2017年11月07日
アイデアよもやま話 No.3854 MITメディアラボのトップが語る“反専門分野主義”の重要性!

8月11日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でMITメディアラボのトップへのインタビューについて取り上げていました。

そこで、番組を通してMITメディアラボのトップが語る“反専門分野主義”の重要性についてご紹介します。

 

白熱電球を開発したことで知られる世界的発明家のトーマス・エジソンは今から100年前に蓄音機も発明しました。

当初、エジソンは蓄音機を人の声を録音する装置として想定していたそうです。

ところが、エルドリッチ・ジョンソンは蓄音機で音楽を録音して人々に聴かせることをビジネスにしようと思いつきました。

成功したジョンソンはその後ビクターレコードの前身となる会社を立ち上げるまでに至りました。

つまり、蓄音機を発明したエジソンはそれが巨大な音楽産業を生み出すとは想像もしていなかったのです。

このように最新の技術をどうやってビジネスに生かすかは昔から非常に難しい課題でした。

 

そうした課題に取り組んでいる施設がアメリカにあります。

マサチューセッツ工科大学にあるMITメディアラボという世界最高峰の研究所です。

MITメディアラボには、企業から来た研究者や学生など約700人が所属し、最先端の研究に没頭しています。

こちらの研究所のトップを務めているのが伊藤 穣一さん(51歳)です。

伊藤さんは1993年頃、自宅の風呂場に日本初のインターネットプロバイダーを作り上げました。

インターネット初期の頃からその可能性に注目してきたのです。

伊藤さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。

「企業もそうなんですが、みんな自分の分野が決まっていて、その分野の範囲内で研究を行うんですけども、メディアラボというのは一緒にコラボレーション出来ないような人たちをコラボレートさせるというのが研究のテーマの特徴だと思います。」

 

MITメディアラボは、異なる分野の専門家たちに共同で研究させているのが特徴なのです。

例えば、半導体の研究者と脳科学の専門家、あるいは生物学とエレクトロニクス、デザイナーと科学者の組み合わせなど、通常では交わらない分野の専門家が一緒に研究をしています。

 

今日本企業が最も注目するMITメディアラボの所長、伊藤さんに番組は単独インタビューをしました。

以下はその内容です。

「(いろんなつながりをアレンジするのがMITメディアラボの狙いなのかという問いに対して、)うちは英語でanti-disciplinary(反専門分野主義)と呼んでいるんだけども、“分野にはまらないこと”を常にやっているんで大体は自分の分野にフォーカスすると。」

「そうするとそこの中で答えが出るようなイノベーションは起きるけれどもつながるようなものは出てこない。」

「「カギを無くした時には必ず電灯の下を探す」と言うんだけど、要は明るい所しか探さない。」

「でもほとんど暗いんだよね。」

「で、その暗闇の中に実はカギはいっぱい落ちていて、僕たちはその間(暗闇)の所を探す。」

「そうすると結構簡単に役に立つものが見つかるんですよね。」

 

「(東芝メモリーから来ている方が脳の神経細胞の研究をなさっていますが、半導体メモリーを作っている方がどうしてそんな研究をしているのかという問いに対して、)インターネットもそうだったんだけども、すごい光ファイバーが出てきた時に「何に使うの?」と言われて、一生懸命その使い道を探して歩いていたのと同じで「こんなメモリー使って誰が使うの?」と言われて、いや脳の研究には必要なのだというのでコラボレーションを始めて。」

「その技術を見たことによって、自分の事業はこんなに変わるんだろうなというヒントになるものも結構ある。」

 

伊藤さんは7月に出版した著書「9プリンシプルズ」の中で、「ある技術に一番近いところにいる人々こそその最終的な用途を一番予測出来ないらしい」と記しています。

「(このことについて、)作っている本人も(使い道を)理解出来ない話も沢山あると思うし、昔なら自分の分野にだけ集中していれば良かったんだけど、今だったら世の中がどうなっているのかとか環境問題とかそういう自分の専門分野以外も少し理解しながら・・・」

 

「(ご自身はどういうふうに新しいものと接しようとしているのかという問いに対して、)例えば、先週アメリカインディアンのおばあちゃんと話をしていて、“違う意見を持つ人”とか“会ったことがないタイプの人たち”と会って、世界の原住民の文化やしきたりの中にいろんな環境問題の重要なヒントがあるので。」

「例えば、アメリカインディアンはサーモンの捕り過ぎにどうやって昔からやってきただとか、そういう人たちからもいろんな先端ではないけれども我々の社会のデザインに必要なヒントは沢山あるので、なるべくいろんな人と話すのはとても楽しいです。」

 

「(人間のこれからの生活をガラリと変えるものは何かという問いに対して、)僕はバイオだと思います。」

「例えば、目が悪かったらロボットの目を入れるのか、遺伝子治療で目に新しい細胞を入れるのか、いろんな治療の仕方とかプロダクトの作り方が出来てくると思うんで、デザイナーというのはバイオも知らなくてはいけないし、デジタルも知らなくてはいけない。」

 

「(イノベーションするにあたって、日本に必要なものは何かという問いに対して、)日本の文化とかデザインというのはすごく優れていて「数字で測れれるものはつまらないもの」と僕らは思っていて、結局一番楽しいものは数字で測れないもの、喜びだとかクリエイティビティ(創造性)とかで、自然と上手に平和な社会を作るソーシャルシステムと美学が何となく日本で生まれるような気がして。」

「これは必ず他の国でも必要になってくると思うので、(日本は)それのリーダーになれるかなと。」

 

なお、MITメディアラボのスポンサー企業は世界で80社以上、企業から提供される資金は年間約70億円に上ります。

 

番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは、伊藤さんのことをよくご存じで次のようにおっしゃっています。

「(伊藤さんは、)起業家であったり、ベンチャーキャピタリスト(投資家)であると同時にナイトクラブを立ち上げてそのDJをやられていたこともあると。」

「だから超幅が広くて、本当にチャーミングな方ですよね。」

「(まさに反専門分野主義を体現なさっている方ではという問いに対して、)その通りですね。」

「で、経済学者のシュンペーターがイノベーションのことを“新結合”って呼んでいたんですね。」

「一見関連なさそうな複数の事象を重ね合わせて思考するという話です。」

「一方、科学はどんどん専門分化が進んでいて、深くはなっていくんだけども狭くなっていくんですよね。」

「で、狭いサイロの中で“新結合”の余地ってどんどん小さくなっていくとも言える。」

「だからこそこの反専門分野主義はとても大きな威力を発揮するということだと思います。」

「なのでこのイノベーションを誘発する環境づくりということで、いろんな方がいろんなことをトライをしているんですけど、共通して言われているのは、一つはやっぱり研究者に高い自由度を与えると同時に共同を促すような双発の環境を作るとか、あるいはそこにいる人たちの多様性を高めていくとか。」

「それから、伊藤さんも言っていますけどラボの中で足りないノウハウはどんどん外のネットワークとつながって外から引っ張ってくるとか、まずということを自由自在に出来るところがイノベーションのパワーが大きくなると。」

「で、そうは言うもののもう一つとても大事だなと思うのは、伊藤さんのような、あるいは創設者のネグロ・ポンテさんのような本当に高いアンテナと広い視野を持っていて、次にどんなテーマが来るのか、あるいはどんな才能が現れるのかっていうのをちゃんと捕まえてそれを引っ張り込むというような目利きの出来るディレクターがいるかどうか、これはやはり決定的かなという気はします。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通してまず感じたことは、世界的な大発明家、エジソンと言えども自身の発明した蓄音機の持つビジネスとしての大きな可能性についてまでは気づくことがなかったということです。

もし、エジソンが蓄音機というモノとそれの持つビジネスの可能性について徹底的に検討していれば、きっと音楽を録音して人々に聴かせるレコードのようなモノも発明家、エジソンの手によって商品化されていたはずです。

そこで思い出されるのは、これまで何度も繰り返しお伝えしてきた「アイデアは既存の要素の組み合わせてある」という言葉です。

そして、経済学者のシュンペーターがイノベーションのことを“新結合”と呼んでいたことを番組で初めて知りましたが、この言葉はまさにこの“新結合”、すなわちイノベーションに通じると思います

 

では、イノベーションをより多く生み出すためにはどのような要件が必要かと言うと、一言で言えばそれは“多様性”だと思います。

具体的には以下のような内容です。

・国家機密など一部の例外を除いたあらゆる情報の公開

・そうした情報に基づいた個人、あるいは組織の思考の自由

・個人間、あるいは組織間、企業間、あるいはこうした全ての組み合わせによるコラボレーション

 

なお、こうした要件に加えて、今後の方向性を見定めて、その方向性に沿った目標を設定し、こうした“多様性”を十分に生かした最適な組み合わせのチームを編成し、その目標を達成出来るような優れたディレクターの存在もとても重要になってくると思われます。

そして、こうしたディレクターの頂点こそ国家の最高指導者、すなわち日本で言えば内閣総理大臣であるべきだと思うのです。


 
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