2017年10月05日
アイデアよもやま話 No.3826 電子顕微鏡観察に革命をもたらしたきっかけはショウジョウバエの幼虫!?

7月16日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で電子顕微鏡観察の革命について取り上げていたのでご紹介します。

 

前回まで3回にわたって生物と機械の融合の研究最前線を見てきましたが、生物にはまだ機械では及ばない未知の能力があります。

その未知の能力を更に解明する新しい技術が今注目されています。

それは生物を生きたまま分子レベルで観察する電気顕微鏡に関する技術です。

電子顕微鏡は真空状態で電子線を当てるので、通常は生物は死んで干からびてしまうのです。

そこで生物の電子顕微鏡観察に革命をもたらしたのはショウジョウバエの幼虫です。

きっかけとなったのはショウジョウバエの幼虫だけが電子顕微鏡内部の真空状態でも生き続けることが分かったことです。

この現象を発見したのは浜松医科大学医学部生物学部門の針山 孝彦教授です。

針山さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ショウジョウバエの幼虫がなんで生きていたかっていうのは、生物学者にとっては発見ではあった。」

 

詳しく調べてみると、幼虫は粘性の高い薄膜で覆われていることが分かりました。

この膜が幼虫を守るガードの役割を果たしていたのです。

針山さんは、この膜構造に近い物質を探しました。

その結果、洗剤などに含まれる界面活性剤の一種に同じような構造があることを突き止めました。

この物質を他の生物に付けてみたところ、薄膜で守られ、真空化でも生き続けることが分かってきたのです。

この技術はナノスーツと名付けられました。

ナノスーツの観測によって、オオタバコガが微細な突起構造で光の反射を抑えていることが初めて発見されました。

この構造は、反射の少ないフィルムの開発に応用されています。

 

更に、ナノスーツは医療への応用も期待されています。

今年、改良されたナノスーツを使って、これまで薄く切った断面を見るしかなかったがん組織が立体的に観察出来るようになりました。

その結果、がん組織の構造や正常組織との違いが詳細に分かるようになりました。

針山さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「医学的な応用をして病気をいかに治すか、あるいは病気をどのように診断していくのかという、医療福祉に役立つことが出来るようにしていきたいと思います。」

 

大阪大学大学院工学研究科の森島 圭祐教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「(ナノスーツの技術は、)画期的ですね。」

「(ナノスーツにより)生物に対する興味が湧いてきますし、まず見てみようっていう、生きたまま見れるということで、もっともっといろんなアイデア、発想がつながることで、これまで出来なかった工学的なデバイスとかシステムがどんどん増えてくるんじゃないかと。」

「(今後この研究はどのように進んでいくのかという問いに対して、)生物と機械の違いというのは、機械は電気を使って働く、生物はATPを使って化学エネルギーで動く、その違いが最終的に融合する点で難しさがあるんじゃないかと。」

「ただ、今日ご紹介した細胞レベルですね。」

「嗅覚受容体や筋肉の脂肪、ATPを使ってエネルギーを出す細胞、そういったデバイスレベルで半導体や小さい機械と組み合わせることで、今まで出来なかったような製品やシステムが一番近い応用分野じゃないかな。」

「私たちはそこに向けて、基礎研究、応用研究を慎重に進めていく。」

「かつ、興味を持って進めていくっていうことが重要じゃないかなと思っています。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

電子顕微鏡は真空状態で電子線を当てるので、通常は生物は死んで干からびてしまうということは知りませんでした。

ところが、ショウジョウバエの幼虫が真空状態でも生きていることが分かったこと、そして詳しく調べてみると、幼虫は粘性の高い薄膜で覆われていることが分かったこと、更にこの膜が幼虫を守るガードの役割を果たしていたこと、このような一連の発見のプロセスはそれだけでも謎解きゲームのようにワクワクした気分になってきます。

そして、針山さんは、この膜構造に近い物質を探し、洗剤などに含まれる界面活性剤の一種に同じような構造があることを突き止め、この物質を他の生物に付けてみたところ、薄膜で守られ、真空化でも生き続けることが分かってきたというわけです。

 

これまで電子顕微鏡は真空状態で観察するものという既成概念がたまたま真空中でもショウジョウバエの幼虫が生きていたことをきっかけに崩されたのです。

しかし、このことも針山さんの日頃の問題意識の高さがあったからこそだと思われます。

やはり、問題意識や好奇心、あるいは面白がる心、こうした心の持ち方がたまたま何かを見たり聞いたりすることで新しい何かの発見につながるのです。

 

それはともかく、生物を生きたまま電子気顕微鏡で観察出来るようになったことにより、これまで見えなかったことが見えるようになったのですから、そこからいろいろと新たな発見が生まれてくると期待出来ます。

そういう意味で、針山さんの発見は、電子顕微鏡に革命をもたらしたと言えると思います。


 
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