2017年10月17日
アイデアよもやま話 No.3836 世界的に広がる物価上昇の停滞!

7月20日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で世界的に広がる物価上昇の停滞について取り上げていたのでご紹介します。

 

7月20日、日銀(日本銀行)で金融政策決定会合が開かれ、物価の年2%目標の達成年度を1年先延ばしして2019年度頃としました。

目標達成時期の先延ばしは今回で6度目ということになります。

黒田総裁は2013年に就任しまして、当初はそこから2年後の2015年度中2%目標を実現させると意気込んでいたのですが、その実現が難しくなると2016年度前半までと半年ほど先延ばししました。

そして、その後も1年から半年の先延ばしを繰り返してきました。

黒田総裁の任期は来年の4月ですから、任期中に達成することを断念することになります。

6度にわたる先延ばしをしなければならないほど物価の上昇を妨げている要因は何なのでしょうか。

 

今回の経済物価の情勢を示した「展望レポート」では、消費者物価指数見通しを以下のように下方修正しました。

 2017年度 1.4% ⇒ 1.1%

 2018年度 1.7% ⇒ 1.5%

 

一方で、景気を表す実質GDPの成長率見通しは以下のように上方修正しました。

 2017年度 1.6% ⇒ 1.8%

 2018年度 1.3% ⇒ 1.4%

 

なぜ景気が上向いても物価は上がらないのか、日銀は携帯電話本体や通信料の値下げなどを物価が上がらない一時的な要因としてあげました。

 

こうした状況は日本に限ったことではなく、今世界的に物価の動きはあやしくなっています。

アメリカの場合、日本と同様で、FRBのイエレン議長は、足元の動きは通信料や携帯端末の値引きが主な要因で一時的と言っています。

一方、EUにおいてはエネルギー価格の下落だと説明しています。

 

さて、最近シェアリングエコノミーが世界的に拡大してきていますが、これが世界的な価格競争を引き起こしたり、産業のグローバル化で工場の海外移転や国内に残る工場でも機械化が進んでいることなどから、以前に比べて世界的に賃金が上がりにくくなっています。

結果として、物価も上がらないという恒常的な問題が世界的に広がっているのです。

しかも日本は欧米よりも非常に強いデフレマインドが根付いていて、これが中長期的な物価動向に大きく影響しているのです。

物価が上がることに消費者が敏感であるだけでなく、企業の姿勢も慎重なのです。

こうした状況について、黒田総裁は会見の場で次のようにおっしゃっています。

「欧米と比べますと、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っていると。」

「俗にデフレマインドといわれるものかも知れませんが、非製造業、サービス業において、賃金が上がっても価格に転嫁しないでサービスの中身を見直すとかビジネスプロセスを変えていくと。」

 

日本企業に根付いたデフレマインドが賃金の引き上げや価格の上昇を妨げているというのです。

こうした状況について、番組コメンテーターで日本総研理事長の高橋 進さんは次のようにおっしゃっています。

「金融緩和とか財政出動だけの問題じゃなくて、私はやはり構造改革だと思うんですね。」

「例えば社会保障だとかそういうものの構造改革が遅れているので、だから日本は良くならないと。」

「良くならないのであれば消費もしたくない、企業も投資をしたくない。」

「(物価目標の2%を掲げ続けていることについて、)欧米も2%いかない状況になっていますよね。」

「そこで、日本の場合だけは2%にいかないとデフレ脱却しないって言っているわけですけど、でもこれだけ経済と物価の関係が変わってきているので2%いかないからデフレ脱却なんだという固定観念でいいのかなと。」

「2%いかなくても物価が下がらないという状況になったら、もうデフレ脱却って言えないかも知れないですけど、経済と物価の関係が変わってきているということをもう少しきちんと検証して、そのうえで金融政策と財政出動と構造改革をどういうふうに組み合わせるのが一番効果的なのかということをもうちょっと議論してもいいように思いますけどね。」

「(アベノミクス、3本の矢の構造改革のフェーズであることをあらためて強く訴えていく時だと言うことなのかという問いに対して、)私はそう思いますね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

私は、以前から日銀が目標として掲げる“物価上昇率2%”が腑に落ちませんでした。

その背景は以下の通りです。

・非正規社員の割合の増加により所得格差が広がり、消費者は全体的に少しでも安い商品を求めていること

・企業は、こうした消費者の求めに応じて、あるいは企業間の競争により少しでも安い商品を提供しようとしていること

・シェアリングエコノミーが普及しつつあり、物価押し上げの妨げになっていること

 

では、“物価上昇率2%”は全くの夢物語かというと、そうではありません。

DGPを大幅に押し上げるほどの財政出動、あるいは大きな需要を創造するような革命的な商品が登場すれば、従業員の収入が増え、そして消費が増え、その結果物価上昇につながると思います。

しかし、財政出動も予算の制約により限度がありますし、こうした商品もいつ登場して来るか分かりません。

そこで、視点を変えた施策が求められるのです。

それは、国や地方自治体、消費者、および企業の視点からの取り組みです。

具体的には国や地方自治体などの構造改革、格差是正による中間層の所得増、およびあらゆる規制の見直しによる緩和・撤廃などです。

 

さて、第48回衆議院議員総選挙は今週末の10月22日(日)に投票が予定されています。

今、選挙運動真っ盛りですが、各政党には、今後の日本の進むべき方向性、そしてその道を目指すために具体的にどのような政策を打ち出しているのかを明確に示していただきたいと思います。

そして、有権者の方々には、こうした方向性と政策の実現可能性を見極めたうえで投票していただきたいと思います。

私も有権者の一人ですが、“言うは易く行うは難し”で実際に見極めるのは中々難しいものです。

しかし、民主主義国においては有権者のレベルが国政のレベルを決定するのです。

ですから、国民一人一人がスポンサーであるという意識で投票に臨んで欲しいと思います。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています