・今、世界中のバイオマニアやベンチャー企業がこぞって研究に乗り出していること
・今はまだバイオテクノロジーにより作られた食品は高価だが、いずれ現行の食品の代用として期待出来ること
・将来、食料革命を起こせる可能性を秘めており、投資家たちも期待を寄せていること
・食品だけでなく、糖尿病の治療薬やインシュリンを安く作る研究も進んでいること
・更に一般人が自分で設計した遺伝子を注射しており、筋肉を増強する可能性があること
・遺伝子改変を行うと、必ず副作用があると考えるべきだと専門家は指摘していること
・今後、生命倫理に係わる実験を個人が行うことはリスクを伴うこと
・こうしたリスクをどう規制するのか今から検討する必要があること
こうしてまとめてみると、バイオテクノロジーの食品への応用は、まさに食料革命を起こせる可能性を秘めています。
夢のような話ですが、将来、私たちは誰でもが自宅で簡単に遺伝子操作により、味や栄養の観点から自分好みの食品を作り出せるかもしれないのです。
更に医療薬や筋肉増強など人体改造にまでDIYバイオは及ぼうとしているのです。
更にその先には、遺伝子組み換えなどの遺伝子操作により、私たち人類はヒトも含めてあらゆる生物を自分好みに自在に改変することが出来るようになるかもしれないのです。
しかし、専門家が指摘しているように、こうした技術は遺伝子改変による副作用のリスクが伴います。
そして、このリスクが発生した場合、取り返しのつかない事態を生んでしまうかもしれないのです。
ですから、バイオテクノロジー、中でもDIYバイオの普及にあたっては、副作用などのリスクを十分に検討すること、および規制の強化が世界的に求められるのです。
このようなバイオテクノロジーですが、将来人類が宇宙や他の惑星で暮らす場合のことを考えると、日々の暮らしにとって欠かせない技術だと大いに期待出来ます。