2017年12月12日
アイデアよもやま話 No.3884 景気回復は”いざなぎ景気“を超えたと言われるが・・・

9月26日(火)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で“いざなぎ景気”を超えた景気回復について取り上げていたのでご紹介します。 

 

9月25日、政府は今の景気回復は戦後2番目の長さだった“いざなぎ景気”を超えた可能性が高いという認識を示しました。

ただ今回の景気回復は実感が伴っていないという指摘も出ています。

東京オリンピックの翌年、1965年から始まった“いざなぎ景気”では、新三種の神器と呼ばれた自動車、カラーテレビ、クーラーが庶民の憧れの的でした。

時は高度経済成長の真っただ中、“いざなぎ景気”は4年9ヵ月に及びました。

 

一方、今回の景気回復は第二次安倍政権の発足とともに始まりました。

企業の儲けが4年連続で過去最高を更新、株価も2万円台を回復しました。

有効求人倍率も43年ぶりの水準に改善し、政府は今回の景気回復が4年10ヵ月におよび、長さでは“いざなぎ景気”を超えた可能性が高いという認識を示しました。

茂木経済再生担当大臣は、会見で次のように述べております。

「今回の景気回復では4年半にわたりますアベノミクスの推進によりまして、雇用・所得環境が改善し、経済の好循環が実現しつつあると考えております。」

 

戦後2番目になったと見られる今回の景気回復ですが、番組での街中インタビューでは実感がないという声がありました。

景気の回復が長く続いているのに、どうして実感が持てないのか、その答えは収入です。

世帯年収の分布でちょうど真ん中の世帯を示す中央値が、1995年には550万円だったのが2015年は428万円と122万円も低くなっているのです。(厚生労働省調べ)

この2つの年で世帯年収の分布がどう変わったのか、詳しく見てみると、1995年に比べて2015年の分布はより低い年収の世帯が増えているのです。

かつて中流と言われた中間層の年収が年々減っています。

年収400万円の新たな中間層が増えている今、消費の現場では節約志向が強まっています。

 

節約志向の高まりに企業も対応を始めています。

大手スーパーの西友は、8月末から一部の商品を6〜10%値下げしました。

税抜き218円の食用油を195円に値下げしたところ、売り上げが10倍に増えたといいます。

また、お酒のコーナーでは、ストロング系と呼ばれるアルコール度数の高い缶酎ハイの売り上げが伸びています。

お金をかけず、少ない量でほろ酔い気分が楽しめるといいます。

西友商品本部の長田 勝之グロサリー部長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「節約志向が強くなっているふうには感じます。」

「以前よりは激しくなってきているのが実感です。」

 

年収400万円の中間層をタ-ゲットに動き始めた企業もあります。

食品卸大手の三菱食品です。

年収400万円未満の世帯は、3年後の2020年には60%近くになると予想、こうした世帯が価格でも品質でも満足出来る商品を開発しようと模索しています。

分厚いカツを挟んだカツサンド、ボリューム満点の焼肉のようですが、実は肉は一切使っていません。

肉より安い高野豆腐やおふを使った“なんちゃって料理”です。

三菱食品の原 正弘マーケティング本部長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「世帯年収が400万円未満の世帯の構成比がボリュームゾーンとして非常に大きな存在になってくるということに気が付きまして、ニュースタンダードだという認識をしていろいろなマーケティング戦略やアプローチ策を考えていく必要があるのではないかなと思います。」

 

景気の回復が続く一方で中間層の収入が落ちた日本、専門家は今後も節約志向が続くと見ています。

みずほ総合研究所の高田 創チーフエコノミストは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「消費が前ほど盛り上がらないというか、そういう動きが生じやすくなるかもしれませんね。」

「労働側、それから経営側、場合によっては国も後押しして(賃金を)上げていくことも必要になってくるということだと思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

私は経済の専門家ではありませんが、日本のかつての高度経済成長期と今との景気におけるサイクルの相違を以下に簡単にまとめてみました。

(高度経済成長期)

経済成長 ⇒ 所得増 ⇒ 消費増 ⇒ 新たな経済成長

(現在)

景気回復 ⇒ 企業の内部留保増、所得の微増 ⇒ 消費の微増 ⇒ 低成長

 

そもそも一般的に言われているように、安定した経済成長は中間層の消費者(ボリュームゾーン)による消費が源泉なのです。

ですから、中間層の消費者の消費が増えない限り、安定した経済成長はあり得ないのです。

では現在、なぜ中間層の消費者の消費が増えないのか、その主な理由は契約社員やパート従業員など非正社員の割合の増加です。

かつての高度経済成長期には、法律で非正社員として働ける業種が法律で定められていたのでとても少なく、一般的に従業員は正社員だったのです。

ところが、法律改正に伴い、徐々に非正社員として働く業種が広がり、現在では非正社員がほとんどの業種に就けるようになったのです。

同時にアウトソーシング(外部委託)の導入も徐々に普及してきました。

こうした流れの最大の狙いは、一言で言えば企業のコスト削減です。

“失われた20年”と言われるこうした現在の日本経済の背景には、バブル崩壊(1991年3月から1993年10月までの景気後退期)、およびアメリカ発のリーマンショック(2008年)、そして中国を中心とした低賃金の新興国の追い上げと言った経済環境を揺るがすような状況が企業の生き残りを賭けた防衛策として人件費などのコスト削減につながったと思います。

 

ですから、今回の景気回復は”いざなぎ景気“を超えたと言われますが、これまでの毎年の経済成長率はごくわずかで”いざなぎ景気“とは比較にならないのです。

今後ともこのような経済構造が続く限り、中間層の賃金がかつての高度経済成長期のように上がることは期待出来ません。

一方、アメリカなど他の先進国においても中間層の所得の伸び悩み、および“格差社会”の進行が進んでいるといいます。

ですから、中間層の所得の伸び悩みや“格差社会”の進行は今や世界的に共通の問題なのです。

 

こうした状況において、仮に日本だけが格差是正策として中間層の賃金を上げるような政策を打ち出せば、相対的に企業の国際競争力が落ちてしまいます。

ですから、企業の国際競争をフェアにしたうえで“格差社会”の是正に取り組むためには、以下のような国際的なルールを構築することが必要だと思うのです。

・正社員、非正社員に限らず“同一労働同一賃金”

・企業の利益に占める従業員給与の割合の最低限度設定

・役員も含めた従業員給与における最高所得の最低所得に対する倍数の上限の設定


 
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