2018年08月25日
プロジェクト管理と日常生活 No.555 『劣化する官僚機構 その3 政権に媚びる官僚!』

最近、報道も下火になってきましたが、いくつかの省庁における公文書を巡る大問題が多発していました。

そこで、ソフトウェア開発におけるプロジェクト管理の中の文書管理、および組織体制の考え方に照らして、劣化する官僚機構についていくつかの報道記事を通して4回にわたってお伝えします。

3回目は政権に媚びる官僚についてです。

 

3月20日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で公文書の改ざん問題の背景について取り上げていたのでご紹介します。

 

公文書の改ざん問題などの背景に、官僚を巡るある人事制度の存在がささやかれています。

改ざんの背景の一つとして、ある防衛省の官僚は次のように指摘しています。

「安倍総理や官邸がなんの指示をしなくても、官僚は『これをしたら評価が上がるのでは』、『これをしたら評価に悪影響があるのでは』と勝手に思い込んで、官邸の良いように動くようになっている。」

 

なぜ彼らが評価を気にするのか、カギになるのは内閣人事局という組織です。

2014年5月、国家公務員制度改革の一環として、安倍政権は、官邸が中央省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局を創設しました。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.495 『加計学園獣医学部新設問題の再発防止策!』

各省庁、およそ600人の幹部人事の決定権を時の政権が手中に収めることになりました。

「省益有って国益無し」と言われた縦割り体質の打破を狙ったものです。

安倍総理は次のようにおっしゃっています。

「縦割りは完全に払拭されるわけでありまして、日本国民、国家を常に念頭に仕事をしていただきたい。」

 

初代局長は、安倍総理側近で加藤 勝信厚労大臣(当時)、2代目の局長は同じく安倍総理側近の萩生田 光一さんが務めました。

ちなみに、3代目は杉田 和博官房副長官による兼任です。

人事局の設置から4年、反応は様々です。

ある霞が関官僚は次のように指摘しています。

「官邸がやりたいことに適した人が全官庁で配置されるわけだから、政策を進め易くなりましたよ。」

「今までは各自の省益ばっかりみたいな役人もいっぱいいた。」

「その意識は確実に変わってきていると思う。」

 

一方、ある外務省官僚による次のような意見もあります。

「あれだけ官邸主導を主張すれば、役人は官邸の顔を見て仕事をするしかない。」

 

社長が人事権を握る企業の視点から、経済同友会の小林 喜光代表幹事は次のようにおっしゃっています。

「縦割をぶっ壊すためには、ある程度そういう横串を刺すためには非常にいい方法でもあるし、だけど一方では企業なんかを見てますとね、人事を握っている人が一番怖いわけで、みんな。」

 

また、ある外務省官僚による次のような意見もあります。

「財務省の人は本当に気の毒。」

「改ざんする判断に追い込まれても仕方ない。」

 

果たして今回の改ざん問題の原因の一つに、内閣人事局があるのか、初代局長を務めた加藤厚労大臣は次のようにおっしゃっています。

「(官邸に人事権が集中していることが弊害との指摘の声もあるが、という問いに対いて、)かつて内閣人事局長を務めたということであれば、常に当初の目的通り機能したかどうかということを検証しないといけないと思いますけど、今のお話と今回の(改ざん)問題がつながっているとは、私としてはなかなかですね。」

 

一方、ある経産省官僚による次のような意見もあります。

「制度の良い悪いより、使い方だと思う。」

「権力を乱用すると悪いけど、各省庁が縦割りでやっていいかというと、それもどうなのか。」

 

明治大学の田中 秀明教授は専門家として次のようにおっしゃっています。

「省益を考える役人ではなくて、政府全体を考える公務員を幹部に登用していこうと。」

「(その)理念は正しいと。」

「(しかし、現在は明確な評価基準がないため、抜擢人事や適材適所が恣意的な人事と紙一重になっていると指摘し、)そのポストに相応しい能力と業績を客観的に評価した上で、総理・官房長官・大臣で選ぶような仕組みにすべき。」

 

番組コメンテーターでモルガン・スタンレーMUFG証券シニアアドバイザーのロバート・A・フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。

「(内閣人事局の必要性について、)必要だと思いますね。」

「ポイントは、“縦割り役人王国”に戻すなということだと思います。」

「どうすればいいのかということですけども、私は内部通報の仕組みを徹底することがポイントだと思いますね。」

「で、これ一番効果的だと思いますけど、民間企業ですと、内部通報制度によって企業統治が良くなっていますね。」

「で、上場企業のように各官庁も内部通報制度を導入して、初めて国家の統治が良くなると思いますね。」

「とにかく内部通報制度の仕組みを徹底して、こういう問題が二度と起きないようにした方が一番いいと思います。」

「効果的だと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

プロジェクト管理において、どのような組織、体制を構築するかは、プロジェクトをより効果的に、あるいはより効率的に進める上でとても重要になります。

同様に、国家の官僚組織においても、縦割り体質を打破して、内閣の目指す政策を最も望ましいかたちで実現させるような組織にすることが求められます。

そうした観点から、官邸が中央省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局を創設したことはとても理に適っていると思います。

実際に結果として、官邸がやりたいことに適した人が全官庁で配置され、政策を進め易くなりました。

 

しかし、一方で弊害が出てきました。

官邸に人事権を握られている幹部官僚は官邸の顔を見て仕事をするようになってしまったのです。

その結果、“忖度”という言葉で表現されるように、官僚は総理側近や閣僚などの意図を酌んで、先回りして対応するようになりました。

こうしたこと自体は必ずしも悪いことではありません。

しかし、問題は総理側近や閣僚などの意図する内容です。

特に、法律に触れるような内容、あるいは社会的に問題のあるような内容の指示をされた場合、人事権を握られている官僚は、こうした指示に対して、指示通りに行動するか、それとも自らの判断で指示に背くかの2つの選択肢がある中で、どうしても前者の行動を取ろうとする方向に傾いてしまいます。

その結果が森友学園への国有地売却の決裁文書「書き換え」問題や加計学園の獣医学部新設に係わる問題につながったのです。

中でも、森友学園問題では近畿財務局職員が自殺にまで追い込まれてしまいました。

この方は、2つの選択肢の中でとても悩まれたのだと思います。

このような犠牲者が出たにも係わらず、未だにこの問題の根本原因が明らかにされていないということに、安倍政権はもっと責任を感じるべきだと思います。

 

こうしたことから、初代局長を務めた加藤厚労大臣もおっしゃっているように、内閣人事局に関する見直しが必要なのです。

そこで、今回ご紹介した弊害の再発防止策を検討するうえでのポイントを以下にまとめてみました。

・閣僚は政策を実現するうえで、官僚を自由に采配出来るので、これまで以上に法令順守を心がけること

・閣僚、中でも総理大臣は自身の家族も含めて、政策の履行に関して家族などの身内が係わることのないようにすること

・官僚により内部告発制度を設けること(内部告発者の処遇については、プロジェクト管理と日常生活 No.426 『無くならない食品偽装のリスク対応策』を参照)

・政策の決定過程、および遂行過程における“見える化”を徹底させること

 

もし、上記3番目の“見える化”が徹底されていれば、森友学園や加計学園の問題も抑止出来たし、表面化したとしても短時間のうちに原因が究明されていたはずなのです。

 

いずれにしても、内閣には内閣人事局制度を本来の狙い通りに実効性を持たせることに努めていただきいと思います。

心ある優秀な官僚をこの制度の犠牲にすることはあってはならないのです。


 
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