2018年09月29日
プロジェクト管理と日常生活 No.560 『南海トラフ巨大地震発生のリスク対応策 その1 日本が世界最貧国に転落!?』

9月1日(土)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)では「MEGAQUAKE「南海トラフ巨大地震 “Xデー”に備えろ」」をテーマに取り上げていました。
そこで、番組を通して南海トラフ巨大地震発生のリスク対応策について4回にわたってご紹介します。

1回目は日本が世界最貧国に転落するリスクについてです。

 

今年日本列島周辺で発生した地震のうち、震度5弱以上の揺れを観測した地震は8回に上ります。

6月には大阪府北部(震度6弱)、7月には千葉県東方沖(震度5弱)、そして今最も懸念されているのが東海から九州にかけて広がる南海トラフの巨大地震です。

最大マグニチュード9、震度7の激しい揺れと10mを超える巨大津波が各地を襲います。

東京、大阪、名古屋で都市機能がマヒ、経済損失は1410兆円、国の年間予算の10倍を超えます。

ですから、世界最貧国に転落する危険性があると言われています。

今、私たちはかつてない脅威に直面しています。

最新の科学は南海トラフ地震が起きる“Xデー”はより近づいていることを捉えました。

地下深くで地盤がゆっくりずれ動く不気味な現象、“スロースリップ”、発生場所を少しずつ変えながら地震の震源域にひずみを溜め続けているというのです。

刻々と迫る“Xデー”にどう備えればいいのか、国は昨年巨大地震の危険性を事前に知らせる新たな制度を導入しました。

それは“臨時情報”、前兆と見られる異常な現象を観測した時に発表されます。

その時、人々はどう行動するのでしょうか。

 

今回、沿岸の自治体や住民に大規模なアンケートを実施しました。

浮かび上がってきたのは、全国に広がるパニックの可能性です。

私たちに突き付けられる難しい決断がいくつも見えてきました。

 

甚大な被害が予想される南海トラフ巨大地震、今後30年間に起きる確率はこれまで70%とされてきましたが、今年2月には70%から80%に引き上げられました。

東京大学地震研究所の小原 一成所長は次のようにおっしゃっています。

「ピンポイントで地震の発生を予測するということは非常に難しいんですけども、M8以上の巨大地震の中で、今後30年以内に80%と予測されているのは南海トラフと千島海溝の根室沖、この2ヵ所だけなんですね。」

 

また、名古屋大学減災連携研究センターの福和 伸夫センター長は次のようにおっしゃっています。

「東日本大震災で犠牲になられた方は約2万人(死者・不明者約1万8400人(関連死を除く))、それに対してこちら(南海トラフ)の地震では最悪死者32万3000人と言われています。」

「東京、大阪、名古屋という日本を代表する大都市も含まれています。」

「ですから、なんとしてもこの被害を事前に減らす努力はしないといけないんですね。」

 

さて、南海トラフ地震が起きる“Xデー”が一層切迫している可能性が新たに浮かび上がってきました。

東北大学の助教、高木 涼太さんが“Xデー”のカギを握ると注目しているのが“スロースリップ”と呼ばれる現象です。

 

プレート同士が強くくっつきあった固着域、“スロースリップ”はその周辺で発生します。

高木さんが考えるメカニズムは以下の通りです。

“スロースリップ”が起きるとプレートの一部がゆっくりとずれ動きます。

この動きによって周辺の岩盤が変形し、ひずみが生じます。

すると、そのひずみの影響ですぐ隣の領域でも“スロースリップ”が発生し、ひずみが生じます。

これを繰り返し、最後に固着域のすぐ近くで“スロースリップ”が起きると固着域の淵に新たなひずみが加わります。

この移動現象が起きるたびに固着域の淵に増々ひずみが加わり、固着域を圧迫していきます。

そしてある時、これが最後の一押しとなってひずみが限界に達すると巨大地震が引き起こされるというのです。

 

高木さんは次のようにおっしゃっています。

「“スロースリップ”が起こることで、着実に巨大地震発生域の力を溜めている、確実にその日(“Xデー”)に近づけているということになっていると思います。」

 

さて、“臨時情報”についてですが、福和さんは次のようにおっしゃっています。

「東日本大震災の時、二日前にM7より少し大きな地震が起きましたね。」

「あの前震の時に“臨時情報”が出ていて、より多くの人が逃げていたら、犠牲者の数は圧倒的に減らせたはずなんです。」

「ですから、津波がすぐに来てしまうような沿岸の場所ですね、お年寄りですとか、体の不自由な人、子どもを持つ家庭の方々、そういった方々は出来れば事前避難が望ましいと思います。」

 

また、この“臨時情報”の解除の判断について、小原さんは次のようにおっしゃっています。

「実際問題、非常に難しいですね。」

「“臨時情報”を出す時にはある程度現象が起きて、そこで情報を出しますけども、その後の変化というのは非常に徐々に変化してくる、そういう中でどこを基準にしていつ解除の情報を出したらいいかというのは非常に難しいと思います。」

 

そして“臨時情報”が出された場合の対応について、福和さんは次のようにおっしゃっています。

 

「(数ヵ月という“臨時情報”が出されるとなった時に私たちはどのような生活をしていけばいいのかという問いに対して、)非難をする時にどんな方でも忍耐には限界があるわけですよね。」

「アンケートの結果にもありましたように、3日とか1週間というのが一つの判断の材料なのかもしれません。」

「(その後はどんな風に生活していったらいいかという問いに対して、)地震が起きる危険性が下がったわけではありませんから、十分な警戒をしながら普段の生活を続けるということ以外ないと思います。」

「(出来る対策としてどんなことがあるのかという問いに対して、)避難路の確認をし、どこが安全な避難路かを考えておくこと、それ以外にも様々な心の準備をしておくだけで適切な対応が出来てくると思います。」

「(怖いなと思った時期は起きるパニックや買い占めのリスクについて、)“臨時情報”を冷静に受け止めながら、災害を減らすためにどうすればいいかというかたちで使うべきであって、普段から“臨時情報”の意味を十分に国民全員が理解しておくことが大切だと思います。」

「(例えば、“臨時情報”発表で学校や幼稚園、保育園はどうなるのかという問いに対して、)これは中々難しい判断になると思いますが、極めて津波危険度が高く、すぐに津波が来るような場所はやはり休校にせざるを得ないとは思いますが、そうではない保育園、学校、病院、福祉施設、こういったものは出来れば万全の注意をしつつ、続けておいていただくことが必要だと思います。」

「(沿岸部の交通機関はどうなるのかという問いに対して、)東海道新幹線のようなものは“臨時情報”が出てもそのまま運航し続ける可能性が高いと思います。」

「出来る限り交通機関も止めないことによって社会への影響を小さくしたいんですが、沿岸部を通っている線路とかはやむを得ず対応を考える必要があると思います。」

「とにかく最も大切なことは命を守ることを最優先としつつ、一方で出来る限り社会も持続していくという態度が必要だと思います。」

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

まず驚くのは、南海トラフ巨大地震の被害の大きさです。

東京、大阪、名古屋で都市機能がマヒ、経済損失は1410兆円、国の年間予算の10倍を超えると想定され、世界最貧国に転落するリスクがあるのは当然です。

また、最悪のケースでは死者32万3000人と想定されています。

しかも、今後30年間に起きる確率はこれまでの70%から今年2月には80%に引き上げられたのです。

こうしたことから、大げさではなく、長期的にみた日本という国の持つ最大のリスクは南海トラフ巨大地震とも言えそうです。

 

こうした甚大な被害が想定される南海トラフ巨大地震なのですから、その被害を最小限に食い止めるためのリスク対応策が国を挙げて検討されるのは当然です。

そこで、刻々と迫る“Xデー”にどう備えればいいのか、国は昨年巨大地震の危険性を事前に知らせる新たな制度、“臨時情報”を導入しました。

たしかに、巨大地震が発生するかもしれない予兆を捉えて公表することは、事前に余裕を持って避難出来るようになるのですから、現状のままの状態で被害を最小限に食い止めることが出来ます。

しかし、一方で“臨時情報”の精度が悪かったり、長期にわたる場合は日常生活に大きな弊害が出てきます。

ですから、この新しい制度にはある程度試行錯誤が必要です。

また、“臨時情報”の精度を高める一方で、“臨時情報”が当たらなくても予行演習だと思って真剣に対応することが私たちに求められます。

 

いずれにしても、事前に巨大地震の前兆を捉えることは被害を最小限に食い止めるうえで、とても重要です。

ですから、是非この“臨時情報”制度を定着させて欲しいと思います。

同時に、前回お伝えした古い耐震基準の大規模建物や古い一般住宅などの建物の耐震対策も怠ることは出来ないのです。


 
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