以前、社外取締役がいても企業の不正は防げない現状についてご紹介しました(プロジェクト管理と日常生活 No.515 『社外取締役がいても企業の不正は防げない!?』を参照)が、そうした中、1月18日(木)付け読売新聞朝刊の「名ばかりの第三者委
企業の損失」というタイトル記事に思わず目が釘付けになってしまいました。
不正が起きて第三者委員会を設置しても、名ばかりで終わってしまうケースがあるというのです。
そこで、記事を通してその実態についてご紹介します。
なお、この記事で取材を受けたのは弁護士の久保利 英明さんです。
十数年前から、企業の不祥事が発覚した際、弁護士らが独立した立場で原因を調べる「第三者委員会」が設置されるようになりました。
不祥事が始まった時期や原因を究明し、再発防止策を報告書で提言するものです。
世間の信頼を失った企業が自ら調べるより調査に対する信頼性や客観性が高いというのです。
しかし、現実には、経営者から依頼を受け、企業の不正を隠して責任逃れを助ける「名ばかり第三者委員会」が散見されるというのです。
こうした状況を受けて、日本弁護士連合会は2010年、独立した立場で中立・公正な調査を行うことを求めるガイドライン(指針)を公表しましたが、なお従っていない報告書が多いといいます。
このため2014年4月、ガイドライン作成に関わった弁護士と大学教授らが「第三者委員会報告書格付け委員会」を設立することになりました。
弁護士の信用を損ないかねないからで、久保利さんはその委員長を務めています。
格付けは、調査の正確性や問題の本質に迫れているかなどの要素から、報告書をA〜Dの4つのランクと、F(不合格)の5段階で評価し、公表されます。
これまでに14件の不祥事の報告書を格付けしましたが、評価出来るものは1割にも満たないといいます。
しかし、中には事実をしっかり把握し、本当の原因がどこにあるかまでえぐった報告書もあるといいます。
一方、2015年に発覚した東芝の不適切会計問題では、第三者委員会は、東芝に委託された項目の調査に留まり、アメリカの原子力発電子会社の巨額損失は対象ではないとして報告書に盛り込まれませんでした。
会計処理が問題となったのに監査法人への調査も行われませんでした。
これらの問題は、その後も東芝を混乱させ、経営危機に陥らせました。
なお、第三者委員会という位置付けにせず、弁護士と企業が連携して調べ、独立性や中立性が欠けているケースもあります。
昨年、資格のない従業員に完成車両の検査をさせた問題が発覚した日産自動車やスバルでは、不正が始まった時期や経緯を解明出来ませんでした。
しっかりした報告書を増やすためには、弁護士の仕事ぶりも大事です。
第三者委員会には、自分の目で見て、足で歩いて調べるような弁護士が相応しいのです。
また、調査の依頼者が企業の役員だとしても、消費者の安全や従業員の雇用など、全ての利害関係者のための調査であることを忘れてはならないのです。
以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。
一般的に、私たちマスコミ記事の読者は第三者委員会による報告者の内容が報道されれば客観的な内容として信頼してしまいます。
ところが、現実は必ずしも信頼出来ないというわけです。
やはり、第三者委員会においても依頼元である企業と調査を請け負う弁護士などとの力関係から、請け負う側が企業側の表向きには出せない本当の意図を忖度して本来の調査からかけ離れた調査を行ってしまうケースがあるということなのです。
しかし、企業で不祥事が起きた場合、長い目で見れば徹底的に問題の原因を追究し、そのうえで再発防止策を検討しなければ、また同じような不祥事が起きてしまうことは明らかです。
要するに、どんなに優れた作業プロセスを構築しても、それを運用する人たちがその狙いをきちんと理解したうえでそのプロセスを実行に移さなければ、プロセスは形骸化してしまい、本来の機能を果たすことは出来ないのです。
こうした基本的な考え方は、プロジェクト管理におけるプロセス管理の本質に通じます。
プロセス管理が適切に行われてこそ、期待される成果がもたらされるのです。
ですから、そもそも適切なプロセス管理が日頃きちんとされていれば、第三者委員会を設置するような不祥事が起きる可能性はとても低いのです。
また、経営力のしっかりした企業では、万一の不祥事に備えたコンティンジェンシープランも日頃検討されているはずです。
そういう意味で、不幸にして何か不祥事が起きてしまい、第三者委員会まで設置するような事態になった時こそ、その企業の経営力が試されるチャンスだと思うのです。
また、こうした事態での企業の対応次第では、かえって社会の評価が高まるケースもあり得るのです。
どんなに優れた企業と言えども、不祥事を完全に防ぐことはあり得ません。
しかし、しっかりとした企業統制のプロセスが構築され、企業のトップから一般社員のみならず契約社員などまでその本来の意図の理解が浸透されていれば、万一不祥事が発生してもその対応には見るべきものがあり、かえって社会の評価が高まる可能性を秘めているのです。
その心は久保利さんも指摘されているように、消費者の安全や従業員の雇用など、全ての利害関係者に対して経営トップが真摯に向き合っていることだと思います。
最後に、記事の内容を受けて、あらためて企業統制のあるべき一般的な仕組みについて、以下にざっとまとめてみました。
・適切な作業プロセスの構築、およびそのガイドによる社員への浸透
・作業プロセス遵守の可否について、その重要度に応じたピアレビュー(仲間内のレビュー)、あるいは社内の第三者によるレビューの実施
・リスク管理におけるコンティンジェンシープランが必要に応じて作成されていること
・企業統制全般における監査役、あるいは社外取締役によるレビュー
・重大な不祥事発生の際の第三者委員会の設置、および報告書の作成
・第三者委員会報告書格付け委員会による報告書のランク付け、およびその公表
こうした仕組みが適切に回ることによって、不正の発生を最小限に防ぐことが出来、万一不正が発生しても実効性のある再発防止策を検討することが出来ると期待出来ます。
更には対応次第では企業イメージの更なる向上にもつながる可能性さえあるのです。