5月22日(火)放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合テレビ)で生物工場について取り上げていました。
そこで4回にわたってご紹介します。
2回目は酵母によるものづくり革命についてです。
私たちの暮らしを大きく変える可能性を秘めた生物工場、最も注目される企業がアメリカにあります。
カリフォルニア州にあるバイオ企業のアミリス社です。
売り上げはこの5年で3倍になりました。
急成長を支えているのが製品の多彩さです。
研究開発部長のジョエル・チェリーさんは次のようにおっしゃっています。
「クルマのオイルやタイヤの素材、ビタミン、抗マラリヤ薬、そして化粧品成分や香料など、現在は数百種類の製品があります。」
その心臓部とも言える開発現場を番組では特別に案内してもらいました。
チェリーさんは次のようにおっしゃっています。
「これが我々が生物工場にしている酵母です。」
お酒やパンなどの発酵に使われる酵母、実はこの酵母を生物工場にして全ての製品を作らせています。
例えばタイヤ素材の場合、酵母の遺伝子にリンゴなどが持つ精油成分遺伝子を組み込みます。
すると、酵母はこの精油成分を大量に作るようになります。
これをゴムに混ぜ込むことでグリップ性能が高く、劣化しにくい新素材のタイヤが出来るのです。
チェリーさんは次のようにおっしゃっています。
「酵母を使えば、何十万種類もの化合物を作れます。」
「この技術なら、自然界のあらゆる物質を作り出せるのです。」
しかし、酵母のDNAの配列は約1200万に及びます。
どの部分にどんな遺伝子を組み込むのか、その組み合わせは無限大です。
そこで、この企業ではAIを導入、最適な組み合わせを予測させるとともに、ロボットで遺伝子操作をすることでスピードアップを図っています。
こうして更なる新製品を生み出そうとしているのです。
チェリーさんは次のようにおっしゃっています。
「手作業では1ヵ月に数種類の遺伝子操作しか出来ません。」
「でもこの設備なら10分で千種類の操作が可能です。」
投資家や国からの資金が集まり、設備にかけた額は12年間で約1500億円、生物工場にはそれだけの価値があるといいます。
アミリス社の最高経営者、ジョン・メロさんは次のようにおっしゃっています。
「望むものは何でも作れるようになります。」
「ものづくりの革命です。」
「それが世界の進むべき道だと確信しています。」
生物工場には、大きく3つのメリットがあると言われています。
1.安く、簡単に大量生産出来ること
2.人間の力では作れなかった物質を作れること
3.地球に優しいこと
1の例としては、前回ご紹介した“スギ花粉米”があります。
2の例としては、マラリヤ治療薬があります。
アルテミシニンと呼ばれるマラリヤ治療薬はこれまで希少な植物からしか採取出来ず、大量生産は出来ませんでした。
しかし、アミリス社は酵母にある植物の遺伝子を組み込んで生物工場とし、大量に作り出すことに成功、2014年の発売以来3900万回分の薬が作られ、世界中の人々を救ってきました。
3の例としては、プラスチックを作る場合、従来の方法では原料は石油でした。
これを化学反応させるには膨大なエネルギーや処理に手間がかかる酸やアルカリが必要でした。
一方、プラスチックを作る遺伝子を組み込んだ大腸菌なら、必要なのは菌の餌となる糖、これはトウモロコシなどから作られるため、環境への負荷がとても小さいのです。
東京大学大学院准教授の五十嵐 圭日子さんは次のようにおっしゃっています。
「(生物工場の可能性について、)モノを作る時というのは、原料をまず何を使うか、それとどういうふうにそれによってモノを作っていくか、そういうところが重要になるんですけど、その中で原料も生物、モノを作るところも生物、こういうようなところで基本的に石油を使わなくてモノを作る、もしくはエネルギーを使わずにモノを作る、そういうことが可能になる、非常に画期的な技術だと思います。」
「(あらゆるモノが作れると言っているが、鉄なども作れるのかという問いに対して、)鉄自身は勿論作れないですけど、鋼鉄に匹敵するような素材を作るというようなことも可能になると思います。」
「(他の生物の遺伝子を別の生物に入れるとすると、人体や生態系への影響はどうなのかという問いに対して、)食べるようなものの場合はまだまだ抵抗が非常に大きいと思うんです。」
「ただ、バイオ医薬品、つまり医療に使うような物質ですと、それはハードルが低いですし、燃料や素材ですとか、そういうようなものに対して使うことに関しては非常に受け入れやすいと考えております。」
「やはり、これに関しては国際的なルールがあるんですけど、そういうものをきちんと使っていく。」
「で、そのうえで“封じ込め”と私たちは呼んでいますけれども、いかに遺伝子組み換えをした生物が外に出ないかというようなことにも気を付けていかなければいけないということになると思います。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
お酒やパンなどの発酵に使われる酵母のDNAの配列は約1200万に及ぶといいますから、どの部分にどんな遺伝子を組み込むのか、その組み合わせは無限大です。
しかも、鉄鋼などと同じものを作れなくても、同じような機能を持つモノを作ることが出来るといいます。
更に、こうした植物工場では安く簡単に大量生産出来、地球にも優しいといいます。
ですから、植物工場は間違いなくものづくり革命をもたらすと思います。
また、AIやロボットの活用がこのモノづくり革命を加速させるといいます。
こうした期待感から今注目されているアメリカのバイオ企業のアミリス社には投資家や国からの資金が集まり、設備にかけた額は12年間で約1500億円といいます。
まだまだ生物工場への取り組みの歴史は浅いので、今後とも第2、第3のアミリス社が誕生するのは間違いありません。
日本においても、こうした仲間入りを果たし、生物工場の世界をリードするような企業の登場が待たれます。