2018年03月25日
No.3972 ちょっと一休み その639 『なぜ日本の労働生産性は低いのか?』

プロジェクト管理と日常生活 No.533 『「働き方改革」に必要な指標とは!』で、世界的に見て日本の労働生産性は高いとは言えず、先進7ヵ国(G7)の中では最下位であるとお伝えしました。

そうした中、1月25日(木)付け、2月27日(火)付け、および3月9日(金)付け読売新聞の朝刊記事で労働時間1時間当たりの労働生産性について取り上げていました。

そこで、記事を通してなぜ日本の労働生産性は低いのかに焦点を当ててご紹介します。

 

そもそも労働生産性とは、平たく言えば働く人がどれだけ効率的に成果を出したかを示す指標です。

少ない労働時間や労働者数で売り上げや利益を伸ばすことが出来れば、生産性が高いと言えるのです。

そして、生産性が上がれば、その分、企業が賃上げに回す余力が出来るとされています。

 

では、なぜ日本の労働生産性は先進7ヵ国(G7)の中で最下位というくらい低いのかですが、日本の場合、生産性の伸びが鈍いことが大きいといいます。

企業が新たな商品やサービスを販売しても賃金が伸び悩んでいることなどから、消費者の節約志向が強く、簡単には価格を引き上げられないことなどが原因との見方が多いといます。

 

では、労働生産性を改善するにはどうしたらいいのでしょうか。

日本の年間総労働時間は、(少子高齢化により)働き手が減っていることや企業の働き方改革への取り組みもあって、減少傾向にあります。

一方、GDPの伸びは、アメリカなどに比べて低い水準に留まっています。

少子化で人口増が見込めない中で、今後もGDPを大きく伸ばすことは難しいと見られています。

生産性の向上には、働き方の見直しを更に進めることなどに加え、政府が規制緩和で新たなビジネスを後押しするなど、地道で息の長い取り組みが欠かせません。

 

なお、日本ではサービス業の労働生産性の改善が大きな課題とされてきましたが、製造業の生産性は近年は他国と比べて低迷しています。

 

また、労働生産性の指標を巡っては、以下のような指摘があることもお伝えしておきます。

・2016年の労働生産性で首位になったアイルランドは、日本の2倍以上の高い水準だが、法人税率を極めて低くしており、節税や課税逃れを狙って、多国籍企業が本社を移転してくるケースが多い。

このため、GDPに計上される利益がかさ上げされ、生産性も押し上げられる構図である。

・国全体の失業率が高まると、労働の投入量が減るため、同じGDPの水準でも生産性が上がる。

イタリヤやスペインは日本を上回るが、両国とも失業率が高い。

・GDPにおける政府部門が占める割合は、各国で異なるのであまり意味がない

 日本ではGDPの約7割をサービス産業が占める。

しかし、サービス産業の労働生産性評価は難しい。

“おもてなしの精神“を反映させたきめ細やかなサービスを安価に提供すると、分母の労働量は増えるが、分子のGDPに反映する付加価値はさほど増えないので生産性は低下する。

逆に、質の低いサービスを割高な価格で提供すると、生産性は改善する。

・日本の企業の工場が海外に移転すれば、そこで生む付加価値は日本の労働生産性には反映されない。

・川上の開発や部品製造と川下のメインテナンスやアフターサービスの収益性は高いが、中間の製造段階ではあまり儲からない傾向があるという「スマイルカーブ現象」がある。

アメリカの製造業の労働生産性が上位にあるのは、全て一貫して手掛ける日本と違い、川上や川下で稼ぐ変革が進んだことが大きい。

例えば、2017年9月期決算の営業利益では、アメリカのアップルの従業員一人当たりの利益は約50万ドル(約5300万円)だが、日本の日立製作所の2017年3月期の連結営業利益は従業員一人当たり約193万円、ソニーも225万円に止まっている。

しかし、日本企業は生産性を犠牲にしながら、一定の雇用を維持してきたとも言われている。

労働生産性の数字をそのまま経済の実力と受け止めることには疑問の声もある。

・労働生産性の計算上、分母の労働者数にカウントされない不法移民が多い国ほど、実態より生産性が高くなる傾向がある点にも注意を要する

南欧などの労働生産性の数字は、不法移民の影響を大きく受け、かさ上げされているという。

・違う尺度で見れば、日本の製造業にもまだ強みは残っているとの分析もある。

労働だけでなく、設備など全ての生産要素を考慮に入れる全要素生産性(TFP)での比較では、日本の製造業の生産性は1990年は1990年頃にアメリカを10〜15%上回り、2015年も1.2%高いという結果となる。

・このように生産性の国際順位は算出方法にも左右されるため、過度に振り回される必要はないと言えそうである。

・しかし、国際比較とは別に、日本の製造業の生産性自体が伸び悩んでいるのは事実である。

生産性を伸ばしていくためには、製造業のサービス化を進めることが一つの答えとなる。

例えば、タイヤ大手のブリヂストンはタイヤの販売だけでなく、メインテナンスサービスも合わせて提供する取り組みに力を入れて収益化している。

 

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

 

労働生産性の低さについてご紹介してきましたが、企業の視点で見れば、要するに分子であるモノやサービスなどの売上高からコストを差しい引いた利益をより多くし、労働時間をより少なくすることによって、労働生産性は高くなるのです。

そこで分母である総労働時間の残業時間ゼロを目指して作業効率を高めようとしますが、現状では限度があります。

一方、モノやサービスの商品については、他社製品に比べて機能などで差別化されていなければ、価格競争に陥り、多くの利益が得られません。

しかし、多くの需要に応えるような画期的な商品であれば、多少高価でも飛ぶように売れます。

ですから、多少作業の生産性が低くても労働生産性は高く、従ってその分、従業員に高い給与を支払うことが出来るのです。

それでも、商品には“流行り廃り”がありますので、いつもでも一つの商品に頼っていたのではいずれ売り上げは落ちてきます。

 

こうした枠組みで考えると、労働生産性を高めるうえで企業に最も求められるのは、やはり革新的な商品を開発し続けることだと思うのです。

同時に、国や自治体に求められるのは、企業活動をよりし易くするための規制緩和や研究開発費などの支援だと思います。

 

ということで、企業による多くの需要を期待出来るような商品の継続的な開発と、一方で経済活動が適切に回る程度の購買力を生み出せるほどに、中間層の収入が確保され、同時に安心して消費出来るような社会状況が続くことによってこそ、国の高い労働生産性は維持出来るのです。


 
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