5月20日(日)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で日本の財政状況について取り上げていたのでご紹介します。
今、財務省などが国の財政の立て直しに向けた重要な検討を進めています。
毎年、巨額の借金が増え続け、先進国で最悪の水準となっている日本の財政、国は健全な方向に戻す時期の目標をこれまで2020年度としていましたが、これを更に5年先送りして2025年度とする方向で調整を進めています。
目標はなぜ先送りされるのか、また私たちの生活にどんな影響が考えられるのでしょうか。
まず国の財政状況のキーワードですが、”ワニの口”に例えられています。
口が開いたままふさがらない状態というわけです。
国の財政状況を示したグラフでは、”ワニの口”の上の方は国の支出(社会保障や公共事業、借金返済など)を表しています。
そして、”ワニの口”の下の方は国の収入(所得税や法人税、消費税など)を表しています。
1991年頃に”ワニの口”が開き始めたのですが、この頃にバブル経済の崩壊があり、税収が落ち込む一方、経済対策を行う必要があったので、支出がどんどん増え始めたということです。
この上あごと下顎あごの間をどうやって埋めているかというと借金なのです。
毎年毎年借金が増え続けているのですが、その総額は今年度末時点で883兆円あまり、国民1人当たりにすると700万円の借金を背負っているということになります。
この財政を健全化するということは、この“ワニの口”をなんとかして閉じていくことなのです。
そのためには、ワニの上あごである国の支出を抑えていく一方で、下あごである国の収入をなんとかして増やしていくことが必要になってきます。
この借金が膨らみ続けていく状況を放置しておきますと、国民の生活に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
家計でも沢山借金を抱えている人には、お金を返してくれるか分からないので、あまり貸したくありませんし、仮に貸す場合でも金利が高くなります。
実際に財政危機に陥ったギリシアですけども、金利が高くなって、借金しようにも出来なくなりました。
結局、大幅な増税だとか年金の削減など、国民に痛みを強いることになったのです。
勿論、単純には比較出来ないんですけども、日本は沢山借金を抱えている状況ですけども、今低い金利でお金を借り続けていることが出来ているのです。
それはなぜかというと、日銀の存在があるからなのです。
大規模な金融緩和を日銀は続けていますけども、それは市場にお金を供給するために、市場を通じて大量に国債を買っています。
なので、金利が今低く抑えられているのです。
ただ、それはいつまでも続けられるわけではないのです。
なんで日銀が大量の国債を市場で買っているかというと、それは2%の物価目標を実現するという目標があるからなのです。
で、日銀が大規模な緩和を手じまいする方向、つまり国債を買う量を減らしていくようになりますと、当然国債の金利は上がっていきます。
ならば、日銀はこの先も国債を買い続ければいいのではないかという疑問を持たれる方もいらっしゃるかとも思うんですけど、それは日銀が国債を直接引き受けるということと同じにしてしまいます。
そうすると、当然財政の規律が緩むということで、日銀による国債の直接の引き受けは法律で禁止されていることなのです。
では“ワニの口”を閉じるためにはどうしたらいいのでしょうか。
実際に財務省では議論が始まっており、次のような提案をしています。
まず上あごの支出を切り詰める件についてですが、75歳以上の高齢者が病院の窓口で支払う自己負担の割合を現在の原則1割から2割に増やします。
また、介護サービスですが、利用する人の自己負担を原則1割から2割に引き上げるべきだと提案しています。
ただ、どちらの案も個人の負担が増えるので、当然反発があるので財務省の思惑通りに行くとは限りません。
一方、下あごの収入を増やす件については、税収を増やしていくということですが、まず増税の対象になるのは消費税です。
当面の焦点としては来年10月に消費税を予定通り10%に引き上げるかどうか、これは年内にも判断される予定です。
ただ、10%に引き上げたとしても、それでは不十分だという指摘も出ています。
例えば、OECD(経済協力開発機構)という国際機関ですが、段階的に19%まで引き上げるべきだと提言しています。
また、所得税についても見直しが進んでいく可能性があります。
今年度の税制改正で、年収が850万円を超える会社員は原則所得税が増税になると決まりました。
今後、政府与党は所得税の見直しを更に進めていく方針ですが、増税となる年収の上限が下がるという可能性も否定出来ません。
では、“上あご”と“下あご”、すなわち支出と収入を近づけていくための政府の取り組みですが、政府は財政を健全化していくという目標を立ててはきたのですが、その目標というのは先送りが繰り返されてきました。
政府は元々、2011年度に基礎的財政収支という指標を黒字化する目標を立てていたのですが、リーマンショックなどで頓挫しました。
その後、2020年度に黒字化するという目標を目指していたのですが、消費税の使い道を教育の無償化などに変えるということで、事実上断念した経緯があります。
そこで、新しい目標を立て直すということで、今議論が行われているのですが、その達成時期はこれまでより5年先送りして、2025年度に黒字化するという方向で今調整が進められています。
これまでの目標の先延ばしですが、甘い経済見通しですとか、2度にわたる消費税増税の延期、更には景気対策として補正予算を繰り返し編成してきた、こういうことが影響しているという指摘もあります。
それで負担増の話は、出来れば避けて通りたいところですが、そこに目をつむっているとこれまでの繰り返しになってしまいます。
その漬けは結局その子や孫の世代に先送りするということになってしまいますので、今のうちに何とか手を打っていく必要があると思います。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
そもそも国の財政も一般家庭と同じく、収入の範囲内で支出を考えるというのが大原則です。
ですから、現状では国民1人当たり700万円の借金があるといいますから、毎年少しずつでも借金が返せるように収入から支出を差し引いて借金の返済が出来るように予算を組み立てる必要があるのです。
しかし、こうした予算を組み立てることは、毎年毎年の経済環境次第で国民への負担増を強いることになります。
そうすると、政権与党への風当たりが強くなるので、政府は増税に二の足を踏む傾向にあります。
特に国政選挙が近くなってくると、その傾向は強くなります。
現在の日本の財政状況はこのような流れの中にあるのです。
そこで、対策を立てるうえで番組にもあるように収入と支出の2つの観点がありますが、ここでは収入に注目して考えてみます。
収入の源泉である税収は経済状況に依存します。
また経済状況はいかに需要を増やすかにかかっています。
長い目で見れば、旧来の産業から新たな産業への転換を見据えた産業政策の如何にかかっているのです。
そして産業政策次第で税収は上下するのです。
その税収次第で収支の上下は左右されるのです。
ですから、将来を見据えた産業政策はとても重要なのです。
税収を考える際のもう一つの観点は所得の再配分です。
これまで何度かお伝えしてきたように、特に先進国においては格差社会化が進みつつあります。
中間層が減り、高額所得者層と低所得者層との二極分化です。
そこで、高額所得者層に増税し、その分を低所得者層に所得配分するという考え方です。
実際に、かつてはこうした考え方を国の政策に取り入れ、日本に限らずアメリカなどでも現在に比べて経済格差はありませんでした。
しかし、国の政策変更により、現在では日本もアメリカも経済格差が進んでいます。
こうした状況を以前のように戻すことは、高額所得者層からの強い反発が見込まれます。
また、万一強引に時の政権が高額所得者層に増税を課すような政策を打ち出せば、多くの高額所得者層は他の税率の低い国に移住してしまうかもしれません。
ですから、所得の再配分に即した高額所得者層への増税はとても悩ましい問題だと思います。
しかし、AIやロボットの普及により機械化がどんどん進めば、人手に依存する業務は減り続け、格差化は更に進みます。
ですから、どこかの時点で所得の再配分に即した高額所得者層への増税はせざるを得なくなるのです。