7月16日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)で生物×機械に見る融合研究最前線について取り上げていたので3回にわたってご紹介します。
生物と機械を融合する重要な分野として、センサー、アクチュエーター、エネルギーの3つがあるといいます。
そこで、1回目、2回目でセンサー、アクチュエーターと見てきた生物の優れた能力ですが、3回目はエネルギー問題解決のヒントを与えてくれるATPについてです。
大阪大学大学院工学研究科の森島 圭祐教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(エネルギーとはどういうことなのかという問いに対して、)機械を動かすためには電気が必要ですね。」
「ところが、生物というのは、皆さん食べ物を食べますよね、そこには糖が含まれている、その糖からできるATPという化学エネルギーを使う。」
「ATPは全ての生物が持っている化学エネルギーで、非常に重要な物質です。」
「それが生物の大きな特徴です。」
実は、このATPのエネルギーを効率よく電気に変換する生物がいます。
その効率のいいエネルギーシステムを使えば、人類にとってとても有用なのです。
植物、動物、微生物まであらゆる生物は体内で作られる化学物質、ATPのエネルギーを使って生きています。
もし無尽蔵に存在するATPエネルギーを使って効率的な発電が出来れば、環境・エネルギー問題の大きな解決策となります。
そんなエネルギー問題解決のヒントを与えてくれる生物、それはシビレエイです。
シビレエイなど体内のエネルギーを電気に変換する魚は「強電魚」と呼ばれ、発電効率がとても高い生物として知られています。
ATPエネルギーの消費量と発電したエネルギーを計算すると、発電効率はほぼ100%です。
そんなシビレエイの能力に注目したのが理化学研究所生命システム研究センターの田中 陽ユニットリーダーです。
田中さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「ATPを使うという発想の発電機は今までなくて、技術的にも難しいですし、シビレエイという特殊な生き物が持っている機能を使うことで実現出来ると考えた。」
発電の秘密を探るため、まずはシビレエイの発電力を測ってみます。
電気を通す布でシビレエイを挟むと、すぐさま電気が流れました。
この実験では、電圧はおよそ9ボルト、単三電池6個分です。
この電気はどのようにして生み出されるのでしょうか。
シビレエイの頭部にある8センチほどある器官、これこそが電気の発生源です。
層が積み重なり、更にその層の中に数百もの細胞が重なっています。
この一つ一つが発電細胞です。
細胞の表面にはイオンチャンネルと呼ばれる構造があります。
イオンチャンネルは神経伝達物質の刺激によって開く仕組みになっています。
シビレエイはATPエネルギーを使って、細胞の外側にナトリウムイオンを集めます。
そして、神経伝達物質によってイオンチャンネルが開くとナトリウムイオンが一気に細胞内に流れ込みます。
この時、電流が発生します。
田中さんは、シビレエイの発電器官を使えば、新しい発電システムが出来ると考えました。
発電器官に神経伝達物質を注入すると、50ミリボルトの電圧が確認出来ました。
神経伝達物質の注入だけで生物の機関から電力の発生が確認されたのは、世界で初めてのことです。
更に、発電器官を直列に並べて大きな電力が取り出せる可能性も確認出来ました。
ATPエネルギーを利用しての発電機の第一歩です。
田中さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「バイオ的なエネルギーだけで発電出来れば、環境問題、エネルギー問題の非常に大きな解決策を与えることになるんじゃないかと思っています。」
また、森島さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(ATPエネルギー利用の実用化の可能性について、)確かにもっと大きな電力を得るためには、沢山の研究が必要ですけども、ATPから電気を作り出す、非常にこれまでの常識を覆すような発電機が出来るんじゃないかと。」
「(生物と機械の融合について、どこまで生物に頼っていいのかというのは難しい問題ではないかという指摘に対して、)私たち研究者もそういった生物と機械の融合ということを考えた時に、非常に研究としては重要な分野なんですけども、一方で生物を扱うということなので、ガイドラインや社会の合意形成が今後重要になっていくと思います。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
シビレエイはATPエネルギーを使って、ほぼ100%の発電効率で発電するということですが、これは太陽光発電などと比べたら驚異的に高い効率です。
生物が進化の過程で手に入れた能力の凄さには驚くばかりです。
しかも、田中さんのおっしゃるように、このバイオ的なATPエネルギーだけで発電出来れば、環境問題、エネルギー問題が解決出来てしまいます。
現段階では、まだまだ実用化への道は遠いと思いますが、是非ATPエネルギーの実用化に向けた研究を進めていただきたいと思います。