2018年09月15日
プロジェクト管理と日常生活 No.558 『北海道で巨大地震 その2 巨大地震発生に伴う全域停電のリスク対応策』

9月6日(木)3時過ぎに、北海道で初めて最大震度7を観測する地震が発生し、北海道全域にわたり大変な被害をもたらしています。

そこで、プロジェク管理の観点から2回にわたって被害の現状と影響、そしてリスク対応策についてご紹介します。

2回目は9月8日(土)放送の「想定外なのか? 北海道地震での全域停電」をテーマとした「時論公論」(NHK総合テレビ)を通して、巨大地震発生に伴う全域停電に焦点を当てたリスク対応策についてご紹介します。

なお、解説は水野 倫之解説委員でした。

 

 今回の地震では、北海道全域が長時間にわたって停電するという大きな被害が起き、電力インフラの脆さが露呈しました。

いまだに100万戸以上で停電が続いていまして、住民は不自由な生活を強いられています。

今回の全域停電について、政府や電力会社は「想定外のことが起きた」と説明していますが、本当にそうなんでしょうか

・なぜ長時間の全域停電となってしまったのか

・停電への対策はどうなっていたのか

・今後広い範囲の停電を防ぐには何が必要なのか

以上3点から全域停電を検証します。

 

地震の前、北海道では310万kwの電力需要があり、北海道電力では主に4ヵ所の火力発電所を稼動させて電力を供給していました。

しかし、地震の発生で、震源に最も近い厚真町の苫東厚真火力発電所が緊急停止し、電力需要の半分以上にあたる165万kw分の供給が失われ、道内の電力需給バランスが大幅に崩れました。

これを受けて他の3ヵ所の火力発電所も停止し、北海道全域の295万戸が長時間停電する異常事態となりました。

 

影響は大きく、JRや地下鉄は終日運休し、道路では信号が止まり、警察官が車を誘導しました。

病院も非常用電源を動かすなど対応に追われましたが、外来の受付を停止したり、人工透析が出来ないところも出ました。

大規模停電は人の命にも係わる重大な事態と言えます。

他にも乳牛の搾乳が出来なかったり、多くの工場が操業停止に追い込まれるなど、経済への影響も心配されています。

 

それにしてもなぜ全域停電という深刻な事態が起きたのでしょうか。

電力は普段は需要と供給のバランスを取り、周波数を一定にして送られています。

しかし、そのバランスが崩れますと周波数が変化していわば質の悪い電気が流れることになり、発電所ではタービンなどが壊れる恐れがあります。

これを防ぐために各発電所には周波数の変化を検知した場合に緊急に運転を止める安全装置がついています。

今回主力の苫東厚真発電所が止まって電力供給の半分が瞬時に失われたため、周波数が変化、これを受けて残りの発電所も緊急停止しました。

この事態を受けて、経済産業省と北海道電力は、まず苫東厚真を再稼働しようとしましたが、地震の揺れで機器が損傷したことが分かり再開を断念しました。

別の小規模な石炭火力発電所を順次立ち上げていくことに方針を変更しました。

 

しかし石炭火力を再稼働させるには、石炭を運んで砕いたり、空気を送り込まなければならず、そのためには電源が必要です。

その電気を確保するために近隣の水力発電所を再稼動させなければならず、初動に手間取りました。

その後徐々に発電が再開し、昨日(9月6日)夕方までに160万戸あまりで電力が復旧しました。

政府と北海道電力は今日(9月8日)中にほぼ全域で停電を解消させる方針ですが、完全復旧には時間がかかるため節電を呼びかけています。

 

国内で大手電力管内全域が停電となったのは今回が初めてです。

政府も電力会社も瞬時に大規模な電源が失われる「想定外のことが起きた」といいますが、本当に想定出来なかったのでしょうか。

私は、東日本大震災の教訓を踏まえた対策を急いでいれば、停電を最小限に抑えたり、発電再開までの時間を短くすることが出来たのではないかと思います。

 

東日本大震災では福島第一原発など出力の大きい原発が一斉に止まって首都圏で電力が足りなくなり、地域ごとに順番で停電させて電力需要を抑える計画停電が行われました。

これをきっかけに、一ヵ所に大型発電所を集める大規模集中電源の危うさが問題となり、電力が大規模に失われた場合の対策を立てることや、発電所を分散配置すること、更には他の地域から電力の融通を受ける体制を充実させていくことなどが教訓とされました。

 

しかし今回、その教訓は十分生かされず、災害への備えが不十分だったと言わざるを得ません。

北海道電力管内では需要全体の4分の3を火力発電に頼っており、中でも1ヵ所の火力発電所に全需要の半分を担わせるといういびつな電力供給体制となっています。

仮に各地域の多くの発電所で電力需要を賄う分散型電源が実現していれば、震源に近い発電所が停止したとしても需給バランスは大きく崩れることはなく、全域停電にはならなかった可能性があります。

 

そうは言いましても、新たに発電所を設置するにはコストと時間がかかることも確かです。

実際、北海道電力は天然ガスの火力発電所の新設も進めていましたが、今回の地震には間に合いませんでした。

であれば分散型電源の実現と並行して、現状の電力供給体制で大規模な電源が瞬時に失われた場合の対策もしっかり検討しておくべきだったと思います。

経済産業省によりますと、北海道電力管内では130万kwが瞬時に失われる事態までした想定されておらず、今回のような165万kwが失われることは想定外だったというわけです。

しかし苫東厚真発電所は全体で165万kwあるわけで、東日本大震災の教訓を踏まえれば当然これが全て失われることを想定しなければならないはずです。

分散型電源の実現がすぐには難しいのであれな、石炭火力発電所に大容量の非常用の電源を備えて、緊急停止しても短時間で再稼働出来る体制をとることなども検討すべきではなかったかと思います。

 

そして東日本大震災のもう一つの教訓、他の地域からの電力融通についても十分な体制が出来ていませんでした。

北海道で電気が足りなくなった場合、本州から電気を送ることが出来るよう、津軽海峡に北本連携線と呼ばれる海底の送電線がありますが今回は機能しませんでした。

この送電線を使うには本州側から直流で受け取った電気を交流に変換しなければなりませんが、そのために外部から電気を供給する必要がありました。

しかし全域停電となってしまったため、すぐには使えなかったのです。

また仮に融通出来ていたとしても、容量が60万kw分しかなく、苫東厚真を代替するには足りませんでした。

北海道電力では震災の教訓も踏まえて別の連携線の建設を進めていますが、建設に莫大なコストもかかることもあって30万kw分しかありません。

はたしてこの規模で十分なのか、容量を増やす場合にどこが費用負担するのかなど、政府は今回の事態を受けて再検討する必要があると思います。

 

そして今回の事態を受けて更に重要なのは、他の地域で起きることがないか、それを検証することです。

東京電力や関西電力管内など大消費地では、一つひとつの発電所の規模が電力需要に比べて相対的に小さくなるため全域が停電するリスクは小さいと見られています。

しかし四国や北陸など電力需要が小さいところではそれぞれの発電所の規模が電力需要に対して大きくなる場合があるかもしれません。

それぞれの地域で大規模な電源が失われた場合の想定は適切なのか、電源の分散化は進んでいるのか、他の地域からの融通を受ける体制に問題はないか、政府と大手電力はあらためて検証する必要があると思います。

 

北海道では(9月7日現在、)いまだに100万戸以上で停電が続いています。

電気は命に係わる重要なインフラです。

政府と北海道電力は停電による被害が出ることがないよう、まずは発電所の復旧を急いで行った上で、二度と大規模停電が起きない体制を築いていかなければなりません。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

あらためて思うのは、電気は鉄道、道路の信号、あるいは工場、病院などの機能停止に係わる重要な社会インフラであるということです。

そうした中、最大震度M7の巨大地震発生により、北海道の主力の苫東厚真発電所が止まって電力供給の半分が瞬時に失われたため、大きな周波数の変化により残りの発電所も緊急停止してしまい、北海道全域の停電をもたらしてしまったのです。

その結果、その対応に当初の見込みより時間がかかり、現在も2割の節電の呼びかけが続けられています。

 

国内で大手電力管内全域が停電となったのは今回が初めてといいます。

そして、政府も電力会社も瞬時に大規模な電源が失われる「想定外のことが起きた」といいます。

しかし、番組を通して感じられるのは、水野解説委員もおっしゃっているように、本当に「想定外」と言って片付けてしまってよかったのかという疑問です。

 

そこで、以下に今回の巨大地震発生に伴う全域停電について、その問題点、およびリスク対応策、コンティンジェンシープランについてまとめてみました。

(問題点)

・地震強度、その被害規模の想定、およびそのリスク対応策が妥当でなかったこと

(リスク対応策)

・想定の妥当性を見直し、それに沿った適切なリスク対応策を検討・実施すること

 

(問題点)

・経済産業省と北海道電力は、まず苫東厚真発電所を再稼働しようとしたが、地震の揺れで機器が損傷したことが分かり再開を断念したこと

(リスク対応策)

・あらかじめ地震の揺れなどによる機器が損傷を想定したリスク対応策を実施しておくこと

 

(問題点)

・東日本大震災の教訓を踏まえた対策が実施されていなかったこと

(リスク対応策)

・大規模集中電源を避け、発電所を分散配置すること

・他の地域から電力の融通を受ける体制を充実させること

 

  • 上記の教訓を生かした対策の実施を急いでいれば、停電を最小限に抑えたり、発電再開までの時間を短くすることが出来たと思われる

 

(コンティンジェンシープラン)

・電力需給状況に応じた節電の呼びかけ

・地域ごとに順番で停電させて電力需要を抑える計画停電

 

なお、番組でも指摘しているように、今回の事態を受けて、他の地域でも巨大地震が起きることがないかを検証することは同様の被害をもたらさないためにとても重要です。

是非、東日本大震災、および今回の北海道巨大地震の教訓を生かして政府のリーダーシップのもとに検証し、リスク対応策の再検討・実施に取り組んでいただきたいと思います。


 
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