捨てられるはずだったモノのリサイクルについては、これまでも何回となくお伝えしてきましたが、今回は4回にわたって新たな事例をご紹介します。
4回目は、8月6日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)を通して、皮の切れ端の有効活用についてです。
兵庫県豊岡市は、カバンの生産日本一の町です。
ピーク時の1991年には、日本で生産するカバンの7割をここで作っていました。
創業100年の老舗メーカー、マスミ鞄囊(ほうのう)株式会社が得意としているのが皮で作った箱型のカバンです。
1964開催の東京オリンピックでは、聖火のトーチ用ケースを手掛けました。
ところがカバンを作る過程で出る切れ端が長年の課題になっていました。
牛1頭から2枚しか取れないという大きな皮に型紙を置いて、カバンのパーツを切り取ります。
次に、残りの皮から小さなパーツを切り取ります。
最大限に有効活用しようとしても、皮がかなり残ってしまいます。
社長の植村 賢仁さんは次のようにおっしゃっています。
「袋にパンパンにならない程度に入れて、500円の廃棄料がかかる。」
皮のゴミは毎月20袋以上も出て、処分費は1万円ほどかかっています。
豊岡市には60社を超えるカバンメーカーがあるため、大量の皮のゴミが処分されていることになるのです。
そこで、ビルマテル株式会社(東京・茅場町)の取締役、白井 龍史郎さんは廃棄される皮を有効利用しようと動き始めました。
白井さんは次のようにおっしゃっています。
「今、弊社が持っている特許の技術で廃棄皮を有効活用出来る技術がありまして。」
ビルマテルの主力事業は屋上緑化ですが、風が通り易いヘルメットなどで、数々の特許を取得してきたアイデア企業です。
その特許の中の一つが、皮から切り抜いた“YUKIZNA(ユキズナ)”と呼ばれるピースです。
返しの付いた部分をもう一方の穴にはめ、つなぎ合わせて使います。
一度穴に通すと、抜けにくいので、糸で縫うことなく、つなげることが出来ます。
このピースをつなぎ合わせることで大きな皮のシートを作ることが出来るのです。
白井さんは、この特許で廃棄皮を有効活用出来ると考えていました。
7月、今もなお東日本大震災の爪痕の残る宮城県南三陸町で白井さんが向かっていたのは、町工場の株式会社アストロ・テックです。
元々海の近くにあった工場は、大震災の津波で流されてしまいました。
1年半後に4km離れた内陸部に新しく工場を建てました。
テレビなどの電子部品を製造していましたが、コンプレッサーや測定器など、多くの機械が津波で壊れてしまったので、今はほぼ手作業で部品を作っています。
しかし、売り上げ自体は減ってしまったため、なんとカバンの製造を新たに始めたのです。
実は、電子部品でもカバンでも、製造にハサミやはんだごてを使う点は同じだったので、従業員の手先の器用さを生かせたのだといいます。
この工場で作ったオリジナルのカバンを通販で販売すると、2ヵ月待ちの人気となりました。
社長の佐藤 秋夫さんは次のようにおっしゃっています。
「新しい仕事に挑戦していけば、新たな雇用が生まれるんじゃないかと。」
「進化して復興という思いをずっと持っていまして・・・」
電子部品の製造が減ってもカバン作りに挑戦することで、震災後も雇用を切ることはありませんでした。
白井さん、豊岡で手に入れて来た廃棄皮で、ピースのシートを作ってもらおうというのです。
佐藤さんは次のようにおっしゃっています。
「ピースとして裁断したら9割以上は取れるんじゃないか。」
白井さんは、被災したこの町工場の技術力を高く評価していました。
早速、試作品を作ってもらいます。
皮の端、ギリギリまで利用することが出来ています。
次はつなげる作業ですが、種類の違う皮は硬さが異なり、それらをつなぎ合わせるのは中々難しいのです。
しかし、一枚の綺麗なシートが完成しました。
出来上がったシートを持って白井さんが向かったのは、冒頭でご紹介した豊岡市の老舗、マスミ鞄囊です。
今回、白井さんは廃棄皮のシートで名刺入れを作ってもうらおうと依頼しに来たのです。
社長の植村さんは、捨てていた皮でもう一度新たな商品を作れることをうれしく感じており、次のようにおっしゃっています。
「(皮の)処分量も減りますし、良いことだらけだと思いますけど。」
7月中旬、京都高島屋、白井さんはピースで作った皮商品の期間限定の売り場を確保していました。
ピースで作ったオリジナルの「YUKIZNA」のカバンが9万9360円から販売されます。
そして、一番人目の付く場所に廃棄皮で作った名刺入れが置かれていました。
全てが1点ものです。
色は5色で4万1000円からといいます。
白井さんは次のようにおっしゃっています。
「製品としても十分にお客様に自信を持って提供出来るものなんじゃないかなと思っています。」
白井さん、この商品の特徴をアピールするために、自らピースをつなぎ合わせる実演をします。
すると、早速興味を持ったお客さんたちが集まってきました。
1週間で名刺入れは4個売れました。
白井さんは、捨てられていた皮の活用に可能性を見出していました。
「YUKIZNAの技術がファッション業界の環境問題を解決する一つの技術になるのではないかと思って、非常に感触はつかめました。」
この廃棄皮を有効活用出来るピースの技術は、カバン業界だけでなく、様々な業界で共感を得始めているそうです。
例えば、ある有名シューズメーカーは廃棄皮を使ったレーザーシューズの開発に取り組んでいたり、建築業界でもデザインが面白いということで、ホテルの内装材としての活用も始まっているといいます。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
冒頭でご紹介したように、全国的にカバンメーカーでは皮のゴミが大量に廃棄されているといいます。
しかも、処分費もバカになりません。
こうした状況は、カバン以外の皮製品メーカーも同様のはずです。
そうした中、ビルマテルの特許技術皮から切り抜いた“YUKIZNA(ユキズナ)”と呼ばれる、廃棄皮を有効活用出来るピースの技術は、皮のリサイクルとしてとても素晴らしいと思います。
しかも、その商品は、通常の皮製品と異なる魅力を持っています。
その結果、マスミ鞄囊やアストロ・テックといった皮関連メーカーは新たな事業に踏み出すことが出来たのです。
ということで、是非、ビルマテルには、廃棄皮を有効活用出来るピースの技術を世界展開して、世界レベルで皮のリサイクルに取り組んでいただきたいと思います。