アイデアよもやま話 No.843 近江商人の教え!などで、これまで“三方良し”という近江商人の教えについてご紹介してきました。
そうした中、昨年10月23日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でこの教えに通じる、最近注目されている”CSV”について取り上げていたのでご紹介します。
CSR(企業の社会的責任 Corporate Social Responsibility)という言葉はよく耳にしますが、最近はCSV(共有価値の創造 Creating Shared Value)も注目されています。
CSVは本業を通じて社会問題を解決することで企業の発展と社会貢献の両方を目指すことを意味しています。
こうした中、食品卸の大手が本業の「食」を通じて地域を活性化しようという取り組みを始めました。
人口およそ5万人の山梨県富士吉田市で、町のいたるところで目にするのが「うどん」の文字で、60軒以上のうどん店が点在しています。
この地域で食べられている「吉田のうどん」は山梨で有名な「ほうとう」とは全くの別物です。
硬くて腰の強い麺と醤油と味噌を合わせた濃いつゆが特徴です。
地元で長年愛されている「吉田のうどん」は、市販のつゆはほとんどなく、地元以外での知名度は高くありませんでした。
しかし、昨年「吉田のうどん」を全国に広めるかもしれない新商品が登場しました。
お湯で薄めるだけで調理出来る濃縮だし「吉田のうどんだしMAX」です。
この商品の開発を支援したのが食品卸大手の伊藤忠食品株式会社(ISC)です。
新商品はあるイベントをきっかけに誕生したといいます。
伊藤忠食品経営戦略部の福万 由希子さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「年に1回、商業高校フードグランプリを開催させていただきまして、商品開発に必要な知識を学んでいただけるように当社もサポートしています。」
伊藤忠食品が2012年から開催している「商業高校フードグランプリ2017」は、商業高校の科目に商品開発が採用されたことを受けて、本業を生かした教育支援としてスタートしました。
地元の食材から名産品を生み出し、地域経済に貢献することも目的です。
うどんだしでフードグランプリに参加したのが山梨県立ひばりが丘高校のうどん部です。
うどん部部長で3年生の中野 吏希矢さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「うどん部で作っているのが吉田うどん専門フリーペーパー「うどんなび」です。」
「今回は6万5000部発行させてもらいました。」
「吉田のうどん」を広める活動をしてきたうどん部は、伊藤忠食品の仲介で地元メーカー「テンヨ武田」とうどんだしを共同で開発しました。
市内などに11店舗を展開する地元のスーパー、セルバの本店(山梨県富士吉田市)の売り場にはっぴを着たうどん部のメンバーの姿が見えました。
店員として活動していたのです。
順調に進んだように見える商品開発ですが、支援してきた福万さんと生徒とで意見が合わない場面もあったといいます。
地域の食を生かす取り組みは大阪でも見られます。
堺泉酒造(大阪府堺市)は、酒造りの伝統が途絶えていた堺市で44年ぶりに誕生した酒蔵です。
地酒の販売を担う伊藤忠食品からある提案を受けた社長の西條 裕三さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「今、甘酒が非常に売れているじゃないですか。」
「甘酒と何かを合わせたものが出来たら非常にいいのになという話をした時に、伊藤忠食品の皆さん方が「これをやろうやな」という話が出てきたもんで・・・」
「なぜこんなにうまく出来るのかなというくらいにびっくりしますね。」
小さな酒蔵の経営を安定させるため、甘酒を使った新商品の開発して出来上がったのは「べっぴんさん
甘酒ノンオイルドレッシング」です。
製造は地元の醤油メーカー、大醤(大阪・堺市)が担当、地域一丸となって新商品を生み出しました。
地元の堺市立堺高等学校に伊藤忠食品の営業マンや全国展開する外食チェーンの担当者が集まりました。
そこへ運ばれてきたのは、商業研究会の生徒たちが試作したドレッシングを使った料理です。
実は、甘酒を使ったドレッシングというアイデアを出したのは酒井高校の生徒たちだったのです。
更に、若者ならではの常識に囚われない食べ方も考案していました。
たまごかけご飯にドレッシング、意外な組み合わせに思いますが、試食した方々の感想は上々でした。
外食チェーンの担当者も甘酒ドレッシングの可能性を高く評価しました。
伊藤忠食品は、地域の「食」を支援する取り組みを本業の発展にもつなげたいといいます。
高垣 晴雄社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「いい食品づくりをして、我々も協力させていただきながらそれを流通に乗せていくと。」
「(社会との共有価値を創る)CSVの活動とか社会貢献のCSRの活動とかいうのをきちんと拡大しながらグッドカンパニー(良い会社)になっていきたいなと思います。」
実は、この企業のCSVは最近の流行のように聞こえますが、番組コメンテーターで日経ビジネス編集委員の山川
龍雄さんは日本には昔からこの考え方はあるといいます。
それは“三方良し”で、山川さんは次のように解説されております。
「これは近江商人の経営哲学なんですけど、売り手良し、買い手良し、世間良しといいます。」
「つまり、売り手である自分だけが幸せではなくて、買い手であるお客さんだとか世間、これは地域社会ですね、こういうのがみんなハッピーになってはじめて会社というのは長期的に成長出来るという話なんですが、今日はVTRにあった伊藤忠は創業者が近江商人、まさに江戸時代に出てきた伊藤忠兵衛さんなんです。」
「そこから来てますから、会社としてはそれが一つの社訓に近いかたちになっている。」
「恐らく、この取り組みもそういう一環ではないかなと思いますね。」
「(最近のいろんな企業の問題を見ていると、“三方良し”のバランスが崩れているように思えるという状況に対して、)神戸製鋼だとか日産もそうですし、商工中金だとか不祥事がいろいろと相次いでいますが、売り手のところでものすごく力が入り過ぎてしまって、買い手や世間を忘れていないかって、日本には古くからこういう良い教えがあるので、そこにもう1回原点に立ち返るべきではないかなと思います。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
そもそもCSR(企業の社会的責任)とCSV(共有価値の創造)の違いについてですが、CSRは本業とは別に社会貢献活動を目指すものですが、CSVは本業を通じて社会問題を解決することで企業の発展と社会貢献の両方を目指すことだといいます。
ですから、どちらも社会貢献につながる企業活動ですが、企業の立ち位置からすると、CSRは社会という視点から、そしてCSVは本業という視点からの活動だと言えます。
そして、今回ご紹介したように、CSVには本業を通して、あるいは本業の延長線上で、商業高校などの学校や地域の地元企業を巻き込んで様々な支援をする中で、相互にWinWin関係を築き、企業のビジネス拡大の可能性を広げるだけでなく、若い人たちの人材育成、あるいは地元経済の活性化に結び付く可能性を秘めています。
ですから、CSVの本質はまさに“三方良し”に通じると思います。
さて、この基本的な考え方は企業だけでなく国や個人にとっても適用出来ます。
そこでこのCSV、あるいは“三方良し”の考え方の反面教師ではないかと思われるのがアメリカのトランプ大統領の「アメリカファースト」です。
アメリカのような大国こそ、自国のみならず交流のある相手国、あるいは世界的な貢献のバランスの上に立って世界をリードすべきだと思うのですが、アメリカの大統領が「アメリカファースト」を声高に唱えているのでは身も蓋もありません。
トランプ大統領がこのまま「アメリカファースト」を唱え続けていては、世界各国からアメリカが尊敬されることはありませんし、アメリカの輝かしい将来もないどころか、凋落の一途をたどることも危惧されます。
こうした事態そのものが世界経済や世界平和にとっても悪影響をもたらすのです。
ですから、世界的な見地から、トランプ大統領が「アメリカファースト」から方向転換して「世界各国の共存共栄」を唱えるか、あるいは「世界各国の共存共栄」を唱える方に次期アメリカ大統領になっていただきたいと思います。
また、個人の観点でも、「自分ファースト」を前面に打ち出すような人は尊敬されることはないし、たとえ親しい人が出来たとしてもいずれ去っていきます。
ですから、私たち一人一人が“三方良し”の基本的な考え方に則り、人や社会と接することにより、お互いに周りの人から尊敬され、社会全体もお互いに暮らしやすくなるのです。
そういう意味で、近江商人が唱えた“三方良し”は国や、企業、あるいは個人のあり方をとても簡潔に表現した分かりやすい言葉だと思います。