2017年09月06日
アイデアよもやま話 No.3801 アンモニアがCO2削減の切り札に その3 燃料電池として製造上の課題!

6月25日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)でCO2削減の切り札、アンモニアについて取り上げていたので3回にわたってご紹介します。

3回目は、燃料電池として製造上の課題についてです。

 

前回、CO2を出さない燃料としてアンモニアが有効であることは分かったのですが、燃料として使うには大きな課題があるのです。

それは大量に必要になるということです。

アンモニアは空気中の窒素と水素で工場で作っています。

しかし、アンモニアを大量に合成する方法は1913年に実用化されて以来、ほとんど変わっていないのです。

その方法はハーバー・ボッシュ法と呼ばれています。

実は、水素と窒素を合成するのはすごく難しいのです。

窒素分子は線が3本、水素分子は線が1本あり、このようにつながっていて、窒素は3重結合と言って非常につながりが強いのです。

窒素からアンモニアを作るためにはこの3重結合を切らなければなりません。

それにものすごくエネルギーがかかってしまいます。

そこでカギになるのが物質同士を反応し易くする触媒です。

今、鉄などの触媒を使ってこの3重結合を切っているのですが、この触媒を使っても簡単にアンモニアは出来ません。

400℃〜500℃、そして100気圧〜300気圧という高温、高圧でないとアンモニアは出来ないのです。

ところが最近、日本の研究者が新しい画期的な触媒を見つけました。

 

東京工業大学(横浜市緑区)の細野 秀雄教授はこれまで世界初という材料を次々と作り出してきました。

細野教授は、画期的な触媒の発見について、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「実は、私たちの研究室でずっと研究している物質があるんですよ。」

「その物資を使って低温低圧で出来るようにしたんですね。」

 

その正体は黒い物質で、C12A7エレクトライドといいます。

セメントに含まれるC12A7という物質に細野教授が手を加えたものです。

これを触媒に使い、ハーバー・ボッシュ法よりずっと低温低圧の350℃、1気圧という条件で反応させるとアンモニア合成が出来ます。

どうしてこのように簡単にアンモニア合成が出来るのか、それは細野教授が開発した物質にすごい性質があるからです。

セメントであるC12A7は、籠のような構造の中に酸素イオンが閉じ込められています。

細野教授は、この酸素の代わりに電子を入れる方法を開発、これがC12A7エレクトライドです。

ここにルテニウムという物質を付けると窒素と水素がくっつき、まず水素の結合が切れます。

次に、窒素の三重結合はエレクトライドの中にある電子と反応することで切れるのです。

その後、不思議なことに水素原子が電子の代わりに一旦籠の中に取り込まれ、窒素と結合します。

こうしてアンモニアが出来るのです。

この時、エレクトライドは電子の出し入れをするだけ、これが触媒としての働きなのです。

こうして低温低圧で簡単にアンモニアが合成出来るというわけです。

細野教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「今までは大きい工場を作って、そこで一ヵ所で大量に(アンモニアを)作っていろんなところに運んでいたわけですよね。」

「そうすると輸送コストが結構かかるんですよ。」

「危ないですしね。」

「それで(アンモニアを)欲しいところで欲しいだけ出来れば、エネルギーの節約にもなりますよね。」

 

ちなみに、ここまで来るのに10年以上の研究期間を要したといいます。

 

番組の最後に、東北大学流体科学研究所(仙台市青葉区)の小林 英昭教授は次のようにおっしゃっています。

「地産地消という言葉がありますが、これはエネルギーにも言えることなんですね。」

「例えば、離島のようなところで電力の供給が少ない場所で再生可能エネルギーを使ってアンモニアを製造・貯蔵します。」

「そして再び電力としてこれを利用する。」

「こういう地産地消の可能性があるアンモニア製造技術が次々と生まれてくることを私は期待しております。」

「しかしながら、日本が現在必要とする大きなエネルギー量を考えますと、やはりハーバー・ボッシュ法も必要になると。」

「つまり用途によってこういったアンモニア製造法を使い分けていく、これが重要ではないかと思います。」

「(しかし、ハーバー・ボッシュ法はエネルギーを使うのでCO2を出すという指摘に対して、)ですからこれを再生可能エネルギーを利用して大量のアンモニアを作っていくという技術にだんだん転換していく必要があると思います。」

「それが実現して、初めて本当の意味でのCO2フリーアンモニアが世界に流通するのではないかと思っています。」

「(今後の日本でアンモニア研究はどのように進んでいくのかという問いに対して、)現在様々なCO2排出の少ない燃料が検討されています。」

「ある燃料に決めたらそれ以外を使わないというようなバイアスのかかった研究は必ずしも望ましくなく、水素とアンモニアを並行しながら、またそれ以外の新しい技術も加えて、出来るだけ早くカーボンフリーの社会にしていくということが我々大事なことかなというふうに考えています。」

 

また、番組進行役の竹内 薫さんは次のように訴えています。

「今、アメリカがパリ協定からの離脱を発表して地球温暖化の防止策が混迷を極めていますよね。」

「こんな時期だからこそ日本発でこうした技術を広めて、実際にCO2を減らせる可能性を示して行きたいですよね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

アンモニアを大量に合成する方法は1913年に実用化されて以来、ほとんど変わっていないほど、水素と窒素を合成するのはすごく難しく、しかもものすごくエネルギーがかかってしまうといいます。

そうした中、細野教授は10年以上かけてセメントに含まれるC12A7という物質に手を加えた触媒でこの問題を解決したのです。

そういう意味で、この技術はとても画期的だと思います。

 

しかも、この技術が実用化されれば、低温低圧で簡単にアンモニアが合成出来るようになるので、小型の施設でも製造出来るようになるので、地産地消につながるというのです。

しかも、小林教授もおっしゃっているように、更に再生可能エネルギーを利用して大量のアンモニアを製造出来るようにすれば、CO2排出量も削減出来、持続可能な社会の実現につながります。

 

さて、今回ご紹介したアンモニアの製造上の課題解決策のカギである触媒についてウィキペディアで調べてみたところ、「触媒とは、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう。また、反応によって消費されても、反応の完了と同時に再生し 、変化していないように見えるものも触媒とされる。」とありました。

 

今や、AIやロボット、あるいはIoTなど、様々なテクノロジーが開花しており、まさに百花騒乱状態です。

このような様々なテクノロジーをうまく組み合わせて私たちの暮らしを効率的な方法でより豊かにしていくためには、どのような商品やサービスを作るか、あるいは普及のためにどのような仕組みや制度を作るかなど様々な取り組みが必要です。

このような取り組みを進めるうえで、プロデューサー的な存在が必須です。

こうした存在の人物、あるいは組織こそ触媒的な機能を果たす存在だと思います。

こうした一連の取り決めが明確になれば、それに沿った人材、あるいは技術は日本には事欠かないのです。

 

ということで、今回のテーマから話が飛躍してしまいましたが、モノづくりにおいても、ヒトの様々な活動においても触媒的な存在はとても重要だと思いました。


 
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