2017年12月05日
アイデアよもやま話 No.3878 加速するEVシフト!

9月24日(日)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)で加速するEV(電気自動車)シフトについて取り上げていたのでご紹介します。

 

今、EVシフトが一気に進もうとしています。

世界の自動車業界ではガソリン車などに代わりEVの普及に向けた動きが広がっています。

日本のメーカーはハイブリッド車を主力として、エコカーの分野で世界をリードしてきましたが、世界はEVに向かおうとしています。

こうした中、これまで日本が培ってきたクルマづくりや産業構造が大きく変わってしまうという指摘も出ています。

 

ドイツのフランクフルトで開催されたモーターショー、重厚な高級車で知られるイギリスのメーカー、ジャガーが今年の顔にしたのはEVです。

ドイツのフォルクスワーゲンでは、2025年までに50車種をEVにすると発表、BMVも最高時速200km、1回の充電で航続距離600kmのEVの最新モデルをアピール、各社からEVシフトの流れが鮮明に打ち出されました。

BMWのロバートソン取締役は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「EVシフトはヨーロッパ、アメリカ、アジアで勢いづいている。」

「企業が次々にEVを市場に出しており、流れは更に加速している。」

 

ガソリン車からEVへのシフト、一体なぜ急速に進んでいるのでしょうか。

EVシフトのカギを握っているのが中国です。

中国の自動車市場は今や世界一の規模となっています。

中国のあるディーラーは、以前韓国からの輸入車販売店でしたが、昨年からEV専門店に鞍替えしました。

扱うのは全て中国のメーカーのEVです。

こちらの販売担当者は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「EVは1ヵ月に数百台売れます。」

「中国では輸入車は売れません。」

「新エネルギー車(EV)の先行きは明るいです。」

 

中国でEVシフトが急速に進む背景には中国政府による大きな後押しがあります。

7月に発売された最新モデルの価格は日本円で約370万円ですが、政府から100万円あまりの補助があり、260万円ほどで購入出来ます。

 

中国政府によるEVの優遇は、深刻な大気汚染対策を進める中で強力に推し進められています。

北京では交通量を制限するため、ガソリン車などについては曜日ごとに運転出来ない車が決められています。

しかし、EVはこうした規制の対象外なのでいつでも走ることが出来ます。

更にナンバーの取得でもEVは優遇されます。

ガソリン車の場合は競争率150倍といわれる抽選がありますが、EVにはそうした抽選はありません。

EVを購入したある女性は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(ガソリン車では)3年当選しなかったけど、EVは1ヵ月でナンバーが取れた。」

 

中国政府は9月にガソリン車やディーゼル車などの生産や販売の禁止に向けて、具体的なスケジュールの検討を開始することを明らかにしました。

世界最大の自動車市場、中国でEVシフトは決定的となっています。

今や、中国はEVの主戦場と言える市場なのです。

世界のどのメーカーもその動向から目が離せない状況です。

 

世界の新車登録・車販売台数(2016年)は以下の通りですが、中国は断トツの1位で、今後も市場は更に拡大すると見込まれています。

中国   2800万台

アメリカ 1700万台

EU諸国 1400万台

日本    500万台

 

その中国がEVにカジを切ったということで、ヨーロッパのメーカーだけでなく、これまでEVの開発に慎重だった日本のメーカーもEVに乗り出さざるを得なくなっているのです。

 

そうした中で、気になるのが次のエコカーの本命がEVなのかそれともFCV(燃料電池車)なのかというところです。

FCVは水素というクリーンなエネルギーを使うことから究極のエコカーとも言われているのですが、非常に高度な技術が必要で、今のところ価格も非常に高くなっています。

ちなみに、3年前にトヨタが発売した「MIRAI」の価格は723万円です。

生産能力は1日9台で累計の販売台数も1800台あまりに留まっています。

 

一方、EVは価格が下がってきて中国車で販売されているEVは300万円台で、更に安いものもあります。

今のところ、価格面ではEVが次のエコカーとして有力な状況になっています。

 

さて、EVシフトを主導する中国の狙いは、その本音は大気汚染対策ではなく“ゲームチェンジ”にあるといいます。

現在の自動車市場はガソリン車が主役となっています。

特に自動車の心臓部といわれるエンジンの性能で競い合っているという土俵で勝負しており、日本や欧米のメーカーが強みを発揮している状況です。

中国市場でも海外メーカーが占めています。

この状況を変えたいというのが中国の本音なのです。

EVの競争はまだ始まったばかりで、“ゲームチェンジ”をすることでEVという新しい土俵で勝負し、そこで主導権を握りたいという思惑があるのです。

 

では、この“ゲームチェンジ”で日本のメーカーが優位を保ってきた土俵が他の土俵に変わってしまい、日本のメーカーにどんな影響が出てくるのでしょうか。

EVに本格的にシフトすることになると、まず懸念されるのが部品メーカーへの影響です。

エンジンを始め、変速機やマフラー、燃料ポンプなど、ガソリン車を構成する3割ほどの部品が不要になるという指摘も専門家から出ています。

これは500万人の雇用を抱える自動車産業にとっては大きなインパクトになり得ます。

もう一つの懸念は、技術がありきたりのものになって価格だけの競争になってしまう状態、すなわち“コモディティー化”です。

EVは電池とモーターを組み立てるというのが比較的シンプルな構造と言われており、中国では新興のメーカーが次々と参入して低価格のEVを発売し、売り上げを伸ばしています。

 

さて、この“コモディティー化”については過去にも日本の電機メーカーを揺るがしたという苦い経験がありました。

液晶テレビは、日本の電機メーカーが当初は世界のトップに立っていましたが、テレビのパネルなどの技術が普及してアジアのメーカーが次々と参入し、安値競争に巻き込まれて日本のメーカーは苦戦を強いられたという経験があるのです。

ただ、自動車は人の命が係わる製品で液晶テレビと同列に扱うことは出来ません。

しかし、価格だけの競争に巻き込まれることは避けなければなりません。

つまり、品質や機能で差別化をどう図っていくかが課題になります。

 

では、日本の自動車業界はどう戦いっていけばいいのでしょうか。

カギを握るのは自動運転で、特に安全技術です。

EVは電気で制御する自動運転との相性がいいと言われています。

日産が9月に発表したEVの新型「リーフ」は、自動ブレーキの他に自動駐車機能も搭載されています。

そこで付加価値を付けて、他のEVとの違いを出そうとしているのです。

ただ、この自動運転の分野は、ヨーロッパのメーカーが先行しているとも言われています。

更に、グーグルやアップルなど、IT企業も続々と参入しています。

言わば、クルマのIT化が進むと言われていますが、これは日本のメーカーが得意としてきた精緻な技術のすり合わせといったものとは一線を画するものです。

主導権を握る保証があるわけではないとも言え、10年後、20年後を見据えた戦略が求められていると思います。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず驚かされるのは、中国の自動車市場の大きさです。

ざっと世界市場の3分の1以上を占めているのではないでしょうか。

その中国とEU諸国がEVシフトに大きく舵を切ったのです。

その市場規模はざっと世界の半分以上を占めるほどの大きさです。

そして、ガソリン車からの“ゲームチェンジ”を目指す中国の狙いは、EVという新しい土俵で勝負し、そこで主導権を握ることにあるといいます。

恐らくEU諸国の狙いも同様だと思われます。

しかし、中国やEU諸国の目指す“ゲームチェンジ”には、同時に地球温暖化対策、あるいは大気汚染対策といった言わば“錦の御旗”があります。

ですから、この流れを止めることは出来ません。

というよりもこの流れは世界的に望ましく、積極的に推し進めるべきなのです。

 

一方、この“ゲームチェンジ”により、これまで優位を保ってきた500万人の雇用を抱える日本の自動車産業界は大打撃を受けることになります。

更に、価格だけの競争になってしまう“コモディティー化”のリスクもあります。

こうしたリスクに対して、日本の自動車メーカーはこれまでハイブリッド車において世界の自動車産業をリードしてきており、次世代のエコカーと注目を浴びてきた燃料電池車の開発に力を注いできたトヨタもEVシフトに大きく舵を切ろうとしているようです。

また、個々の部品メーカーの中にはEVの時代を見据えた対応策を検討し始めているところも出てきています。

 

また、番組でも指摘しているように、日本のメーカーは過去に液晶テレビで苦い経験をしてきました。

 

ですから、日本の自動車産業界には、以下の観点からEVシフトを積極的に受け入れて、EVの世界においてもこれまで以上に世界的に自動車産業界をけん引していって欲しいと願います。

そのポイントを以下にまとめてみました。

・低価格化

・航続距離の向上

・安全性の向上

・短時間での充電を可能にする充電インフラ

・低価格のEVへの充電、あるいはEVからの給電を可能にする装置

・自動運転などによる利便性の向上

・スマート社会を見据えた自動車のあるべき姿の追求


 
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