6月5日(火)放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)で海の厄介者の活用について取り上げていたのでご紹介します。
海の生き物の中には大量に発生すると非常に厄介な存在になってしまうものがあります。
しかし、それらも生かし方によっては貴重な資源になるかもしれません。
例えばオニヒトデ、沖縄を中心に九州、四国、紀伊半島などでたびたび大量に発生します。
オニヒトデはサンゴを食べるため、大量発生するとサンゴ礁が食べつくされてしまいます。
そこで駆除を行うわけですが、駆除したオニヒトデを何とか有効活用出来ないかと検討がなされてきました。
名古屋大学ではアルツハイマーの治療薬の成分になる可能性があるとして、研究が進められています。
一方、エチゼンクラゲも海の厄介者の一つです。
日本海沿岸に大量発生したことがニュースになりました。
このエチゼンクラゲ、網に大量に入ると漁業者に大きな被害をもたらすと言います。
ある農家では駆除したエチゼンクラゲを畑の肥料に利用しています。
また、食品に活用するなどの研究も行われています。
そして今、三浦半島に新たな海の厄介者が現れました。
それがウニです。
このウニを価値あるものに変える意外な方法があります。
神奈川県三浦市にある神奈川県水産技術センターでは、主任研究員でリーダーの臼井
一茂さんを中心に3年前から付近の海で駆除されたムラサキウニの養殖実験に取り組んでいます。
臼井さんは食品加工の専門家、世界中から水産物の加工品を集めて研究をしています。
県内のパーキングエリアで臼井さんの開発した商品が人気になっています。
カマスという魚の骨を抜き、丸ごと揚げた「かます棒のフライ」です。
小田原港にあがるカマス、今まで流通に乗らなかった小ぶりなものを有効活用しました。
「まぐろコンフィ」も水産会社と共同開発し、今や地元の人気商品です。
臼井さんはこれまで加工食品を2000近く世に送り出してきました。
水産大学を卒業してから水産加工一筋、25年、利用価値がないとされる魚介を商品にするのが臼井さんの生きがいです。
さて、ムラサキウニの養殖実験ですが、そこには臼井さんのある工夫があります。
ムラサキウニに餌として与えているのは、なんとキャベツです。
ウニはキャベツをよく食べるといいます。
今回は加工品ではなく、ウニの身を増やす実験です。
体重の10%身があれば売り物になると言われていますが、身の入りが悪かったウニが、キャベツを与えると1ヵ月半でおよそ6倍(体重の12%)になると、研究では既に実証済みです。
更に驚くべき変化があります。
苦味成分が4分の1に低下し、果物みたいな味がするといいます。
驚くべきキャベツパワーですが、臼井さんがキャベツに目を付けたのには理由があります。
三浦半島は国内有数のキャベツの生産地です。
年間5万5000トンを生産しています。(2016年
農水省調べ)
三浦半島の柔らかい春キャベツは、甘みがあってブランド品になっています。
それだけに出荷基準も厳しく、規格外品が約1割になるといいます。
出荷しても箱代などを差し引くと赤字になるため、畑で潰してしまいます。
この畑の“もったいない“を海の厄介者の餌にと臼井さんは考えたのです。
私たちが食べるウニの身は卵巣や精巣といった生殖器官です。
それらは夏の産卵期に向け、一気に大きくなります。
その時期がまさに春キャベツの最盛期と一致するのです。
一方、神奈川県横須賀市の佐島漁港では、温暖化の影響で生態系が変わり、年々魚種も減り、漁獲量が落ちています。
漁師も農家と同じような悩みを抱えていました。
そこで大楠漁協(漁業協同組合)では新たな事業に取り組んでいました。
“キャベツウニ”の養殖です。
商品化に向けてテスト中、しかし魚を獲るのは得意ですが育てることには慣れていません。
大楠漁協の藤村
幸彦さんも困っていました。
そこに強い味方が現れました。
地元の水産高校、県立海洋科学高校の生徒たちです。
週に一度やって来て、水槽の飼育から掃除、餌やりまで率先してやってくれます。
生徒たちは次のようにおっしゃっています。
「身近で磯焼けが起きていることを知らなかったです。」
「聞いて、思っている以上にとんでもないことになっているんだなと思っていて・・・」
「いらないものといらないものの組み合わせで、それが商品に出来るんであれば、地域に貢献出来るんであれば・・・」
こうした生徒たちの声に、藤村さんは次のようにおっしゃっています。
「こういう若い子たちが将来漁業に関心を持ってくれればいいかなと思いますよ。」
“キャベツウニ”の養殖事業は希望の星になっていました。
しかし、現実はそう甘くはありません。
ウニは雨水に触れるとすぐに死んでしまうのです。
真水に触れるとウニの細胞が2,3日で全部死んでしまうのです。
天候や水温の変化に弱く、意外にデリケートなウニ、手間暇がかかります。
また、未知の“キャベツウニ”に対する地元の評判もあまり芳しくありません。
そうしたある日、大手百貨店、高島屋のバイヤーが大楠漁協を訪れてきました。
横浜の店舗で売れる地元の食材はないかと探していたところ、“キャベツウニ”の情報を聞きつけて来たというのです。
しかし、藤村さんは浮かない顔です。
固体により身のバラつきがあるので自信が持てないのです。
しかもウニの最盛期は7月、まだこの時期(6月初旬)は身があまり入っていません。
しかし、バイヤーは“キャベツウニ”の味にとても満足です。
将来、“キャベツウニ”の餌になる規格外品のキャベツにも当然値が付きます。
大楠漁協のかごにキャベツが、“畑のもったいない”と“海の厄介者”を組み合わせたビジネスが三浦半島で動き出していました。
この“キャベツウニ”が数年後には回転寿しやスーパーにお目見えするかもしれません。
“キャベツウニ”の仕掛け人、臼井さんは更にその先を見つめています。
今度は柑橘系の餌、湘南ゴールドで実験していました。
臼井さんは次のようにおっしゃっています。
「どうしてもウニって見た目ですよね。」
「きれいな黄色を出したいので、もし生まれていけば“ミカンウニ”とかになるんですかね。」
「レモンとかライムをかけなくても、爽やかなウニが出来たらまたちょっと面白いですよね。」
「突拍子もないアイデアから始まりましたけども、実際やる人がいなかった。」
「ただ、やってみたら面白い結果、しかもいい結果が出て来た。」
「これも結局、僕らにマッチしないから利用されていなかったですけど、マッチする方法さえ見つければ、いくらでも利用出来るんじゃないかと思うんですよね。」
“キャベツウニ”の研究、アメリカやカナダ、チリなど世界各国から引き合いが来ています。
なお、番組ではこの他に石灰石を使った新素材を取り上げていました。
それは商品名「ライメックス」という紙の弱点である耐久性と耐水性の両方を克服した紙の代用資材です。(参照:アイデアよもやま話 No.3640 石灰石で出来た画期的な紙!)
以上、番組の内容をご紹介してきました。
私事ですが、私は小学校時代の大半を千葉県の外房の小さな漁港の村で過ごしました。
海辺には磯が広がり、当時は子どもでも磯でウニを簡単に取ることが出来、その場で石でウニを砕いてそのまま食べることが出来ました。
ですから、上京してお寿司屋さんでお金を払ってウニを食べることには当初とても抵抗がありました。
さて、実家の近くの漁協関係者の話でも、温暖化の影響か、以前に比べて大分漁獲量が減ってきたといいますが、神奈川県横須賀市の佐島漁港でも同様のようです。
そうした中、今回ご紹介した“キャベツウニ”への取り組みは多くの漁業関係者に希望を与えるものだと思います。
そこで、あらためてこの取り組みについて以下にまとめてみました。
(漁業を取り巻く状況)
・温暖化の影響で生態系が変わり、年々魚種も減り、漁獲量が落ちていること
・海の厄介者、ムラサキウニは見の入りも悪く、駆除されていること
・三浦半島の春キャベツはブランド品になっており、約1割という規格外品は畑で潰していること
(“キャベツウニ”の誕生)
・夏の産卵期に向け、一気に大きくなるウニの身と春キャベツの最盛期が合致し、“キャベツウニ”を育てるうえで、ウニとキャベツはとても相性がいいこと
・“キャベツウニ”は体重の12%が身となり、果物のような味になるという研究成果が得られたこと
・こうした“キャベツウニ”は商品価値がとても高いこと
(今後の展開)
・高島屋のバイヤーが大楠漁協を訪れて、“キャベツウニ”の味にとても満足したこと
・更に、アメリカやカナダ、チリなど世界各国から引き合いが来ていること
・将来、“キャベツウニ”の餌になる規格外品のキャベツにも商品価値が期待出来ること
・将来的には湘南ゴールドとの組み合わせによる“ミカンウニ”の誕生も期待出来ること
こうしてまとめてみると、あらためて思い出されるのは、アイデアは既存の要素の組み合わせであること、そしてアイデアは存在し、発見することであるという言葉です。
臼井さんは、規格外品の春キャベツの廃棄、そして佐島漁港での漁獲量の減少傾向という三浦半島の現状下において、規格外品の春キャベツと海の厄介者であるムラサキウニの組み合わせから“キャベツウニ”を誕生させたのです。
高島屋のバイヤーや海外からの引き合いがあるというのですから、是非ビジネスとして成長させて欲しいと思います。
この成功は、必ず他の地域にとっても大きな刺激になると思います。
それにしても果物のような味のするウニとはとても気になります。
この“キャベツウニ”が回転寿しでも食べられるようになったら、多少高くても是非試食してどんな味なのか実際に確かめてみたいと思います。