これまで賞味期限や消費期限の切れた食品が廃棄されてしまうフードロスについては何度となくお伝えしてきましたが、フードロス以外にもこうした資源の廃棄問題があります。
10月9日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で企業の余った在庫処分をするビジネスモデルについて取り上げていたのでご紹介します。
メーカーが余分に作った製品や返品されたりして余っている在庫の価値を試算した結果、なんと22兆円に上るというのです。(オークファン推計)
その多くは安売りをすると市場価格が崩れてしまうという恐れから廃棄されているのが実情だといいます。
こうした余った在庫を企業も助かるかたちで市場に再び戻すための新たなビジネスモデルが注目を集めています。
有明海を臨む長崎県南島原市で創業して45年の地元企業、株式会社山一で作っているのは島原名産の手延べそうめんです。
ほとんどが職人の手作業によって作られます。
6束で1000円ほどの高級そうめんとして、全国の百貨店やギフトショップで販売されています。
しかし、毎年秋になると悩みの種があります。
山一の陣野 一人取締役は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(倉庫にある大量の商品を指して、)夏場に売れ残った商品の在庫になります。」
「値段を下げた状態で販売してしまうと、市場で自分たちの値段を崩してしまうという結果になりますので、それだけは避けたいと思っています。」
欠品を防ぐため、多めに製造するのが食品メーカーの宿命なのです。
毎年、市場価格にして2500万円分以上の在庫を廃棄しているといいます。
こうしたメーカーの在庫を買い取るビジネスを展開しているのが株式会社シナビズ(東京都品川区)です。
シナビズでは、BtoBの業者向けオークションサイトを運営しています。
メーカーから余った在庫や返品された商品などを買い取り、サイトでオークションにかけてリサイクル店などに販売、ものによってはサイトを通さず業者と直接取引もしています。
扱うのは家電製品からアパレル、食品など様々です。
そんなシナビズの大きな特徴は、買い取り方にあります。
メーカーからの要望を細かく聴くのです。
例えば、山一を訪れたシナビズの執行役員の藤井 厚さんに対して、山一の陣野さんは、以下のように要望を伝えます。
「既存の販路とかぶらないこと、もう一点は安い値段で市場に出回らないこと。」
他にも、雑貨メーカーから買い取ったアロマが楽しめる扇風機ではネット販売はNG、あるいは住宅設備の業者限定の商品や海外向け販売業者限定など、メーカーの要望に合わせた売り先を見つけるのです。
そして、山一のそうめんを購入したのはキングダムのチェーン店でした。
ブランド品や貴金属を買い取り販売しているリサイクルショップです。
その運営会社が1万食分を購入しました。
条件の一つ、山一の販売先とはかぶりません。
そして、限定の販促品としてお客に無料配布したのです。
安い価格で市場に出ないことが条件でしたが、無料だとブランド価値は下がらないのです。
一方、メーカー側の反応ですが、山一の陣野さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「下手に値段を付けて販売される方がどうかなと思いますので、誰も損しない、非常に良い選択肢かなと思っています。」
そんなシナビズのもう一つの特徴はサイトに出品する際の値目付けにあります。
他社よりもリーズナブルな価格で出品出来ているといいます。
どう値付けしているのか、担当者が見ているのは社内システムです。
ここに商品名や品番を打ち込むと、これまでネットで取り引きされた平均価格が表示されます。
実は、シナビズの親会社はオークション価格の比較サイトを運営しており、過去10年分、約680億件の取引データを参考に相場に合った根付けが可能なのです。
2年前にこの事業を立ち上げたシナビズの武永 修一社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「絶対に生産者である以上、破棄する商品は一定数出てくる。」
「そういうところで、ブランド価値を毀損(きそん)せずにいかに最適な価格、最適なタイミングで商品を売れるかというのを事前に取り決めすることが出来るのが一つ大きな強みですね。」
そんなシナビズが新たに立ち上げたのがオタメシというサイトです。
今度は一般消費者向けに企業の余った在庫を販売します。
そこにはある特徴があります。
購入金額の3%が慈善団体に寄付される仕組みです。
しかも寄付する先を選ぶことが出来ます。
化粧品メーカーのちゅらら(東京都薬袋徳)が出品しているのはパッケージを変更する前の、品質には問題のない在庫商品です。
寄付付きだったことがオタメシを選んだ理由の一つだったといいます。
ちゅららのシニアマネージャー、齊藤 光貴さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「何か売るにしても一つ大きな理由付けがあった方が会社としても動きやすいというのもあります。」
7月に開設後、売り上げは毎月倍々の勢いで増えています。
試算では22兆円に上るという企業の余った在庫には更なる可能性があるといいます。
シナビズの武永社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(在庫や返品は)まだ22兆円、これはまだ日本だけですからね。」
「海外に直すと、全世界のGDPの数パーセントが多分毎年毀損しているので、そういった意味で終わりがない規模感はあるかなと思いますね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
22兆円に上るという企業の余った在庫が試算される中で、今回ご紹介した企業の在庫処分のビジネスモデルは資源の有効利用の観点からとても理に適ったものだと思います。
そこで、このビジネスモデルにおけるポイントを以下にまとめてみました。
・生産する以上、売れ残って破棄する商品は必ずといっていい程出てくること
・一方、何らかの目的でこうした安い売れ残り商品を求めている企業が存在すること
・売れ残った商品の廃棄を防ぎたい企業と安い商品を探している企業との要望に応えるサイトがあれば、広く両者の要望を満たすことが出来、その結果として商品の廃棄をしなくて済むようになること
・単なるオークションサイトの立ち上げだけでなく、在庫問題を抱えている企業やその在庫商品を購入する可能性のある企業への積極的な働きかけにより、在庫処分の可能性がより高まること
・購入金額の一定割合を慈善団体に寄付するというような包括的な理由付けがオークションサイトに個人の利用者としての取り込みなど、新たな在庫問題解決の道を切り開くこと
・他社よりもリーズナブルな価格の値付けがこうしたオークションサイトの活性化に結び付くこと
さて、そもそも商品を作り過ぎなければ、余った在庫は発生しないのです。
過剰在庫問題解決の根本的な解決策は、商品の作り過ぎをしないことなのです。
ですから、商品の作り過ぎを全く防ぐことは出来ないまでも、AI(人工知能)やビッグデータの活用により商品のより適正な生産計画が出来れば、これまでよりもかなり商品の作り過ぎを防ぐことが出来るようになると期待出来ます。
ということで、武永社長のおっしゃるように、全世界のGDPの数パーセントが毎年過剰在庫として毀損しているので、適正な生産計画、および過剰在庫の活用を目的としたシステムを世界展開すれば、国際的な資源の有効活用、および個々の企業、あるいは一般消費者にメリットをもたらすことに大いに貢献出来ると大いに期待出来ます。