2018年06月14日
アイデアよもやま話 No.4042 国ぐるみの支援で躍進する中国のEVメーカー!

アイデアよもやま話 No.3622 中国独自のEV戦略!で中国におけるEV事情をご紹介しましたが、3月12日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で国ぐるみの支援で躍進する中国のEVメーカーについて取り上げていたのでご紹介します。

 

世界で急速な普及が見込まれているEV(電気自動車)ですが、日産自動車やアメリカのテスラなど国内外のメーカーが開発合戦を繰り広げている中、EVの販売については中国のメーカーが世界で頭角を現しています。

その裏には、政府があの手この手で投資をする驚きの実態がありました。

 

古都、京都にひと際目立つ赤い路線バスが走っています。

その乗客は、口をそろえて「とても静か」だと言います。

外から見ると、排気口もありません。

このバスはEVなのです。

導入したのは、京都市内で路線バスを運行するプリンセスラインです。

2015年にEVバスを導入し始め、今では保有する22台中7台がEVです。

導入したメリットについて、プリンセスラインの浅野 三佳社長は次のようにおっしゃっています。

「(1台当たりの)ランニングコストに関しましては、従来だいたい月20万円から25万円くらいの燃料費です。」

「それが今電気代にしますと、1台約7万円になっています。」

「コスト面では楽になっています。」

「世界的に全てが電気の方向に向かっていますので、うちは全部電気バスになるまでしていこうと思っています。」

 

プリンセスラインでは充電設備に約1000万円かかりましたが、ランニングコストは通常のバスの3分の1程度になりました。

購入価格は従来のバスの約2倍ですが、半分は国の補助金で賄いました。

 

気になる製造元は、中国のEVメーカー、BYDです。

BYDの本社のある中国の深圳では、街を歩くと歩道ではセグウェイのような乗り物を見かけます。

また、人ごみの真上にはドローンが飛んでいます。

ここは世界でも有数のハイテクの街なのです。

そして、もう一つの顔がEVの街です。

中国政府主導で普及が進んでいます。

路上を走るバスは2017年から全てEV化されました。

そして、そのすべてがBYD製なのです。

更に、タクシーも街を走る6割以上がEVです。

これらもBYD製です。

こうした状況について、以下のような街の人の声があります。

「空気がきれいになった。」

「排気ガスを最近感じない。」

 

大気汚染が深刻な中国ですが、深圳には連日青空が広がっています。

こうした追い風を受け、急成長したBYD、その本社の広さは東京ドーム43個分といいます。

社内の移動には、なんとモノレール、これもBYD製だといいます。

BYDブランド担当の李さんは次のようにおっしゃっています。

「中国をはじめ、世界の11都市で走る予定です。」

 

そしてEVの組み立て工場の生産ラインにはBYD製のバッテリーが見られます。

BYDはもともとバッテリーメーカーとして1995年に創業したので、EVのバッテリーを自社で作れる強みがあります。

今、バッテリーの原材料、リチウムの確保がメーカーの課題ですが、BYDは政府の支援で十分な量を確保しています。

李さんは次のようにおっしゃっています。

「EVの核になる能力は全部手に入っています。」

「BYDが世界の他のメーカーと違うところです。」

 

BYDはEVやプラグインハイブリッド車などの新エネルギー車の販売台数で、世界の自動車メーカーを抑え、3年連続で世界第一位となっています。

ちなみに、2位は同じく中国の北京汽車集団、3位はアメリカのテスラ、3位はドイツのBMWです。(2017年 BYD調べ)

 

その原動力の一つ、EVタクシーですが、中国政府はどのような普及の後押しをしたのでしょうか。

ガソリンタクシーは毎回2元(35円)、政府が昨年11月に特別税を導入したのです。

またEVと言えば充電が課題ですが、政府が充電スタンドを多く設けているので、2〜3km走ると見つかるといいます。

充電スタンドは中国全土で既に45万台も設置されています。

ただ充電にはどうしても時間がかかります。

あるEVタクシーでは充電に50分もかかるといいます。

また、急速な普及のためか、充電方法の間違いなどトラブルも少なくありません。

充電のため、2時間近く仕事が出来ない場合もあります。

しかし、ここにも政府の支援があります。

なんと充電で働けない間の賃金を一定額政府が補償しているのです。

政府の強力なEV推進政策のもと、中国で急成長したBYDが今その視線を向ける先について、BYDアジア太平洋担当の劉 学亮さんは次のようにおっしゃっています。

「今まさに中国がホットな市場です。」

「ただこれからの市場は世界です。」

 

海外進出の足掛かりとなっているのが京都にも進出したEVバスです。

バスはルートが決まっていて、充電スタンドが少なくても賄えるからです。

既に50ヵ国以上に進出、習近平国家主席自らトップセールスを行っており、2015年10月にはイギリスのウイリアム王子とEVバスを視察しました。

沖縄では、今春から観光EVバスが運航を開始するなど、日本市場への本格的な進出も始まっています。

劉さんは次のようにおっしゃっています。

「日本市場へEVをこれからも投入していくというような考えがあります。」

「100年に一度あるかないかの新たなチャンスを捉えているわけです。」

 

番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは次のようにおっしゃっています。

「(BYDは中国国内では圧倒的に強いが、これから世界に出ていこうと思った時に強みを発揮出来るような状況にあるのかという問いに対して、)そう思います。」

「中国政府の自動車産業政策を考えますと、既に(中国は)世界最大の自動車市場、それを世界最先端のEVの市場にしてきたわけです。」

「現状では既に世界のEV市場の半分が中国、2030年までこの状況が続くと予測されています。」

「そうすると、最大のEV市場を持って、その規模を生かしてEVメーカーを育て、それから車載のバッテリーメーカーを育てると。」

「BYDはそもそもバッテリーメーカー発ですから、世界で2位のシェアを持っています。」

「ちなみに完成車メーカーで見ると、BYDを含めて(中国メーカー)3社が世界のEVメーカートップ10に既に入っています。」

「なので、規模を生かした価格競争力は既にあるわけですね。」

「そうすると、海外に出ていこうと考えた時に、乗用車よりは商用車の方が恐らく組み易い。」

「なぜならば、商用車は一番大事なのがある一定の性能と信頼性があれば、そこから先は価格競争力によって選ばれるので、そういう意味ではBYDはバッテリーから完成車まで垂直統合をして価格を抑えることの出来るメーカーなので、その価格競争力が一番生きるところで多分勝負を賭けてきているというふうに見えます。」

「(その先も見ているのかという問いに対して、)恐らくバスの次はタクシーを狙っているんじゃないかなと思います。」

「(その先は普通車もかという問いに対して、)普通車も考えていると思いますが、普通車になるとデザインやブランド力という別の要素が選択肢に入って来るので、そういう意味で商用車から攻めるのが極めて合理的だと思います。」

「(そうすると、日本メーカーがその辺りでどうやって勝てるかというのも問題になってくるかも知れないのではという問いに対して、)その通りですね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそもEVバスに限らず、一般的なEVにしても、普及させていくうえで以下のような観点があります。

・購入価格

京都のプリンセスラインの場合は従来のバスの約2倍

・購入時の国などからの補助金

京都のプリンセスラインの場合は購入価格の半分が国の補助

・ランニングコスト

京都のプリンセスラインの場合はガソリン車の約3分の1

・充電時間

・充電スタンドの設置費用

京都のプリンセスラインの場合は約1000万円

・バッテリーの寿命

・バッテリーの下取り価格

・国や自治体による支援(インフラ整備や補助金など)

 

このような観点で購入時から廃車までのライフサイクルを通して、従来のガソリン車との比較で優位であればあるほどEVの普及が望めるのです。

しかし、充電時間については、バスのように大量のバッテリー容量を搭載している場合は、どうしても充電時間が長くなってしまいます。

ですから、バスの場合だけでも、以前ベタープレイスで試みたようなバッテリー交換システムが有効だと思われます。(参照:アイデアよもやま話 No.1202 電気自動車普及の鍵 - スタンドでバッテリー交換!

 

さて、今回ご紹介したように、中国は新エネルギー車の販売台数で3年連続で世界第一位となっており、深圳では路上を走るバスは2017年から全てEV化されたといいますから、国を挙げてのEV普及の取り組みには中国政府の本気度が伺えます。

また、BYDのEV普及への取り組みに対する熱い想いが番組から感じられます。

 

日本においても、政府ならびにEVメーカー、バッテリーメーカー、あるいは再生可能エネルギー関連企業には、率先して世界を変革するくらいの気概も持って持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいただきたいと思います。

そうしななければ、このままの状況では、中国の圧倒的な勢いに押され、いずれ経済的に日本は中国の後塵を拝する立場に追いやられてしまいます。


 
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