2018年07月16日
アイデアよもやま話 No.4069 現実離れした国の“かかりつけ薬局”政策!

これまで医療関係における電子化について、以下のようにお伝えしてきました。

アイデアよもやま話 No.3567 母子手帳の電子化に思うこと!

アイデアよもやま話 No.3985 参考にすべき電子国家、エストニア その1 行政サービスの99%が電子化!

アイデアよもやま話 No.3986 参考にすべき電子国家、エストニア その 更に進化するエストニアの電子化!

 

そうした中、4月3日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で現実離れした国の“かかりつけ薬局”政策について取り上げていたのでご紹介します。

 

4月から病院や薬局の診療報酬が改定されました。

その中で、番組が注目するのは薬局です。

今回の改定で、地域の“かかりつけ薬局”への報酬が手厚くなったのです。

この“かかりつけ薬局”というのは、一人の患者が複数の病院に行ったとしても、薬は1つの薬局で管理してもらおうというものです。

どうして一つの薬局で管理してもらう必要があるのか、その理由は例えば、一人の患者が歯医者と内科にかかった場合、両方から痛み止めを出してもらうことがあります。

こうした重複は、体に負担をかけるだけでなく、国の医療費の圧迫にもつながります。

 

こうした薬の重複を避けるための“かかりつけ薬局”は広がっていくのでしょうか。

また、“かかりつけ薬局”は利用者の利便性の向上につながるのでしょうか。

番組ではその現場を取材しました。

 

東京都中央区にある創業から95年の越前掘薬局を経営する薬剤師の犬伏 洋夫さんは、ある作業が薬剤師の負担になっているといい、次のようにおっしゃっています。

「この患者さんがこの環境でこの薬を飲んでいいのかっていうことですとか、患者さんが自分でおっしゃったことや患者さんの体質や病歴を全部記録を取らなくてはいけないですね。」

 

患者ごとに調剤や服薬指導の内容を記録した薬歴と呼ばれる書類を作成する作業です。

医師が発行する処方箋や患者が薬局で記入してもらう「おくすり手帳」とは違います。

こちらの薬局では、これまで患者が訪れないすき間時間や営業時間以外にパソコンで薬歴を入力していました。

犬伏さんは次のようにおっしゃっています。

「薬局が開いている時は患者さんとお話をしたいと心がけているので、書類づくりで圧迫されてしまうといい仕事が出来なくなってしまうという・・・」

 

そこで、この薬局では新たなシステムを導入しました。

タブレットに表示された内容を患者に説明し、画面にチェックを入れると薬歴の下書きが自動で作成される仕組みです。

こうしてこちらの薬局では、患者一人当たりへの説明が3〜5分が1〜2分にと半分くらいに減り、薬歴の記入作業が効率化出来たといいます。

 

この薬局向けシステムを提供したのが株式会社カケハシ(2016年設立)でCEOの中尾 豊さんはおよそ400軒の薬局を回って、現場のニーズを調べ、電子薬歴システム「Musubi」を開発しました。

目指したのは薬剤師の負担軽減だけではありません。

食べる順番を意識するだけで血糖値が改善されるなど、様々なアドバイスが患者の状況に応じて表示されます。

こうした機能がきっかけで、患者が薬剤師に相談し易くなる効果も生まれているといいます。

 

このシステムは昨年12月の発売以来、7000以上の薬局から問い合わせが入り、導入店舗は増え続けています。

中尾さんは次のようにおっしゃっています。

「“かかりつけ”になるって、すごく簡単じゃない。」

「その薬局に行った時に得する体験がなければ、患者さんや国民からすると、その薬局を選ぶ理由が生まれないと思っているので。」

 

国も推進する“かかりつけ薬局”、ただ症状に応じた病院に通い、その都度そばにある薬局を利用する人が多いのが実情です。

利用者の利便性と国の方針のギャップをどう埋めるかが今後の課題となりそうです。

 

この“かかりつけ薬局”を広げる意義について、番組コメンテーターで日本総研の理事長、高橋 進さんは次のようにおっしゃっています。

「そもそも薬局って患者さん本位になって、服薬指導とか生活指導をすることが役目なので、そういう意味では“かかりつけ薬局”を作ることは悪くないと思うんですね。」

「で更に言えば、もうちょっと国には狙いがあって、それが「多剤服用」対策(ポリファーマーシー)だと思います。」

「「多剤服用」は、特に高齢者になるといろんな病気になるので、いろんなお医者さんに行って、いろんな薬をもらう。」

「よく言われているのは、6種類以上の薬を飲むと何らかの弊害が出てくる。」

「例えば、極端なケースは沢山薬飲んで、ふらついて、ひっくり返って骨折して、また病院に行ってまた薬をもらう。」

「こんなことが当たり前のように起きている。」

「で、そうやって重複したりしていることによる、かかっているコストが1兆円くらい余分にかかっているんじゃないかと。」

「だから、そういう意味で「多剤服用」をどうやって防いでいくか。「多剤服用」が全て悪いわけじゃないんですけども、そこから出ている弊害をどうなくしていくか。」

「これ非常に財政的にも重要なことなので、“かかりつけ薬局”がそこに貢献するということであれば、それはそれでいいんだと思いますけどね。」

「(病院の近くの薬局で薬をもらうというワンストップがなぜいけないのかという指摘に対して、)おっしゃる通りで、特に働いている人なんかは自分の職場のそばで行きたいですよね。」

「で、休みの日は(自宅の)近くに行きたい。」

「だから、無理やり一つに決められるということ自体がいいのかという議論はあると思うんですよ。」

「例えば、高齢者の方なんかの場合は、その人が飲んでいる薬だとか治療の情報が一つのお医者さんのところに行って、お医者さんが飲んでいる薬を全部管理してくれればいいわけですよ。」

「だから別に“かかりつけ薬局”でなくても薬局の情報が全部“かかりつけ医”のところに集まって、そこで管理してもらえればいいわけですから、それは“おくすり手帳”か、あるいはマイナンバーカードに全部薬歴が入っていれば、それを患者さんが「うん」て言えば、お医者さんが見れるようにすればいいわけで、そういうふうに考えていくと“かかりつけ薬局”は絶対必要かっていうと、「?」っていう感じがあるんですよ。」

「(というのが一番なのではという指摘に対して、)そういうシステムを作ることが一番重要だと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

このニュースに接して、まず感じたことは国の“かかりつけ薬局”政策がいかに現実離れしているかということ、次に国の財政難の中、テクノロジーの進化を積極的に活用して少しでもこうした状況を打開しようとしない姿勢です。

 

一般的に、私たちは内科、外科、歯科、あるいは耳鼻科など、総合病院やいくつかのかかりつけの街中のお医者さんにお世話になっています。

そして、これらで処方された薬は、一般的に総合病院の場合はその近くの薬局、そして街中のお医者さんの場合はそこで直接薬をいただきます。

そして、これらの薬はその都度“おくすり手帳”に記載されることになっています。

ですから、例え自分なりの“かかりつけ薬局”があったとしても、その日に処方された病院や個人医の場所から離れた“かかりつけ薬局”に行ってわざわざ薬を受け取るようなことはなく、最寄りの薬局で受け取るのが現実の姿なのです。

しかも、“おくすり手帳”はふだん持ち歩くことはなく、従って忘れた際には“おくすり手帳”に処方された薬が記録漏れのままになってしまう場合もあります。

ということで、国の“かかりつけ薬局”政策は現実離れしていると思うのです。

 

では、本来の薬局政策はどうあるべきかですが、それは

アイデアよもやま話 No.3567 母子手帳の電子化に思うこと!アイデアよもやま話 No.3873 広がるIoTの活用!でも触れたように、今回ご紹介した一企業による個別のサポートシステムではなく、全国的に共通の電子薬歴システムの導入です。

そこで参考にすべきは、アイデアよもやま話 No.3985 参考にすべき電子国家、エストニア その1 行政サービスの99%が電子化!、あるいはアイデアよもやま話 No.3986 参考にすべき電子国家、エストニア その2 更に進化するエストニアの電子化!です。

エストニアのような電子国家を目指すのです。

ですから、“かかりつけ薬局”のように厚生労働省で単独で個別の政策の方針を打ち出すのではなく、まず電子国家というような大きな枠組みを規定して、全ての省庁の持つ機能を組織横断的に整理・統合して電子国家としてのシステム要件を整理し、電子国家を実現させるのです。

こうしたプロセスを踏んで、厚生労働省管轄の機能の一つとして電子薬歴システムを開発・導入するのです。

そして、このシステムを国内全ての病院や薬局、そして国民が使用登録し、それぞれの立場からの要望にAIが応えるような機能も持たせれば、患者がどの病院で診察を受け、どの薬局で薬を受け取ろうとも、その全ての記録がシステムに記録され、AIによる適切な「多剤服用」対策もなされるなど様々なサービスを受けることが出来るようになるはずです。

また、自分が今服用している薬はどのような効用があるのか、あるいは自分はこれまでどんな薬を服用したのかなどをいつでもシステムを通して参照出来るので、“おくすり手帳”は不要となり、持ち歩く必要もなくなります。

 

今、日本は財政的にとても厳しい状況にあり、その度合いは少子高齢化の進行とともに増々その厳しさが高まっていきます。

ですから、今回ご紹介した“かかりつけ薬局”政策というように狭い範囲ではなく、行政全般について、国民視点で現実からかけ離れないような要件に基づいたシステムを構築していただきたいと思います。

せっかくマイナンバー制度も構築されたのですから、この機能を最大限に活用していただきたいと思います。

 

なお、当然のことながらこうしたシステムに登録されるのはまさに個人情報の塊りですから、万全なセキュリティ対策が求められます。


 
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