2017年11月17日
アイデアよもやま話 No.3863 中東ドバイが「未来都市」に変貌中 その5 国全体を「未来技術の博物館」に!

8月14日(月)付けネット記事(こちらを参照)で「未来都市」に変貌中の中東のドバイについて取り上げていたので5回にわたってご紹介します。

 

アラブ首長国連邦(UAE)の商都ドバイでSFの世界のような驚きのプロジェクトが進行中です。

世界のスタートアップ企業からアイデアを募り、そのパイロット事業をドバイで実施することでイノベーションを加速する狙いです。

輸送、建設、医療など7つの分野で将来のビジョンを描き、ポスト石油時代の「未来都市」を他国に先駆けて実現しようとしているのです。

そこで5回目にご紹介するのは国全体を「未来技術の博物館」として目指すドバイについてです。

 

ドバイ政府は2016年7月に立ち上げた未来プロジェクト支援プログラムの対象にこれまでご紹介した「ハイパーループ」や「ネクスト」を選んでいます。

「ドバイ・フューチャー・アクセラレーター(DFA)」というプログラムで、世界中のスタートアップ企業から最先端のアイデアを募集して、ドバイで支援し技術の実用化を目指します。

一般的に「アクセラレーター」とはスタートアップ企業に経営指導をしたり、アイデアのコンペなどを通じて事業計画を洗練したりするプログラムです。

企業に少額出資してベンチャーキャピタル的な役割も担います。

DFAは経営指導もアイデア・コンペもしません。

「都市スケールの課題」を解決するため、世界で最も革新的な企業と政府機関を結びつけるという内容で、プロトタイプをドバイに導入・設置することを前提としています。

投資額も向こう5年間で10億ディルハム(約300億円)と規模が大きいです。

DFAが支援するのは輸送、医療、教育などの7分野で、RTAのほか保健庁、知識人材開発庁など7機関が政府側のパートナーとなります。

第一弾は9月から3ヶ月間実施され、世界73ヵ国から2千を超える応募があったといいます。

選抜されたのは30社で、更に19社がドバイでの実証実験やプロトタイプ開発のステージに移行し、総額3300万ドルの支援を受けることが決まりました。

2月からは通信会社2社や外務省など5つの機関が新たに参加し第2弾が始まりました。DFAはドバイという都市国家をまるごと未来技術の実験場、展示場にしてしまう考え方で、政府調達によるイノベーション支援の一種とも言えます。

DFAを運営するのは「ドバイ・フューチャー・ファウンデーション(未来財団)」と呼ばれる組織です。

ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム首長(UAE副大統領も兼務)の指示で、2015年に設立された組織で、政府の主要機関のトップが理事会のメンバーとなっています。

未来財団は2018年12月開業を目指して「未来の博物館)」という施設も建設中です。

 

さて、ドバイでは具体的なプロジェクトを進めると同時に未来がどうなるかといったビジョンについても語ります。

それが2017年1月、スイス・ダボスの「世界経済フォーラム」で発表した「ステイト・オブ・フューチャー(未来の状態)」レポートです。

向こう40年先までの未来について、エネルギー、輸送、医療、教育など7つの分野に分けて予測したものです。

マサチューセッツ工科大学(MIT)、米航空宇宙局(NASA)などの21人の専門家が112の予測をしました。

未来財団のイニシアティブの一つである教育機関「ドバイ・フューチャー・アカデミー」が取りまとめました。

DFAが推進する7分野にはない「宇宙」といった分野もありますが、概ねDFAが目指す方向性と一致します。

例えば「2020年、ハイパーループが初めて実用化」「2025年、米国で個人による自動車所有がなくなる」「2027年、石油の需要がピークに達する」「2030年、脳がクラウドに接続して記憶を保存」「2035年、道路は工場で製造されるようになる」「2035年、電気自動車が市場の9割を占め、道路自体が(振動エネルギーを使って)電力を供給し始める」「2036年、あらゆる人が(パーソナル・アシスタントとして)ロボットを保有する」「2040年、心臓血管系の病気が消滅する」といった具合です。

 

ドバイは大英帝国の貿易中継地として栄え、シンガポールと立ち位置が似ており、ドバイの面積は4千平方kmでシンガポールの約6倍です。

その中に同国の約半分の280万人の人が住んでいます。

石油の発見を機に発達しましたが、アブダビなどに比べると埋蔵量が少なく、物流や金融サービスを中心に経済成長をしてきました。

石油価格が高騰した時期には周辺国の石油マネーを集め、世界一高い高層ビル「ブルジュ・ハリファ」やヤシの木のような形状の人工リゾート島「パール・アイランド」の建設が進められ、観光地としても人気が高まりました。

しかしリーマン・ショック後、不動産バブルがはじけ、政府系投資会社ドバイワールドが債務の支払い猶予を発表したことから世界的な信用不安「ドバイ・ショック」を引き起こしました。

しかし、それもUAEの潤沢な石油マネーで救われ、再び経済成長路線に回帰しています。

「未来は可能性や数字の上に作られるのではない。ビジョンの明確さ、計画、行動、そして実行の上に作られるのだ」とムハンマド・ドバイ首長は語っています。

ドバイは2020年10月に万国博覧会を開催する予定で、国全体で未来の姿を提示してくれるはずです。

ドバイから目が離せません。

 

以上、記事の内容をご紹介してきました。

 

これまで5回にわたって「未来都市」に変貌中の中東のドバイについてご紹介してきましたが、そのパワーの源泉はムハンマド・ドバイ首長の語っている次の言葉に尽きます。

 

「未来は可能性や数字の上に作られるのではない。ビジョンの明確さ、計画、行動、そして実行の上に作られるのだ」

 

個人にしても企業や国にしても、こうありたいというビジョンによってそれぞれの活動の核組が規定されます。

ですから、国の定めるビジョンがその国の未来の姿を決定付けるのです。

しかもいかにビジョンが素晴らしくても、そのビジョンを実現するまでの実行計画や進捗管理などのプロセスがしっかりしていなければ、ビジョンを実現することはおぼつかないのです。

 

こうした観点からすると、ドバイは原産国としてオイルマネーという資金力に恵まれるメリットを生かすだけでなく、ビジョンを実現するために世界中のスタートアップ企業からアイデアを募り、世界最高水準の人・モノを結集しています。

そして、その成果を国全体に展開し、「未来技術の博物館」として位置付けることを目指しているのです。

こうしたドバイの取り組みは具体的で誰にでも分かり易く、従って国民の共感を得やすいです。

そればかりでなく、参加する企業にとってもとてもやりがいを感じ、素晴らしい成果を達成させる可能性が高まります。


 
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