2018年04月01日
No.3978 ちょっと一休み その640 『日本の近代化は3段式ロケット!?』

1月25日(木)付け読売新聞の朝刊記事で日本の近代化は3段式ロケットであると伝えていたのでご紹介します。

 

今年は平成30年と明治維新150周年という二つの節目が重なる年です。

そうした中、日本を代表する社会学者で東大名誉教授の見田 宗介さんは近代日本の歩みと、終幕を迎えている平成時代についての想いを記事の中で語っておられます。

 

明治の「明」には文明開化の意志、「治」にはきちんと治めようという意志が表れています。

そして、文明開化の中身は富国強兵です。

それで日本は近代化し、発展してゆく。

 

しかし、富国強兵は昭和20年(1945年)の敗戦で頓挫します。

近代化の真の目的は富国でした。

強兵は列強による植民地化を免れるために必要でしたが、無理をしてやり過ぎ、アメリカなどにガツンとたたかれ、敗戦で断念させられます。

これが時代状況にもかない、富国が勢いを得ることになる。

20世紀半ば以降、資本主義が新しいものへと変わるからです。

20世紀前半までの資本主義は10年ごとに恐慌に瀕し、それを回避する方法が戦争でした。

ところが今日、株価は戦争の危機が高まると下がり、平和の機運が増すと上がります。

転機は1960年代、新しい資本主義、情報化消費化資本主義が出現したことです。

新しい資本主義は、デザインや広告など情報の力で市場を無限に作り出します。

戦争をしなくても恐慌を回避出来るようになりました。

日本はその恩恵を受けます。

1960年代の資本主義世界の4強は軍備費の対国内総生産(GDP)比の高い順にアメリカ、イギリス、欧州共同体(欧州連合の前身)、日本ですが、その10年間の世界経済のシェア(占有率)の伸びは順位が逆転し、日本が1位、アメリカが4位でした。

 

日本の近代化は2段式ロケットでした。

1段目「強兵」を敗戦で切り離したことで、かえって2段目「富国」がぐんぐん伸びた。

これが戦後の経済成長です。

 

日本経済は1980年代に頂点を迎えます。

昭和は1989年に終わり、平成になります。

株価は平成元年の大納会をピークに暴落します。

そして「1.57」ショックです。

1人の女性が生涯に産む子どもの数を推計する合計特殊出生率は、平成元年調査で戦後最低の1.57を記録、少子化の実態を如実に突き付けました。

 

僕の考えでは、平成の始まりは明治維新と並ぶ、大きな歴史の曲がり角です。

二つは対照的です。

明治は坂を上り始めた時代、平成は坂を上り終えた時代。

ただ消極的に捉える必要はありません。

日本は富国を成し遂げたと考えるべきです。

この先、谷底に下りるのではなく、高原を歩き続けられるようにすることが大切です。

地球環境・資源に限りはありますが、無理をしなければ、今の相当豊かな生活をほぼ保つことが出来るはずです。

どうやって高原の明るい見晴しを切り開くのか、それが日本の課題です。

 

NHK放送文化研究所の調査によると、20歳代で衣食住に満足している人は1973年は6割でしたが、2013年は9割近い。

人間の歴史でも、世界的にも高い満足度です。

一方で、人生全般に満足している20歳代は2013年でも3割弱。

物質的には満たされているが、精神面か人間関係かリアルな生活の充実なのか、何かが欠けているのです。

 

イギリスの哲学者、バートランド・ラッセル(1872〜1970)は「幸福論」で、富者が幸福でないのであれば、全ての人を富者にすることに何の意味があるかと問いました。

まさに平成日本の問題です。

これは経済成長で解決出来る性質のものではなく、別次元の幸福という問題です。

 

明治以来の富国は本当に最終目標だったのでしょうか。

詰まるところ、人間を幸福にする手段だった。

日本が貧しい頃は、「豊かさイコール幸福」でした。

 

日本の近代化ロケットは実は3段式ロケットだったのではないか。

平成開始で2段目「富国」を切り離した次に、今度は垂直ではなく水平に飛ぶ、3段目で「幸福」に向かうことが必要なのです。

 

以上、記事の一部をご紹介してきました。

 

この記事を読んだ結果を要約すると、以下のようにまとめられます。

日本の近代化において、明治維新以降、日本は国を挙げて富国強兵にまい進してきましたが、先の終戦により「強兵」という第1弾ロケットを切り離しました。

次に平成時代の開始とともに「富国」という第2弾ロケットを切り離しました。

そして、私たちは今「幸福」という第3弾ロケットに乗っているところです。

 

しかし、この「幸福」についてはまだまだ道半ばというところです。

安倍政権の進める「働き方改革」はその施策の一つとして位置づけられます。

また、この「幸福」の具体的なイメージについては、アイデアよもやま話 No.3962 北欧の豊かな暮らしを参考にすべき「働き方改革」 その1 国内で“フラリーマン”が増殖中!から7回にわたってお伝えした北欧の豊かな暮らし“ヒュッゲ”を参考にすべきだと思います。

 

なお、見田さんは、新しい資本主義はデザインや広告など情報の力で市場を無限に作り出し、

戦争をしなくても恐慌を回避出来るようになったとおっしゃいますが、特に一通りの生活必需品を手に入れた暮らしの出来る先進国においては、需要は全般的に飽和状態に近くなってきます。

それは先進国と途上国との経済成長率に比較により明らかです。

ですから、市場を無限に作り出せるかどうかはより多くの企業がいかに魅力的な商品を提供し続けるかどうかにかかっていると思います。

更に、地球温暖化や化石燃料の枯渇といったリスクは人類にとって、「幸福」を追求するうえでの大きなハードルになります。

ですから、いかに経済成長や限られた天然資源に依存しない“持続可能な社会”を実現するかを考え、そのうえで豊かな暮らしを私たち一人一人が自ら考えて追及することが求められるのです。

 

また、イギリスの哲学者、バートランド・ラッセルさんのおっしゃる「富者が幸福でないのであれば、全ての人を富者にすることに何の意味があるか」という言葉は本質を突いていると思います。

大富豪と言われる人たちは金銭的には全く不自由することはありませんが、人間関係で悩んだり、老いに伴う様々な不安感を拭い去ることは出来ないのです。

むしろ、守るべき膨大な資産があるだけ、悩みが深いのではと想像されます。


 
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