4月29日(日)放送の「サンデーモーニング」(TBSテレビ)でコスタリカの軌跡について取り上げていました。
そこで、コスタリカの軌跡に見る、日本の安全保障政策の選択肢についてご紹介します。
4月27日(金)、「コスタリカの奇跡」というドキュメンタリー映画の上映会が都内で行われました。
中米の国、コスタリカは日本国憲法施行2年後の1949年に憲法で「常設の軍隊廃止」を宣言しました。
以後、厳しい国際情勢にさらされる中、大国からの圧力を受けながらも今日まで憲法を維持してきました。
この映画を制作したマシュー・エディ監督は次のようにおっしゃっています。
「(日本とコスタリカは)過去70年間、安全保障や外交分野で類似点があります。」
「日本では憲法改正という議論が以前からありますが、コスタリカの例を知ることがその議論に寄与することは多いと思います。」
憲法改正の議論といえば、4月半ば、あらためて憲法改正への意欲を示した安倍総理は、昨年の憲法記念日に突如「憲法9条1項2項を残した上で自衛隊を明記する」という改正案を提示して間もなく1年です。
その意向を受け、今の国会の発議を目指して改正案をまとめる議論を重ねて来た自民党でしたが、「2項削除が正しい」という意見もあります。
表現を巡る議論が先行し、そもそもなぜ憲法9条改正なのかという議論が聞こえてこない中、国民は憲法改正をどう考えればいいのでしょうか。
そこで参考になるのが、軍隊廃止を掲げたコスタリカの歩みです。
コスタリカの憲法が岐路に立たされたのは、1980年代、米ソがしのぎを削る東西冷戦時代でした。
隣国、ニカラグアで革命が勃発、中米の共産化を危惧したアメリカはコスタリカに再軍備など軍事的協力を求めました。
アメリカから巨額の経済支援を受けていたコスタリカは、アメリカが求める再軍備に応じるか、それを拒むか、難しい選択を迫られたのです。
そんな中、行われた1986年の大統領選挙は接戦の末、勝利したのは軍備を持たないと訴えたアリアス候補でした。
アリアス大統領(当時)は次のようにおっしゃっています。
「軍を持たないことこそ最大の防御だ。」
「軍を持たないことで、弱くではなく強くなったのだ。」
軍を持たないと訴えて当選したアリアス大統領(当時)は、ある行動に出ました。
そして、次のようにおっしゃっています。
「欧州のほぼ全首脳を訪ねました。」
「ローマ法王からサッチャー首相まで・・・」
「「何百万という中米人の命がかかっている」と訴えました。」
長年にわたって内戦が続く中米地域に和平を取り戻すため、“アリアスプラン”を作り、世界各国の指導者たちに支持を訴えたのです。
一方、中米のニカラグアやグアテマラなど、紛争当事国にも対話を促しました。
こうした外交成果が評価され、1987年にはノーベル平和賞を受賞しました。
そして、アリアス大統領(当時)はその授賞式で次のようにおっしゃっています。
「平和とは、終わることのない過程であり、生き方であり、紛争を解決する一つの方法である。」
「その努力に終わりはない。」
昨年、国連で採択された、核兵器禁止条約、その最初の提案国となるなど、コスタリカは世界平和の実現に積極的に係わり続けています。
そして、4日後の5月3日、日本は71度目の憲法記念日を迎えます。
さて、以下に番組コメンテーターによるコメントの一部をご紹介します。
政治学者で東京大学名誉教授の姜 尚中(カン サンジュン)さんは次のようにおっしゃっています。
「今、自衛隊は実力組織としては世界有数の戦力になっているわけですね。」
「しかし一方で、熊本地震なんかを見ると、災害出動で自衛隊員に対する住民の感謝の気持ちというのは強いんですね。」
「しかし、それを踏まえて、この歴然とした世界有数の戦力であるという、そしてアメリカの拡大抑止の傘の中にいると。」
「で、このままトランプ大統領のようなアメリカの中にいていいんだろうかということは、右左を問わず考えていると思うんですね。」
「ですから、今努力するという言葉を考えると、やっぱり北東アジア地域で言わば戦争が無いような状態に日本はどうやってコミットするのか、それが今問われているわけで、外交力や総合安全保障の中に戦力を位置付けていかないと。」
「ですから、成文憲法の条項を替えれば、何かマジックのように世界が変わるなんていうのは非常に空想的な話ですよね。」
「ですから、総合的な外交力を持った中堅の中規模国家として日本はこれから生きていく、その時に憲法をどうするか、自衛隊をどうするか、アメリカとの関係をどうするかというのを考えなきゃいけないのかなと思いますね。」
作家の幸田 真音さんは次のようにおっしゃっています。
「世界に軍隊のない国って27ヵ国あるんですって。」
「大体それに対する評価って、貧しい力のない国だからっていうことも言われてるんですけど、そうじゃなくて武力に訴える抑止力だとかいう議論てものすごく不毛で、お互いに歯止めがきかなくて、結局お互いが疲弊するだけだと思うので、やっぱりそこは人間としての英知で対話を諦めて欲しくないと思いますね。」
外交評論家の岡本 行夫さんは次のようにおっしゃっています。
「コスタリカの場合は人口500万人もいないし、GDPは日本の100分の1ですし、ああいうこと(憲法で「常設の軍隊廃止」を宣言)を言えて羨ましいと思います。」
「日本は北東アジア(に位置し)、世界で兵力数から言って上位7ヵ国のうち4ヵ国、その中には日本に対する敵性国家も多くて、日本がああいう贅沢なことを言ってられない状況、つまり非武装というのは「我々は軍備を持ちません。だからどっかの国がもし攻めてきたら全員降参しましょ。奴隷状態にはなるけれど、命まで取られることはないでしょう」という考え方で、これ今日本の国民の中で2.9%しか支持が無いんですね。」
「そうかといって、スイスのようにハリネズミのように武装して、徴兵制をひいて武装中立という道もなかなか支持がないし、だから結局今の状況しか選択枝がないと僕は思ってるんですけど、ただ姜さんがおっしゃった、この北東アジア地域で戦争が起こんないように日本がどういう役割を担えるかっていうのは本当に大事なことだと思います。」
ビジネスインサイダージャパン統括編集長の浜田 敬子さんは次のようにおっしゃっています。
「私もキーワードは“対話”ということだと思いました。」
「今回の南北首脳会談だけではなくて、日本が対外的にどれくらい隣国と対話をしてるんだろうかということと、また国内を向いても憲法論議で国民と丁寧に対話をしているだろうかということがすごく気になります。」
「例えば森友(学園)、加計(学園)問題にしても、セクハラ疑惑にしても、きちんと国民に説明するとか、一種の対話だと思うんですね。」
「安倍政権に対する支持率が下がっている背景としては、この政権は数の力をバックに対話を怠っているんじゃないかという不信感があるような気がします。」
コリア・レポート編集長の辺 真一さんは次のようにおっしゃっています。
「南北首脳会談でとにかく非核化の朝鮮半島の実現を目指すと。」
「そしてもう一つ、軍縮をやると言ってますね。」
「勿論、米朝首脳会談次第なんですけどもね、朝鮮半島の冷戦が本当に終わるかもしれない。」
「この流れに日本がどう向き合うか、私からしますと、平和国家としての日本の役割は、核を持っていない日本こそが北東アジアでの非核化実現に向けてのイニシアチブを取ってもらいたいと。」
「それを最優先していただきたいなと思っています。」
BS−TBS「週刊LIFE」キャスター編集長の松原 耕二さんは次のようにおっしゃっています。
「先日、福田元総理とお話する機会があったんですけども、福田さんはイラク戦争の時の官房長官だったんですね。」
「で、日本はイラク戦争を支持したわけですが、「「NO」という選択肢はありましたか」とお聞きしたら「なかった」と。」
「日米同盟から考えると「NO」とはやはり言えないと。」
「でもその時のベーカー駐日大使に「戦争に参加してくれ」って言われても「戦争だけは出来ない、憲法9条があるから」というふうに「そこは説得した」とおっしゃっているんですね。」
「「まだそんなこと言ってるのか」と言われたということなんですが、福田さんがおっしゃるのは、今安保法制が出来て、それが本当に断れるかと。」
「「戦争に行くということが、そこの部分は警戒した方がいいぞ」とおっしゃっていたのが印象的でしたね。」
「だから、姜さんのおっしゃるように、憲法の前にどういう国であるかというのをまず考えた方がいい。」
「僕はやっぱり核禁止条約の交渉会議に日本が欠席したテーブルに「ここにいて欲しい」という言葉を添えて折り鶴があった、これ忘れられないですね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
番組で取り上げていた、「常設の軍隊廃止」というコスタリカの国家安全保障戦略はとても重い決断だと思います。
なぜならば、万一他国に攻め込まれたらなすすべがないからです。
しかし、1986年の大統領選挙は接戦の末、勝利したのは軍備を持たないと訴えたアリアス候補でした。
要するに、より多くのコスタリカの国民の意思は軍備を持たないことにあったのです。
さて、ここであらためて国家安全保障戦略の選択枝について考えてみました。
その結果は以下の通りです。
1.軍備は一切保持しないこと
2.ある程度の軍備を保持すること
3.国家の安全保障を第一義に考え、国民の豊かさを犠牲にしても最大限に軍備の拡張を図ること
4.他国と軍事同盟を結び、相互に軍事的な協力体制を築くこと
5.より多くの国々と経済、貿易などの面で相互に多角的な依存関係を築くこと
では現実の動きですが、かつてのヒトラーのように、いつ軍備を背景にして他国への侵略、あるいは世界制覇を目論むような独裁者が現れないとも限りません。
国内においても、先日死刑執行されたオウム真理教の教祖、麻原 彰晁は本気で国家の転覆を図ろうとしていたといいます。
このように、国の法律や制度を無視して、自身の独占欲を満たそうとする人物が現れる可能性をゼロにすることは出来ないのです。
そして、とても重要なことは、こうした背景には大なり小なり、国や社会に対して大きな不満を持った人たちが存在することです。
こうした人たちが独裁国家を目指す人物を支援するからこそ、独裁国家は誕生するのです。
そこで、国家としてまず取り組むべきは国民の満足度の向上です。
国民の不満の高まりがこうした独裁者の登場を許す環境を作ってしまうからです。
同時に、上述の選択肢を最適に組み合わせた戦略により、平常時には他国からの侵略の抑止力とし、いざ他国から侵略行為を受けた際には、1の場合は全面降伏、2〜4の場合は速やかにより有利な条件で終戦に向けた取り組みをすることだと思います。
いずれにしても、全面降伏という対応は、国民として相当な覚悟が必要です。
なお、日本の場合は、外交評論家の岡本さんによれば、日本の国民の2.9%しか支持が得られていないといいますから、現時点でコスタリカのように憲法で「常設の軍隊廃止」を宣言するのは現実的ではありません。
いずれにしても、戦争状態に陥った場合、双方の国民が大なり小なり少なからず被害を受けるのが世の常です。
特に核兵器のような大量破壊兵器が投入された際にどのような被害がもたらされるかについては、広島、長崎での原爆投下による被害が物語っています。
ですから、平和国憲法を有する日本においては、極力世界各国との多角的な依存関係を築くことにより、コスタリカの「常設の軍隊廃止」憲法まで行かないまでも戦争勃発の抑止に力を入れて欲しいと思います。
単に憲法で“平和”を唱えるだけでは、平和は実現出来ないのです。
武力に依存する何倍もの様々な取り組みの積み重ねを継続させることによってこそ、平和憲法は実効性を持つことが出来るのです。