前々回、プロジェクト管理と日常生活 No.513 『日産自動車の不正な完成検査から見えてくること』で第三者による監査の必要性についてお伝えしました。
そうした中、10月20日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で社外取締役は不正防止に機能しているのかについて取り上げていたのでご紹介します。
毎日のように報道されている日本企業の不正ですが、2015年からみてみると以下の通りです。
2015年 3月 東洋ゴム(製品データ偽装)
4月 東芝(不適切会計)
10月 旭化成建材(杭打ちデータ改ざん)
2016年 4月 三菱自動車(燃費データ不正)
5月 スズキ(燃費データ不正)
6月 神戸製鋼所(強度試験値改ざん)
2017年 4月 フジフィルムHD(不適切会計)
9月 日産自動車(無資格検査)
10月 神戸製鋼所(製品データ改ざん)
こうしてみると、日本を代表する企業の不祥事が後を絶ちません。
今、こうした問題は、日本のものづくりに対する信頼を大きく揺るがしています。
なぜこうした不祥事は絶えないのか、番組では神戸製鋼所の問題から考えていきます。
10月20日に開いた会見の中で、以下の新たな不正が明らかにされました。
・会社が問題を把握した後の自主点検に対して、管理職を含む従業員が不正の隠ぺいを図っていたこと
・JIS(日本工業規格)の法令違反に相当すると認められる銅管製品のデータ改ざんがあったこと
しかし、会見を開いたものの、事実確認が出来ていないことがほとんどでした。
不正が行われた現場の一つ、真岡製造所(栃木県真岡市)で番組がインタビューした結果では、多くの従業員が今回の不正を知らされておらず、今回の報道で初めて知ったという声も多いのです。
しかし、社員による匿名の口コミサイトでは以下のような声があります。
「非常に体育会系であり、基本は上の人の言うことには逆らえない風土がある。」(回答日 2016年12月12日)
「製品に問題が起こりやすく、技術レベルは過去に比べて低迷しているものと思われる。」(回答日 2017年1月5日)
「何か問題が起こっても、見て見ぬふりをしてしまう風習がある。」(回答日 2017年2月6日)
現場の声からは、不正を招いた要因も垣間見えます。
また、10月20日に神戸にある本社の目と鼻の先ではOB会が開かれていました。
今回のような不正が十数年前から続いていたとされる点について番組が聞いてみると、皆一様に「昔は不正はなかった」という答えでした。
今回の不正の背景には、高い商品規格のプレッシャーがあったのではないかという指摘もあります。
あるOBは次のようにおっしゃっています。
「JIS規格があります。」
「で、その上にまた“ユーザー規格”があるわけですね。」
「“ユーザー規格”が一番厳しい。」
「一つ(の商品)がダメだと、他が仕様を満たしていても全部ダメになる。」
「高品質のものをジャスト・イン・タイムで(納品するのは)ものすごくハードルがあるわけですね。」
「だから、そういうことが背景にあって、あんなことが起こったかなと。」
神戸製鋼所の会見を受け、経済産業省も緊急記者会見を開きました。
会見では、神戸製鋼所の自主点検に隠ぺい工作があったことについて、信頼性を損なうものだと厳しく非難しました。
その上で、神戸製鋼所に対し、2週間程度で安全性の検証をし、その結果を公表することや、外部の専門家で構成される調査委員会を速やかに立ち上げ、事実調査、原因究明、再発防止を行うことを指示したと述べました。
神戸製鋼所だけではなく、冒頭にお伝えしたように日本の大企業の不祥事が後を絶ちません。
こうした不祥事が起きないように、2015年から適用開始されたのが「企業統治の指針(コーポレートガバナンス・コード)」です。
この指針により、社内の取締役だけで経営の全てを決めるのは止めて、社内外の多くの視点を入れて、企業経営の規律を高めていこうということです。
では、具体的にどのような目が必要なのかというと以下のようなものです。
・従業員
・社外取締役
・株主
・債権者
・取引先
・顧客
社内の従業員については、内部告発が出来る体制を整えるべきであるとしています。
最も重要なのが、企業に厳しい意見を言える独立した社外取締役を最低2人置くこととしています。
神戸製鋼所の場合、社外取締役の一人が企業統治の指針の旗振り役でもあった経済産業省の元次官だったのです。
神戸製鋼所のように不正が発覚した時に一番の責めを負うのは言うまでもなく経営陣ということになりますが、目を光らせるはずの社外取締役がなぜうまく機能することが出来ないのでしょうか。
その実態を番組で取材しました。
神戸製鋼所の川崎 博也会長兼社長は、10月13日の会見で以下のようにおっしゃっていました。
「取締役会でも取り上げられ、当社のコンプライアンス委員会でもご報告された案件でございます。」
「隠していたわけではございません。」
13日の記者会見でこう語った川崎社長ですが、前日には「不正はない」と断言していた鉄鋼製品でも不正が明らかになりました。
問題を把握しながら再発を防止出来なかったことに対して、取締役会は機能していたのかという懐疑的な声も上がっています。
こうした事態に、世耕経産大臣は、次のように会見で述べています。
「企業のガバナンスに問題があるのか、あるいは経営陣の現場の掌握に問題があるのか、そういったことを一つ一つ明らかにしていって、こういったことが二度と起こらないように取り組むことが重要だと思っています。」
では、実際に取締役会で社外取締役は不正行為の防止として機能しているのか、東芝の元副社長で、これまで国外合わせて10社以上で社外取締役を務めてきた川西
剛さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「日本の場合は、取締役会というのはかたちなんですよ。」
「実際の運営は常務会や他のいろんな会議で根回しが終わっちゃっているんですよ。」
「反対意見を言う人もいるんだけども、中々言いづらいと。」
「(社外取締役の役割は、)企業の人がいろいろと隠そうとしても、それを明るみに出すというのが仕事の一つですので。」
ただ、現状では多くの社外取締役がその仕事を全う出来ていないという専門家もおります。
プロネッドの酒井 功社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「今の多くの社外取締役は、お忙しいというのが一番の理由ですけども、主体的に、積極的に役割を果たすところまでいってない方が多いと思います。」
「特に、4社、5社と兼任している方も結構いらっしゃいますので、そういった方ですと、ほとんど取締役会に出ることが出来ない。」
実際に、東証一部の2021社で、社外取締役の兼任状況を調べると、およそ7人に1人が2社以上を兼任、4社以上を兼任するという社外取締役も62人います。
酒井社長は、社外取締役が現場と係わることが不祥事の早期発見につながると、次のようにおっしゃっています。
「長年にわたって不祥事がずっと起きているっていう、これが何十年もやっていて最近発覚したという事例についていうと、恐らくどこかに端緒があったはずなんですね。」
「で、そういった端緒については社外取締役、あるいは社外監査役が取締役会以外の場で現場と係わる。」
「こういったもの(機会)をつくっておけば、もっと早い時期に端緒がつかめたということはあるかもしれません。」
さて、東芝も今同じような問題意識を持っています。
東芝が10月20日に公表した、2015年に発覚した不適切会計以降のガバナンス体制の改善策をまとめた報告書があります。
この中には、いろんな項目が載っていますが、社外取締役に関して触れられている部分もあります。
その内容は以下の通りです。
従来の取締役会は、過半数を大幅に上回る社内取締役と少数の社外取締役で構成され、会長が議長となって議事を進行しており、社外取締役に対する十分な情報提供も行われていませんでした。従って、社内取締役による議論が中心となり、社外取締役による議論が活発に行われている状況ではありませんでした。
また、社外取締役の選任において専門性の観点から多様化されておらず、経営トップに対して批判的・忌憚のない意見を述べられる人物を積極的に選定しようとする姿勢がありませんでした。
さて、番組コメンテーターで2社の社外取締役でもあるA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは、その経験も踏まえて、社外取締役に大切なポイントについて以下のようにおっしゃっています。
「社外取締役の質がこれから問われてくると思うんですけど、事業の経営を経験したことがある人、同業・類似業種のある人ならなおさら良しと。」
「今まではどちらかというと、学者とか官僚とか、あるいは取引先の金融機関から派遣されて来た社外取締役が割と多かったんですけど、こういう人たちがいるとよりリアルな経営方針の議論が進むのかなと思います。」
「それからもう一つが空気を読まない人、あるいはKY(空気を読まない人)の振りをしてズバッと切り込める人、やはりこういう人がいないと社外取締役の数だけそろっても中々社長の顔色を見ながら、遠くから少しずつ議論しているみたいな話になりがち。」
「(梅澤さんも空気を読んでないのかという問いに対して、)読んでないですね。」
「それからもう一つ、取締役会で何をそもそも議論するかで、これも多くの会社で起こっていることは、各本部が業績の推移と来年の計画を持ってきて、それに基づいて質問を受けて、議論をするみたいな、割と現状延長の話が起こりがちなんですが、本当に大事なのはこの会社の中長期の経営を考えた時に、何を未来の中核事業にして、そのためにそれを一気に育てるためにどのくらい資源を配分するのか、あるいはM&Aをしないとダメなんじゃないか、みたいな突っ込んだ中長期の議論をちゃんとやることが大事だと思います。」
「で、こういう耳に痛いことを言えるような人を揃えて突っ込んだ議論をしてもらうためには、何といっても経営トップが社外取締役を使う本気度が前提条件になります。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
番組を通して得られた情報をもとに、企業を取り巻く現状、問題点、不正の発生リスク、リスク対応策について、社外取締役も含めた社内組織全般の枠内で以下にまとめてみました。
現状:
・業界の競争激化
問題点:
・品質よりも納期、効率、収益を重視
・上の人の言うことには逆らえない風土
・見て見ぬふりをしてしまう風習
・不十分な社内の情報共有
・問題発生時の事実確認の遅さ
・取締役会の形骸化
・技術レベルの低迷
不正の発生リスク:
・管理職も含めた組織的な不正
・個人の単発的な不正
リスク対応策:
・経営トップの意識改革
どのような不正も中長期的にみて企業経営を危うくするという認識を持つこと
・社内の情報共有の徹底
・不正防止のための定期的な社内研修
・実効性の期待出来る社外取締役の選択
・第三者による内部監査の導入
・誰が何を言っても許されるような組織風土
・実効性のある内部告発制度
内部告発者への報奨金、および人事考課のポイントアップなど
以上、まとめてみましたが、不正の起きない健全な経営にとって何よりも重要なのは経営トップの健全な経営への高い意欲だと思います。
どんなに素晴らしい制度を構築しても、その制度に関係する全ての組織や個人が本来の目的を果たすという意識が希薄では“宝の持ち腐れ”で、逆にやることだけが増えて生産性が落ちてしまい、不正が起きるリスクはなくならないのです。