2017年12月16日
プロジェクト管理と日常生活 No.519 『中小企業の後継者不足の課題とその対応策 その1 後継者が見つからない!』

最近、高齢化の進行に伴う中小企業の後継者不足について話題に取り上げられることが多くなってきました。

そこで、中小企業の後継者不足の課題とその対応策について、プロジェクト管理の中の課題管理の観点から3回にわたってお伝えします。

11月14日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で中小企業の後継者不足の課題について取り上げていました。

そこで、1回目では番組を通して後継者が見つからないという課題とその対応策についてお伝えします。

 

高齢化社会の波が企業にも迫ってきています。

国は2025年までに中小企業の経営者のうち6割以上の245万人が70歳以上になると見ています。

こうした人たちは会社を誰に引き継ぐか、つまり事業承継を考えなくてはいけないのですが、およそ半分の経営者は後継者がいないという課題に著面しています。

こうした中小企業の中には黒字経営をしているところも多く、このまま放置しておいて中小企業の廃業が相次ぐことになると、650万人ほどの雇用喪失、そして22兆円ほどのGDPが失われるという深刻な問題が発生するのです。

こうした事態を食い止めることは出来るのでしょうか。

 

東京都墨田区にある岡野工業株式会社は“痛くない注射針”の製造で世界的に有名な町工場です。

医療機器メーカーのテルモと共同開発した、これまでにない極細の針で医療業界に革新をもたらしました。

今も世界に向けて5億本を供給し、経営は軌道に乗っている岡野工業ですが、実は廃業に迫られていました。

社長の岡野 雅行さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「私は後2年くらいで引退したいから。」

「だって84歳だろ、85、86歳まで出来るか、この細かいの。」

「跡取りいないよ、これで終わりだよ。」

「最終的な仕事を今やっているわけ、それで終わり。」

 

「(周囲も後継者問題で悩んでいるのかという問いに対して、)ありますよ。」

「どんどんどんどんなくなっちゃう、この周りだって。」

「みんないなくなっちゃって、かわいそうだよ。」

 

二人の娘は嫁いで別な道に進んだため、後継ぎがいないのです。

技術を残すため、注射針の製造はテルモに移管することを決めました。

後継者が見つからない問題は、今後更に拡大し、2025年までに127万社が後継者未定の状況に陥ると予想されています。

 

こうした問題を引き起こしてしまう要因の一つと見られているのが、事業を引き継いだ際に多額の相続税などが発生してしまう税制です。

11月14日に開かれた中小企業・小規模事業者政策調査会 経済産業部会合同会議で自民党は、中小企業が後継ぎを見つけやすくするため相続税などを変える検討を始めたのです。

今の制度では、例えば親から時価総額3億円の株式を相続する場合、後継ぎには得ることが出来ない株式にも係わらず相続税が9180万円かかります。

こうした相続税の一部を猶予する制度はありますが、猶予を受けるには雇用を5年平均8割以上維持などの条件があります。

また、飽くまで事業を継続している間に限り、一時的に猶予されるだけで事業を終了する場合は、残りを収める必要があるのです。

こうした今の制度に対して、この会議に出席した中小企業関係団体、日本商工会議所の青山 伸悦理事は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「人手不足の時代、それからそれを補充出来る会社であればいいですけども、ほとんどが補充出来ない。」

「採用が出来ませんので、(猶予条件の)雇用要件の8割は非常に困難な要件だ。」

「債務要件を抱えていながら経営するというのは経営者とすれば、事業の先行きを考えますと、重苦しいと申しますか、非常にやりにくいということです。」

「もう全面的に免除していだきたい。」

 

2018年度の税制改正の大きなテーマとなっている事業承継ですが、自民党の宮沢税調会長は、中小企業からの要望を踏まえた抜本的な改革に乗り出す考えで、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(中小企業に)雇用を維持してもらうのが大変大きな条件だったわけですけども、これを大胆に緩和出来ないかということも当然論点にしますし、またその納税猶予をして途中で会社を止める時に元の相続税・贈与税を支払ってもらうのが今の方式ですけども、この辺をどう緩和していくか。」

 

実は日本だけではなく海外でも事業承継を目的とした様々な税の優遇制度があります。

ドイツの場合、事業を引き継ぎ、賃金の総額で年平均8割を5年間維持出来れば85%の相続税を免除されます。

そうした海外の仕組みを日本でも採用出来ないかという声が上がっています。

こうした状況について、宮沢税調会長は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ドイツの実情を本当に産業界がお分かりなのかどうか、(免除対象が)会社の業務に必要な財産に限定することになってきます。」

 

ドイツのように相続税免除の対象となる資産を会社の業務に必要な資産に限定してしまうと、遊休資産が多ければ優遇が少なくなってしまうのです。

自民党は12月中頃に方針を示した税制改正大綱をまとめる考えです。

果たして中小企業経営者の若返りを実現することが出来るのでしょうか。

宮沢税調会長は難組の中で次のようにおっしゃっています。

「10年間で平均年齢60歳代半ばの経営者が平均年齢40歳代になるぐらいのことを考えないと、日本経済は大変じゃないかということは申し上げているんですけども。」

 

こうした事業承継について税制によってサポート出来る部分について、番組コメンテーターで早稲田大学ビジネススクールの入山 章栄准教授は、次のようにおっしゃっています。

「ドイツ並みに大胆にやれば、ある程度の効果は期待出来ると思うんですね。」

「そこまで出来るかだとやはり思いますね。」

「ただ、この税制の問題も重要なんですけど、それ以上に重要なことがあるんじゃないかと思っていまして。」

「つまり税制の優遇が受けられるのは事業承継者(後継ぎ)が見つかっている会社さんなんです。」

「だけど、そもそも論として日本で起きていることというのは、承継者がいないわけですね。」

「私はいろんな会社さんを見てるんですが、よくある理由がお子さんがいないですとか、それから自分が後を継ぎたくないですとか、あるいは親御さんが何らかの理由で後を継がせたくない、こういったそもそも承継する方がいないので多くの会社が今廃業になっていて、そこを解消しないと税制の話まで行かないわけですね。」

「(こうした企業でも黒字経営の会社も沢山あり、これはもったいないという想いについて、)実は最近その辺の動きが出てきていまして、例えばいわゆる大企業の人材をこういった後継ぎがいない中小企業の承継者としてあてがうという動きが少しずつ出てきているんですね。」

「例えば私なんか期待しているのは総合商社さんで。」

「総合商社というのは30歳代、20歳代の若いうちから関連企業の経営とかやっているわけですよ。」

「ですから経営者人材なんですね。」

「で、そういった方が50歳代くらいになってくると中々そういった総合商社だといいポストがないって方がいらっしゃるので、例えばそういった方がいろいろな企業の経営の方に移っていくという仕掛けが出来たらいいんじゃないかと。」

「で、それに資金援助するようなファンドみたいなのも今出てきていますので。」

「だからこの辺のそもそも論のところをもっと後押し出来るといいなと思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通して中小企業の後継者を巡る以下のような深刻な状況が分かりました。

・高齢化とともに、2025年までに中小企業の経営者のうち6割以上の245万人が70歳以上になること

・およそ半分の経営者は後継者がいないという課題に著面していること

・このままこの状態を放置しておいて中小企業の廃業が相次ぐと、650万人ほどの雇用喪失、そして22兆円ほどのGDPが失われると予測されていること

 

こうした中小企業の後継者不足の課題として、以下の2つが見えてきました。

一つ目は、事業を引き継いだ際に多額の相続税などが発生してしまう税制です。

2つ目は、そもそも承継者が見つからないことです。

 

一つ目の課題対応策については政府に任せ、ここでは中小企業の承継者が見つからないという課題に焦点を当ててその対応策を考えてみます。

この課題の直接の関係者は、中小企業の経営者、承継者(希望する企業も含む)、そして必要な資金を提供する投資ファンドの3者です。

中小企業の経営者からすれば、今でも各自治体にこうした相談窓口がありますが、検討対象はとても限られてしまいます。

一方、番組コメンテーターの入山さんも指摘されているように、商社などの中には経営能力があってもそうしたポストに就くことの出来ない優秀な人材や優れた中小企業の持つ技術力を手に入れたい企業も少なからずあるはずです。

ですから、今はやりの出会いサイトのようにこうした3者を結びつけるようなサイトがあれば、より広範囲の中で探したい相手を探しやすくなるのです。

 

ということで、中小企業の後継者不足の課題対応策の一つとして、先ほどの3者を結びつけるようなサイトが求められるのです。

既に、求職サイトは沢山存在していますが、中小企業の後継者不足に狙いを絞ったサイトがあれば、今後増々影響の大きくなる後継者問題を解決するうえでより効果的だと思います。


 
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