AI(人工知能)がどんどん進化しており、私たちの暮らしの中にAIは徐々に普及しつつあります。
そうした中、私たちは人類の敵か味方かというような観点でAIについて考えがちです。
そこで、昨年11月23日(木)放送の「深層ニュース」(BS日テレ)で「AIは敵か味方か」をテーマに取り上げていたので5回にわたってご紹介します。
4回目はAI時代の社会の仕組みについてです。
なお、番組ゲストは40年以上AIの研究をされてきた東京大学大学院の中島
秀之特任教授と経営戦略コンサルタントの鈴木 貴博さんのお二人でした。
私たちの仕事がAIに置き換わっていくことが行けば行くほど、制度をどうするかとか、制度の決め方をどうするかというところにも話が行き着くわけで、私たちの仕事だけじゃなくて政治そのものもAIに置き換わってしまうかもしれません。
今回はAI時代の社会の仕組みについて、お二人に番組キャスターで読売新聞の編集委員の丸山
淳一さんも交えては次のようにおっしゃっています。
(鈴木さん)
「(5年後にAIが実現可能な職業について、小説家や警察官、教師など))ある種人間が抑止力であったり、しつけをしなかったりというものについてはより人間寄りであり、(裁判官や政治家など)何かを決めたり、判断したり、構想したりという仕事はかなりAIに委ねられる未来が来るんじゃないかなという考え方ですね。」
「裁判官って結構杓子定規に法律をそのまま読んでAIが何か判断するんじゃないかと我々心配するんだけれども、アメリカで裁判を実際にAIにやらせるという実験を始めてるんですね。」
「その判決をみると、結構人間的な判断をするんですよ。」
「例えば、アメリカでは同性婚の問題がありまして、これは違憲なんですね。」
「違憲なんだけれども、そういう人たちが増えていて、それを認めるかどうかという判断なんですが、人間の裁判官が認めるんだって言うよりずっと早く世論などを学習したAIが憲法が間違っているから認めるべきだという判断を出してくれる、結構人間的なんです。」
「(介護職については、)物理的にロボットでは出来ない部分が結構ありますが、話し相手なり、いろんな意味で介護は一人のヘルパーが一人を看ているわけにはいかないですからね。」
「そういう意味でいくと、介護の部分にもAIが来るんじゃないかなというのが私の考えです。」
(中島さん)
「(鈴木さんの考え方に対して、)教師も2つの面があるって話があって、人間的なところを教える面と知識を教える面と。」
「だから(AIに任せるか)あんまり単純には分かれないっていうのはあるんですけど、特に裁判官と警察官て逆かなって思っているんですよ。」
「なぜそう思うっていうと、特に裁判官の話ですけど9割は今(鈴木さんが)おっしゃったようにうまくいくと思うんだけども、1割ぐらいは想定外の事件っていっぱい起こるじゃないですか。」
「昔の例でいうと、電気はモノじゃないから窃盗罪が成り立たなかったっていうのがあるんだけども、それは法律の方を変えていかなければいけない。」
「そうすると、今までの法律とか世論に則ってやっていけばいいのはAIでも出来るかもしれないけど、よく分かんない突発的な時にどうするのがいいかっていうのはやっぱり人間の側にしかないと思うんですね。」
「で、私はAIと人間の最大の違いっていうのは生活をしているかどうかというふうに思っていて、自分たちの生活がある。」
「そうすると生活に対する価値観がありますよね。」
「その価値観を持っているのは人間だけなんですよね。」
「そうすると何か突発的なことがあった時に、何を大事にして何を捨てていいかという判断は人間の側にしかない。」
「そういう部分で絶対手放しちゃいけないっていうんですかね。」
「だから割とどうなるんですかって言われてるんですけど、どうしたいんですかっていうことを我々考えていかなきゃいけない。」
「社会の仕組みもそうですけど、我々は今後どういう生き方をしてどういう社会を作っていくんだって、これを考えるのは人間しかないんですよね。」
「で、その通りにAIにやらせるっていう、そういう順序だと思います。」
(鈴木さん)
「人間並みに暮らしていくのが今AIにはないと。」
「それは常識みたいなものですね。」
「なんとなくそういうものがAIには身に付きにくいことですか。」
(中島さん)
「人間て例えば恋をするし、子どもをつくるし、美味しいものを食べたいとか、お風呂に入ると気持ちいいとか、こういうのを常識というか何か知らないけれども人間であれば誰でも分かっているそういうのが生活の価値観ですよね。」
「それに対してAIって失恋しないだろうし、そういうのがないっていう意味で生活感がないんだと思います。」
「(こうした感情を)学ぶことは出来ると思います。」
「だから人間がやっているのを見てて、こういう時には悲しいんだなとは思うけど、本当に悲しいのとはちょっと違うと思いますけどね。」
「ただね、人の感情を判断するというのは実は今でもAIの方がうまくなっていて、例えばデジタルカメラで見ると、赤外線も見えちゃう、人間には見えないけど。」
「そうすると毛細血管が見えるんです、人の顔を見ていると。」
「そうするとこの人段々興奮してきたとか、心拍数も顔を見ていれば分かる。」
「そういう意味で、感情を推理するっていう能力はもうコンピューター(AI)の方が上ですね。」
(鈴木さん)
「じゃあ警察官はこいつが犯人だとか分かるんですね。」
(中島さん)
「見ただけでウソかどうか分かるみたいなことはあり得ますね。」
「(政治家については、)やっぱり(AIと人間の)両面があると思うんですよ。」
「やっぱり生活しているからこそ決めるっていう面はあって、そういう部分は(人間の担う部分として)残したいんだけど、それが政治家というかたちなのか国民の総意というかたちがいいのか。」
(鈴木さん)
「これ、言うと怒られちゃうかもしれないけど、中島さんのおっしゃるように未来をどうしたいのかということでいうとこっち(政治家はAIの側)ですね。」
「今の政治って壁に突き当たっている部分はある種の利害調整をしていく時に今のルールの中では遅々として進まない。」
「で、結構国民の不満に思っているものが先に進まないということなので、そこについてAIでもっとサポートしていくようなかたちをしていかないと今の政治は変わらないんじゃないかなという期待感からすると、勿論政治家は一人一人国民の代表として国会にいてもいいんですけど、かなりAIでパワーアップしたようなかたちで政治が行わる未来になって欲しいなと希望としては思います。」
(中島さん)
「(1億人以上の国民の意思を政治家が体現している中で、物事を決定する時に国民の気持ちを集約し、そこにAIが最適な解を出すことは可能なのかという問いに対して、)出来ると思います。」
「今、インターネットで例えばSNSですとかみんなで議論を言い合う場がありますね。」
「今は出すだけなんだけど、それを例えばAIが司会をして議論を全部まとめていく。」
「で、最終的には投票になるかもしれないですけど、今AとBとCの意見があってどういう関係にありますぐらいまではAIでまとめられると思います。」
(丸山さん)
「だから総理大臣一人とか権力者一人という意味ではなくて、国会議員一人一人が今のやり方かどうかは別にしてですね。」
(中島さん)
「技術的な話だけしますと、代議員制度って昔は国民全部が議論する場がなかったから、間接的に選んだ人が議論しているけど今は技術的には出来るわけですよ。」
「それがいいかどうかは別ですけど、そういう可能性が広がっているのに、今政治って多分インターネットが出る前のままやってますよね。」
「あれも変えていかないとまずいと思うんですけど。」
(鈴木さん)
「社会学的な観点から話をしますと、AIはものすごい勢いで進化しますよね。」
「で、人間はなんとかそれに追いついて行こうとするんですけど、結局後に残されるのは社会なんです。」
「ここは中々変わらない。」
「例えば5年後に運転手が自動化されます、人が乗ってなくても運転出来るような世の中になってきますと。」
「ここで、政治の世界で考えなければいけないのは道路交通法をどうしなければいけないのか、これは安全とかそういう話も一方でありますし、雇用という話もあるんですよ。」
「その時にこれを自動車を運転させるというふうに道路交通法をどう変えるんですかという議論だけで恐らく5年10年で結論が出ないと思うんです。」
「(技術に全く追いつかない、)ところが自動運転だけじゃないんです。」
「世の中の決済だとか金融だと業務だとかあらゆるところでこれからAIの変化が起きてくる、その意思決定に今の政治のシステムで間に合うんですかっていうことが問われるようになります。」
(中島さん)
「(すると技術の進歩や進化のスピードに制度が追いつかなければ宝の持ち腐れになるのではという問いに対して、)本当は同時に進むのが一番いいわけですよね。」
「だから、そういう意味では社会学の人たちと今技術を持っている人たちがあらかじめ議論して、こういうことが出来る、じゃあこういう制度にしましょうって同時に進行するような世界にならないと多分持たないと思います。」
(丸山さん)
「自動運転車でよく出る話ですけど、どうしても技術的にはもう出来るんだけど、無人運転だと道路交通法上問題があるとか、事故が起きたら誰が責任取るんだとか、そういう話が全然追い付いてってないですよね。」
「だから中々公道を走るっていうのが難しい。」
(中島さん)
「さっき、飛行機もですかっていう話もあったんですけど、飛行機の方が簡単で、要するに空は人が歩いてないですし、飛行機しか飛んでないんで今の技術で多分出来るんですよ。」
「でも法的には全然許されないということもあるし、実は我々パイロットの支援ということでディープラーニング(深層学習)でいろんな判断をさせるような研究をしたいんだけれど、今の法律でいうとコックピットにカメラを持ち込むことすら許されていない。」
「で、カメラ持ち込んでいろんなのを記録して、その結果人間がどうやっているかを学習して、後はAIにやらせようってことは技術的には出来るんですけど、法制度が全然そういうことを想定していないので出来ないんですよね。」
(丸山さん)
「小説家ってのがありますけど、クリエイティブな仕事だからいつまで経っても人間がやるんだってことだと思うんですけど、人間の常識だとか勘みたいなものが、私30年新聞記者やってるんですけど、取材して誰も正解なんかをきちんと教えてくれる人いないんで勘なんですよね。」
「“勘取り”っていうんですけど、これ警察の世界とか他の業種でもあると思うんですけど、そういうのって中々取得出来ないじゃないですか。」
「だから大丈夫ですよね、新聞記者(やっていても)。」
「社会的な仕組みとかあるけれども、どうしたって(AIに)変われない仕事ってのも(あると思うんです。)」
(鈴木さん)
「丸山さんがどうしたいかっていう話で、機械にまかせて取材させるのか、人間の取材の方が価値が出るって未来を作りたいのかってところだと思います。」
「5年、10年でそういうことはあっという間にやってきますからね。」
(中島さん)
「新聞記者の例でいうと、何を記事にするかとか、どのポイントを取り上げるかってのはまだ人間の方に残っていると思うけど、その後はAIが記事を書いちゃうんじゃないですか。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
番組を通して感じたことは以下の3つです。
一つ目は、私たち人間にはAIと違って自分たちの生活があり、生活に対する価値観があるということです。
しかし、この生活感や価値観もAIが沢山の小説やSNSなどネット上の情報、すなわちビッグデータを解析していけば、かなりの部分を整理して理解出来ると思います。
それでも、やはり私たちの暮らしの中で起きていること、あるいは生活感や価値観の全てをAIが把握することは出来ません。
なぜならば、AIにはデジタル空間にある情報しか認知出来ないという制約があるからです。
二つ目は、私たち人間が今後どういう生き方をしてどういう社会を作っていくかを決定するのは人間しかないということです。
勿論、AIに指示すればこうしたことも提案してくれますが、やはり最後は人間が決めるしかないのです。
その結果、AIは人間の決めたこと、あるいは指示に従って作業してくれるという、あくまでも道具に過ぎないのです。
ですから、どんな職業であってもそれぞれの職業の持つ特徴に照らしてAIを道具として使える可能性のあるところについてはどんどん活用していくというスタンスでいいと思います。
あまりどの職業はAIで置き換わるというような議論にこだわる必要はないと思います。
三つ目は、いくらAIが進化しても、その機能を受け入れる社会の制度や仕組みがそれに対応出来なければ普及させることは出来ないということです。
要するにAIと社会の制度や仕組みがシンクロナイズしなければ“宝の持ち腐れ”状態が続いてしまうのです。
ですから、AIの進化のスピードに追い付くような国や社会の制度の継続的な見直しがきちんとしたプロセスとして構築されていることがこれからはとても重要になってくるのです。
ということで、まず私たちはこれからどのような社会を築きたいのかを明確にすることこそが最も求められるのです。
そして、AIはその実現のためのとても強力な道具であるという認識が必要なのです。
こうした考え方を持たないと、私たち人間はAIの暴走を許し、“AIのしもべ”となり下がってしまうリスクがあることを忘れてはならないのです。