これまで世界の富の集中については、以下のように何度となくお伝えしてきました。
アイデアよもやま話 No.2696 世界の富裕層の上位1%の総資産が全世界の下位半分の資産を占めている!
アイデアよもやま話 No.3614 格差社会アメリカの実態
その2 アメリカは格差社会先進国!?
アイデアよもやま話 No.3616 格差社会アメリカの実態
その4 富裕層への富の集中による弊害!
そうした中、1月7日(日)放送の「サンデーモーニング」(TBSテレビ)で「揺らぐ世界
〜この時代の変わり目に〜」をテーマに取り上げていました。
そこで7回にわたってご紹介します。
7回目は今は“引き潮”の時代ではないかということについてです。
長い歴史を経た今、世界が直面する“行き詰まり”を私たちはどう受け止めたらいいのでしょうか。
困難な壁が幾重にも立ちふさがる時代、この時代を人間全体の問題として考えるとどんなことが言えるのでしょうか。
社会心理学者で早稲田大学名誉教授の加藤 締三さんは次のようにおっしゃっています。
「今の時代っていうのは、生命力でいうと“生の引き潮の時代”だと思うんですね。」
「つまり、どういうことかっていうと“生の満ち潮”の時はいろいろな問題が出ても次々に解決して乗り越えていける、満ち潮ですからエネルギーがありますから。」
「“引き潮”(の時)は全くエネルギーがないですから、問題が出ると解決するエネルギーがないということですよね。」
「その“満ち潮”の時は岩(問題)は見えないけれども、“引き潮”になると岩が見えちゃうというのと同じことで。」
「(なぜ世界はエネルギーを失ってしまったのかについて、)ものすごい科学技術の進歩で、社会の構造が変わった。」
「だけど人間の意識はそういうスピードで変わる訳ではないですから。」
「今これだけみんなが“行き詰った”と思っているのは、なぜかというと心がもう疲れ果てている。」
「生の“引き潮”になってきているんです。」
「人間、エネルギーがなくなると、どうしてもその場の満足が欲しいですよね。」
「行く先が分からなければ、どうしたって今の利益が大切になりますよね。」
「(そういう人たちにとって、)何が最高の価値かというと、やっぱり“安定”とか“秩序”なんですよ。」
「移民が入ってきて、自分たちの今までの秩序が変わってくるのは大変なことですよね。」
「そうすると、“アメリカファースト”がやっぱり選挙で勝つわけですね。」
「“ファースト”ということは、内容は“セルフィッシュ=利己主義”っていうことです。」
一方、哲学者の内山 節さんは次のようにおっしゃっています。
「ものづくりを軸にしている時代というのは、ものづくりは一人だけでは出来ないんですね。」
「素材を作る人、部品を作る人、いろいろな人たちが絡んでいる。」
「だから、どうしても全体がうまくいってこそ、私の経済になります。」
「絶えず“共にある世界”をつくった。」
かつて人々はモノをつくるという営みを通じて様々な人と交流して助け合い、“社会”や“共同体”をつくり、お互いがうまくコトを運ぶための仕組みやルールをつくってきたという内山さんですが、ではこれから世界はどういう方向へ進んでいくのでしょうか。
内山さんは、江戸時代の社会を例に挙げて次のようにおっしゃっています。
「江戸時代の日本も穏やかには経済成長をし続けていたんですよね。」
「だけど江戸期の社会というのは経済成長を目標にした社会ではなかった。」
「ただみんながそれなりに工夫をしたり、真面目に働いたりしていたらば、結果としては緩やかではあるけれど経済成長していた。」
「気が付いたら経済成長していたというのは別に何ら否定されることではないっていうことですね。」
「ただ経済成長するために無理をしていくという、でこれはもう違うのではないかという。」
「むしろ、みんながどんなふうに働いて、どんなふうに時に分かち合ってやっていくと、もっと幸せな働き方、暮らし方が出来るのか、それを追求していったらば、結果として結構成長していたという、むしろ考えるとしたら、そっちの方だと思うんですね。」
更に、早稲田大学(社会心理学)の加藤 締三名誉教授は次のようにおっしゃっています。
「経済的繁栄や政治的民主主義とかではなく、人間性の理解が根本なんです。」
「問題の核心は“人間が変わる”ということなんだなと。」
近い将来に向け、期待が高まる科学技術の飛躍的な進歩、その一方で“行き詰まり”を示す様々な動きが世界のあちこちで起きています。
大きな変わり目を迎えた今、来るべき次の時代を実り多きものにするためにも積み上がった多くの課題を世界はどう解決していくのか、今問われています。
番組パネリストの一人、寺島 実郎さんは次のようにおっしゃっています。
「(変えるべきは何なんだろうかという)この問題、構造を変えていく政策科学がいるっていうか、やっぱり分配の公正化だとか、あるいは金融資本主義を制御するためにも金融という世界の責任ですね。」
「つまり金融取引税の導入とか、世界の問題を解決するための財源をそういうところから確保していくという政策科学に我々はもっと視点を置いて、しっかり解決策を求めるという根性を失っちゃいけないっていうのがこの段階で僕が発言したいことです。」
同じく番組パネリストの一人で、造園家であり、東京都市大学教授の涌井 雅之さんは次のようにおっしゃっています。
「全て地球環境を含めて、我々は今未知の領域にいるんだということをしっかり自覚しなきゃいけないと思うんですね。」
「その時にイノベーションが働くわけですね。」
「それは一つはテクノロジーですが、これで多くの問題を解決すると思いますが、解決出来ない問題があります。」
「それは何かというと心の問題ですね。」
「このクリエーションとイノベーション、この違いを我々よっぽどしっかり認識する必要がある。」
「で、更にそこに知的格差と情報格差が生まれてくる。」
「これが実は三重苦になってくる。」
「そこでどうポジティブに考えていくのかということだと思います。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
今は世界的に何となく活動エネルギー不足状態なので、社会心理学者の加藤さんのおっしゃるように、生命の“引き潮の時代”と言えなくもありません。
そして、人間はエネルギーがなくなると、“安定”とか“秩序”を求めるようになるのも理解出来ます。
そうした流れで捉えると、アメリカのトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、あるいは中国の習近平国家主席というように3つの国の多くの国民が国のリーダーにその身をゆだねるのも理解出来ます。
しかし、一方では、インターネットをベースとしたAIやロボット、そしてIoTと言ったテクノロジーや再生医療、あるいはDNAの組み換えなどのテクノロジーによるイノベーションが開花しつつります。
これまでの歴史を振り返ると、イノベーションの時代と“行き詰まり”の時代とが繰り返されているように、今は“行き詰まり”の時代からイノベーションの時代への転換期のように私には思えます。
さて、造園家の涌井さんの指摘されている心の問題と知的格差、情報格差という三重苦に経済格差を加えた4つの大きな問題に私たち人類は直面していると思います。
心の問題については、確かにテクノロジーの変化のスピードに自分が取り残されないだろうか、あるいは自分の仕事がAIやロボットに置き換わってしまうのではないか、といった不安がつきまとう可能性は今後とも大きくなります。
また、知的格差、あるいは情報格差が経済格差をもたらす大きな要因になっていると思います。
そして、AIをうまく活用出来るかどうかが知的格差、あるいは情報格差の大きな要因になってくると思います。
さて、哲学者の内山さんは、江戸時代の社会を例に挙げて、「ただみんながそれなりに工夫をしたり、真面目に働いたりしていたらば、結果としては緩やかではあるけれど経済成長していた」とおっしゃっていますが、これはプロジェクト管理におけるプロセス管理の狙いと相通じる内容だと思います。
ひたすら成果を追い求めるよりも、日々の暮らしの中でやりたいことや与えられた業務を一つひとつきちんとこなしていくことが成果につながっていくのです。
こうした江戸時代の庶民の穏やかな暮らしは、4つの大きな問題、中でも心の問題に向き合っていくうえでとても参考になると思います。
どんなにテクノロジーが進歩しても、あるいは物質的に豊かになっても、心の問題がクリア出来なければ心豊かな人生を送ることは出来ないのです。