2018年06月03日
No.4032 ちょっと一休み その649 『後退する世界の民主主義!』

2月2日(金)放送の「時論公論」(NHK総合テレビ)で後退する世界の民主主義について取り上げていたのでご紹介します。

なお、今回の論者はNHK解説委員の別府 正一郎さんでした。

 

欧米諸国で移民の排斥や既存の政治への反発を声高に叫ぶ政治家が台頭し、伝統的な自由や民主主義の価値観が揺らいでいるとされますが、民主主義の後退や劣化といえるような現象が、欧米に留まらず、世界各地に及んでいるという調査結果が、国際的な人権団体によってまとまりました。

 

各国の民主主義のレベルを評価するという難題にはいくつかの団体や研究所が取り組んでいますが、今回は、アメリカの首都ワシントンにある人権団体「フリーダムハウス」の調査を見ていきます。

この団体は、1941年に設立され、平和的なデモに対する弾圧や政治犯の処遇など、世界各地の人権問題を調べています。

 

活動の柱が、1973年から毎年発表している『世界の自由』と題した年次報告書で、190を超える国と地域を対象に、選挙が自由で公正に行われているか、思想信条の自由が保障されているのか、それに司法が独立して機能しているかなど、25項目について、専門家が評価し、各国・地域を、「自由」、「部分的に自由」、「自由でない」という3つのカテゴリーに分類してきました。

 

先月中旬(1月16日)に発表された最新の調査結果では、日本や欧米の先進国など世界の45%の国と地域が「自由」に分類されました。

30%が「部分的に自由」、そして、中国やロシアそれにシリアや北朝鮮など25%が「自由でない」とされました。

 

注目を集めているのが、この3つのカテゴリーの割合の変化です。

東西冷戦のころは、これら3つの割合は拮抗していましたが、冷戦の終結に伴い、東欧の国々で民主化が進んだこともあって、「自由」の割合が増えました。

反対に、「自由でない」が減りました。

この傾向は2000年代の半ばまで続き、「自由」とされる国は、世界の半分近くまで伸びました。

ところが、この頃を境に、状況が変わります。

「自由」が減り始めると共に「自由でない」が増えていき、ことしの報告書でもその傾向が続いていることが鮮明になりました。

 

それにしても、冷戦の終結後、世界はいずれ自由と民主主義に覆われるとの見通しすら語られていたにもかかわらず、なぜ、ここに来て、後退しているという結果が出てきたのでしょうか?

具体的な例として、まず、トルコがあります。

これまで「部分的に自由」でしたが、今回、「自由でない」に後退しました。

その理由として、おととしのクーデター未遂以降、非常事態宣言が延長され、多数の兵士や公務員、それにジャーナリストが拘束されていること、こうした状況の中で、去年、国民投票が実施され、国論が二分される中で憲法が改正され、大統領への権限の集中がいっそう進むことなど、エルドアン大統領の強権化が見られると指摘しています。

トルコは、混乱が続く中東にあって、民主化のモデルを自負しています。

こうした、新興国のいわば「優等生」とされた国々での後退が各地で見られた結果、いくつかの国の前進を打ち消す形で、全体で見ると、「自由」が減り、「自由でない」が増える傾向になっているのです。

 

しかも、問題は、こうした分類上の変化に留まりません。

「フリーダムハウス」は、3つのカテゴリーでの分類の他に、各国・地域の状況を100点満点で採点して、それを指数としていますが、分類の上では、「自由」とされる欧米諸国で、指数が下がるということが起きているのです。

 

たとえば、アメリカは、一昨年の90点から昨年は89点に下がったのに続いて、今年の報告書では86点とさらに3ポイント下がりました。

トランプ大統領のメディア攻撃や人種差別を容認するかのような姿勢、さらに、大統領就任後もビジネスとの関係を断ち切っていないことなどが理由として指摘されました。

アメリカは、民主主義のチャンピオンを公言していますが、実際には、大統領選挙で高額な献金が横行していることや、黒人に対する捜査当局の強圧的な対応など多くの問題を抱え、もともと日本やヨーロッパの先進国よりは低目の評価でしたが、さらなる落ち込みによっては、チャンピオンだと主張することすら難しくなるかもしれません。

 

また、ハンガリーとポーランドは、昨年から今年にかけてそれぞれ4ポイント下がりました。

理由としては、メディアや市民団体への規制が強まっていることが指摘されました。

冷戦終結後の東欧の民主化の、こちらもいわば「優等生」とされてきたような国々です。

 

更に、最も低い「自由でない」と分類された国の中でも、状況のいっそうの悪化が起きています。

カンボジアは、長期政権を続けるフン・セン首相の強権化が目立つ中で、指数は、一昨年の32から昨年の31、そして、今年は30点まで下がりました。

その理由として、昨年、政権批判で知られた有力な英字紙が廃刊に追い込まれた他、最大野党が解党を命じられ、その党首も国家反逆罪で逮捕・訴追されました。

今年7月に総選挙が予定されていますが、それを前に、最大野党が消滅してしまった状況です。

内戦終結を受けて、25年前、日本を含む国際社会の支援を受けた選挙を経て、新たに民主化への歩みを始めていたはずだっただけに、懸念が広がっています。

 

こうした状況について、「フリーダムハウス」は、「世界の自由と民主主義は、冷戦終結後、最も深刻な状況にある」としています。

 

その原因については、これまで経済的に繁栄してきた欧米で、経済格差の広がりから、市民レベルで、自由や民主主義の意義を実感しにくくなっていることがあるのではないかと分析しています。

また、中国の成長モデルに影響を受けるかたちで、新興国の政治指導者を中心に強権化のもとでの安定や経済成長を優先する意識の広がりがあるのではないかと指摘しています。

 

では、こうした現象に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。

まずは、高いレベルの民主主義を達成した国でも、民主化に向けた歩みを始めた国でも、形骸化の危険をはらんでいることを直視することが必要です。

北アフリカのチュニジアは、「アラブの春」の発端になった国で、今ではアラブ諸国の中で唯一「自由」に分類されている国です。

しかし、ここに来て地方選挙が延期された他、生活苦を背景にしたデモ隊と治安機関の衝突も起きていて、後退が懸念されています。

また、政治の強権化が経済成長と安定をもたらすかも大いに議論があるところです。

南米のベネズエラでは野党への弾圧が続くなか、経済政策の失敗で豊かな産油国でありながら、子どもたちの間で栄養不良が広がっているような状況です。

更に、北朝鮮のように民主主義がなく、国民が政府に自由に異議申し立てが出来ない国は、自国民はもちろん他国にも脅威となることが懸念されます。

世界人権宣言が採択されて70年、国際社会は、若い民主主義を育てる努力を続けるとともに、日本のような民主国家であっても、後退の危険を抱えているということを肝に銘じ、民主主義の土壌を耕し続けることがますます重要になっています。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

そもそも民主主義も平和も自然に湧いてくるように何も努力しない状態で実現するものではありません。

国家としての理念、すなわち憲法を掲げ、それに基づいてあらゆる国家の枠組みを構築し、常に危機感を持って理念を現実の姿として維持出来るような取り組みがなされなければ、民主主義も平和も崩壊してしまうリスクをはらんでいるのです。

 

そこでまず、番組を通して、あらためて民主主義のみならずあらゆる国家が世界平和の実現・維持を図るための国家の理念として満たすべき要件について考え、以下に羅列してみました。

・発言の自由

・基本的人権の尊重

・(性別や学歴などによる)格差のない社会

・全ての国民による最低限のゆとりのある暮らし

・専守防衛

 

こうして並べてみると、日本国憲法は国家の理念として満たすべき要件を全て兼ね備えているように思えます。

問題は、これらを実現・維持するための具体的な取り組みです。

上記に掲げた国家の理念として満たすべき要件に対する国民の不満の高まりが沸点に近づくと、現状打破のために政権転覆、すなわち革命や独裁者の誕生、あるいは国民の不満を国外に向ける動きをもたらし、国内外の不安定につながります。

例えば、アメリカのトランプ政権を支えているのは、アメリカの繁栄から取り残された人たちと言われています。(参照:No.3546 ちょっと一休み その568 『アメリカ大統領選の結果から見えてくること』

そして、トランプ大統領の掲げる“アメリカファースト”は、様々な観点で世界的に対外的な摩擦を引き起こしつつあります。

一方、中国の習近平国家主席は、かつての中華圏の繁栄を取り戻すべく、世界的な経済のリーダーシップの掌握のみならず、軍事的にも領土拡大を目指していると見られています。

こうした動きの行き着く先は、民主主義圏国家と共産主義圏国家との軍事的な対立をもたらすという一部の専門家の見方もあります。

 

更に、北朝鮮のように、核兵器、および弾道ミサイル開発を主な外交政策の切り札として用いようとする国もあります。

このように隣国の核兵器保有は、日本の安全保障にとって大変な脅威です。

 

こうした世界情勢において、日本が積極的に取り組むべきは、国内においては経済の活発化、および格差の解消、対外的には核兵器の廃絶、あるいは専守防衛の考え方を世界的に浸透させるためのあらゆる活動が求められると思うのです。


 
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