2018年08月11日
プロジェクト管理と日常生活 No.553 『劣化する官僚機構 その1 歴史を危うくする公文書の不十分な保管管理!』

最近、報道も下火になってきましたが、いくつかの省庁における公文書を巡る大問題が多発していました。

そこで、ソフトウェア開発におけるプロジェクト管理の中の文書管理、および組織体制の考え方に照らして、劣化する官僚機構についていくつかの報道記事を通して4回にわたってお伝えします。

1回目は歴史を危うくする公文書の不十分な保管管理についてです。

 

公文書は国や行政が政策決定のプロセスをありのままに記録し、後世に残すためのものです。

この民主主義の根幹が大きく揺らいでいます。

 

イラクに派遣された陸上自衛隊の日報が1年以上公表されなかった保管問題に絡み、これまで「存在しない」としてきた航空自衛隊でも派遣当時の日報が保管されていることが分かりました。

防衛省によると、見つかったのは航空自衛隊が派遣された2003年12月〜2009年2月のうち、3日分で計3ページでした。

航空幕僚監部の運用支援・情報部に電子データで保管されていました。

昨年2月、国会議員の資料請求や国会質問に伴い、航空自衛隊も陸上自衛隊同様に日報を探したが発見出来なかったのです。

その後、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の日報問題を受け、統合幕僚監部が陸・空・海の3自衛隊などを対象に調査しましたが、ここでも見つかりませんでした。

当時は日報の保存について統一的な決まりがなく、多くは使用後に廃棄されていたと見られます。

ところが、4月5日、国会議員からの資料請求を受けて航空自衛隊で改めて探した結果、存在が確認され、丸茂 吉成航空幕僚長が4月6日朝、小野寺防衛大臣に報告しました。

 

陸上自衛隊に続いて航空自衛隊でも保存されていないとしていたイラク派遣時の日報が見つかり、政府・与党は危機感を強めています。

野党は、自衛隊に対するシビリアンコントロール(文民統制)の信頼性が揺らいでいると批判しており、今後の国会審議で攻勢をかける構えです。

 

なお、こうした公文書を巡る問題が相次いでいることを受けて、政府は公文書管理についてのルールを定めたガイドラインを改定して4月から新たな運用を始めています。

 

 

ちなみに、公文書管理の先進国、アメリカでは大統領などがホワイトハウスで残したメモは、個人的な走り書きでも全て公文書として保存されるといいます。

また、行政機関の高官がやり取りしたメールは全て公文書とされ、国立公文書館のサーバーに自動的に保存される仕組みも導入されています。

 

さて、こうした問題の背景には、自衛隊幹部の中に、“公文書管理や情報公開は本来業務ではない”という思いがあるといいます。

また、“防衛上の秘密を扱っているため、情報公開への意識があまりない”といった声もあるといいます。

 

4月17日(火)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)のゲストで東京大学教授の牧原 出さんは次のようにおっしゃっています。

「行政が文書を作っていく行政活動を市民が検証していく、このプロセスが回るということは、実は行政も歴史を作っていく、その歴史を市民が検証していくということだと思うんですね。」

「ですから、ネガティブにお互いにチェックするよりは共に歴史を作っていくという、ポジティブに歴史を作り、ポジティブにそれを市民がチェックするというサイクルが必要だと思いますね。」

「市民も行政も、あるいは政治家も歴史に参加していくということが必要だと思います。」

 

今求められているのは、公文書がその時々の政策決定の過程を検証するための重要な財産だという認識をあらためて共有することです。

公文書管理のルールや仕組みの見直しが、それに則ったものになるのか注視していきたいと番組では伝えています。

 

以上、4月6日(金)付け読売新聞の夕刊記事、および4月17日(火)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)の一部をご紹介してきました。

 

そもそも今回発生した文部科学省や財務省、および防衛省の公文書を巡る問題の根本原因は、青字で示したように、日報などの公文書の保管方法が標準化、あるいは一元管理されていないことにあります。

公文書の管理方法の標準化とは、具体的には以下のような保管項目に則り、文書化し、それを遵守することです。

・管理の対象とする文書を明確にすること

・管理の対象とする文書を重要度に応じて機密区分すること

・機密区分に応じて、保管場所や保管期間、および参照権限を有する役職を明確にすること

・管理責任者を明確にすること

・こうした管理項目を含んだ標準管理規定を作成し、それに従った公文書管理がなされること

・現状の変化にあわせて、適時公文書関連の標準規定を更新すること

 

併せて、こうした公文書管理の重要性について、定期的な研修が必要なのです。

いくら素晴らしい管理標準が規定されていても、その運用に関係する人たちの意識が低ければ公文書管理が十分に機能することはないのです。

同時に、定期的な公文書の保管状況を第三者が検査し、必要に応じて対策を講じることが求められます。

 

さて、こうした文書の管理は、一般企業においても、特に大企業の場合は社内文書管理として大なり小なり実施されていると思われます。

なぜならば、効率よく事業を進めていくうえで、あるいは重要文書の機密漏えいを防止するうえで重要な業務の一つだからです。

 

ところが、驚いたことに注目されているいくつかの省庁の公文書問題は文書管理の基本すら守られていなかったことが明らかになったのです。

これは日本の歴史を危うくする由々しき大問題だと言えます。

そういう意味で、省庁を管理すべき政府のこれまでの対応もとても十分とは言えず、責任が問われるところです。

 

もし、こうした問題が最初に発覚した時点で、政府が先ほど示した公文書の保管管理方法に照らして、第三者による検査を実施し、問題点を整理して再発防止策の検討を指示していれば、ここまで問題が長引くことはなかったのです。

 

これまでこの大問題にどれだけの時間や労力が費やされたのかは分かりませんが、大変な税金が費やされていると思います。

政府や各省庁にはこのような問題以外にもっともっと対応すべき重要な問題が沢山あるはずです。

そもそも政府や各省庁には、公文書が国の歴史にとって重要であり、国民の資産であるという認識が無さ過ぎると思わざるを得ません。

 

ということで、政府や各省庁にはもっと危機感を持って本来やるべきことに取り組んでいただきたいと思います。

現状のままでは国民の不信感が募るばかりです。


 
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