2018年06月30日
プロジェクト管理と日常生活 No.547 『アメリカから有能な科学者がいなくなる!?』

4月15日(日)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)でトランプ政権の科学軽視に危機感を募らせる科学者たちについて取り上げていたのでご紹介します。

 

4月15日(日本時間)、アメリカの全米各地でトランプ政権に抗議する大規模なデモが行われました。

参加しているのは科学者などです。

地球温暖化は“でっち上げだ”と発言するなど、科学を軽視していると言われるトランプ大統領は科学研究予算を削減する方針を打ち出しています。

 

これまで世界の科学研究をリードしてきたアメリカですが、将来を悲観して優秀な頭脳が国外に流出する事態となり、アメリカの科学者たちは危機感を募らせています。

地球温暖化の予測に取り組んでいるプリンストン大学のヴェンカトラマニ・バラジ博士は20年以上にわたり、この分野の世界の研究をリードしてきました。

バラジ博士は次のようにおっしゃっています。

「アメリカは研究するのには素晴らしい場所でした。」

「科学予算が世界トップだったアメリカには世界中から科学者が集まってきました。」

 

ところが、トランプ大統領は昨年、国際的な温暖化対策を取り決めたパリ協定からの脱退を表明し、温暖化研究の予算も削減する方針を打ち出しました。

バラジ博士は、アメリカでは将来温暖化研究は先細りしていくと感じました。

そうした時に動いたのがフランスでした。

マクロン大統領は、気候変動への研究費を多く出すとして、アメリカなどの研究者にフランスに来るよう呼びかけました。

バラジ博士は長年所属した大学を辞めて、フランスへ行くことを決意、この秋パリにあるソルボンヌ大学に拠点を移します。

 

アメリカが世界の科学をリード出来なくなるのではないかと危機感を募らせた科学者たちは新たな行動に出ています。

南部ミシシッピ大学のランディ・ワドキンス教授は、秋に行われる下院議員選挙に立候補することを決めました。

こうした動きが全米に広がり、これまでに約60人の科学者が立候補を表明しています。

ワドキンス教授は次のようにおっしゃっています。

「全米で立候補を表明している科学者が大勢いる。」

「みんな“政府は一体どうなってしまったのか”と心配しています。」

 

27年にわたり抗がん剤の研究を続けているワドキンス教授は、がん細胞のDNAの構造を解析することで、がん細胞の増殖を防ぐ次世代の抗がん剤の開発に挑んでいます。

しかし、トランプ大統領が研究予算を大幅に削減することになれば、多くの患者を救う可能性のある新薬の開発を続けられなくなると懸念しています。

ワドキンス教授は次のようにおっしゃっています。

「トランプ政権の予算削減案は言語道断。」

「権力のある人々が科学者の意見を聞かなくなっています。」

「科学者として、この国が進もうとしている方向性に不安を抱いています。」

 

アメリカがリードしてきた科学を顧みないトランプ大統領に直接的な手段で異議を突き付け始めた科学者たち、秋に行われる中間選挙でその声はどこまで広がるのか注目されます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

トランプ大統領は、これまでの常識に囚われない、また前言を翻してころころと変わる言動により、アメリカ国内のみならず世界各国が振り回されているように見えます。

唯一の価値観は“アメリカファースト(アメリカ第一主義)”です。

更にその根っこは“トランプファースト”のように思えます。(参照:No.3966 ちょっと一休み その638 『トランプ大統領の本質は”アメリカファースト”ではなく”トランプファースト”!?』

 要するにトランプ政権の維持です。

しかし、考えてみれば、トランプ大統領に限らず、多くの政治指導者は政権維持を大前提にいろいろな政策を打ち出しています。

ただ、トランプ大統領と違うのは自分なりのビジョンを掲げています。

確かにトランプ大統領には素早い決断力や実行力はありますが、残念ながら肝心のビジョンが見られません。

ですから、これから先アメリカを、更には世界をどのような方向に導こうとしているのかが読めないのです。

 

そうした中の一つが、今回ご紹介した、パリ協定からの脱退を表明し、温暖化研究の予算も削減する方針を打ち出したことです。

こうした動きの中で、多くの科学者はアメリカ国内で今後継続して研究していくことに不安感を抱いているというのです。

 

一方、中国は習近平国家主席による指導のもと、“中華圏の再興”を掲げ、政治主導により効率よく経済、軍事の両面でアメリカに対抗しつつありあります。

そして、いずれその両面でアメリカを凌駕する勢いです。

そうした中でのアメリカの経済面での対応策の一つが中国に対する関税率の大幅な引き上げです。

しかし、これについては中国は徹底抗戦の構えで、この貿易戦争が長引けば、その悪影響は中国よりもむしろアメリカの方が大きいという見方が中国にはあります。

 

残念ながら中国は共産党一党独裁国家ですから、もし中国による世界各国に対する影響力が大きくなるようなことになれば、どのような世界になるのか、自由主義圏の多くの人たちは漠然とした不安感を抱いているのではないでしょうか。

 

こうした中国の動きで日本の受ける影響として、尖閣列島のみならず沖縄さえも自国の領土権を主張し出すのではないかと一部で危惧されています。

 

ということで、世界的な視点でトランプ政権の抱える最大のリスクは、これまで維持されて来たアメリカの経済、および軍事面でのリーダーシップが弱まり、相対的に中国のパワーが強まって、その均衡が破れてしまうことだと思います。

 

そうした中で、フランスのマクロン大統領によるアメリカ国内の科学者への呼びかけやこうした科学者自らの政界進出の動きは、トランプ大統領の暴走への対応策の一つです。

経済を発展させていくうえで、AI(人工知能)やロボット、IoT、あるいは医療など、科学はその最大の推進力として今後その重要性を増していきます。

その科学者の研究環境を悪化させることはまさに時代の逆行をもたらします。

ですから、トランプ大統領には、世界をリードすべきアメリカの大統領としての自覚に目覚めて欲しいと思います。

同時に、アメリカのより多くの国民の方々には、短期的なメリットに惑わされることなく、長期的な観点で次期大統領選で投票していただきたいと思います。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています