2017年09月04日
アイデアよもやま話 No.3799 アンモニアがCO2削減の切り札に その1 アンモニアによる火力発電!

6月25日(日)放送の「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)でCO2削減の切り札、アンモニアについて取り上げていたので3回にわたってご紹介します。

1回目は、アンモニアによる火力発電についてです。

 

今、CO2削減の切り札としてアンモニアが期待されています。

アンモニアは、NH3、窒素と水素だけでできています。

つまり、燃やしてもCO2を排出しないのです。

でも、弱点もあります。

アンモニアガスに火を近づけても燃えません。

この弱点を克服して、アンモニアを火力発電の燃料として使う研究が急ピッチで進められています。

更に100年間変わらなかったアンモニアを合成する技術にも革命が起きたのです。

高温高圧が必要でコストがかかるのが難点だったのが、簡単に出来るようになったのです。

その技術を開発したのは、ノーベル賞候補にも名前の挙がる日本の研究者です。

 

燃えにくいアンモニアをどうしたら燃料に出来るのか、東北大学流体科学研究所(仙台市青葉区)の小林 英昭教授は2013年からその研究をしています。

アンモニアの燃焼速度は最大でも秒速7cmぐらいで、一般に燃料として使われているメタンやプロパンのだいたい5分の1から6分の1といいます。

アンモニアが燃え広がる速度よりもガスが流れる方が速いため、火を近づけてもその周りしか燃えず、すぐに消えてしまうことが問題なのです。

これを安定して燃やすために、小林さんは2つの道具を使うことを考えました。

まず、1つ目は羽根状の器具です。

ガスを羽根から出すことでらせん状の流れが出来ます。

2つ目は装置の周りを覆う筒状の耐熱ガラスです。

こうした器具を使って燃やしてみると、アンモニアが燃えました。

この炎をよく見ると、下の方に渦が出来ています。

その上にも流れが出来ています。

この流れがアンモニアを安定して燃焼させるポイントなのです。

 

こうした研究を踏まえて、アンモニアを燃料とする火力発電の実証実験も産業技術研究所福島再生可能エネルギー研究所(福島県郡山市)で行われています。

この火力発電装置で2015年9月にアンモニア100%で出力41kwの発電に成功しました。

実用化への第一歩を踏み出したのです。

小林教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「現在使用されている化石燃料を全てアンモニアに代えるにはまだ相当な時間がかかると思います。」

「しかし、その一部をアンモニアに代える研究は実用化に向けてかなり進んでおります。」

「産業技術総合研究所で行われているガスタービン発電では、メタンの半分をアンモニアに代えた発電にも成功しておりますし、また電力中央研究所では石炭火力の発熱量の20%をアンモニアに代えた燃焼実験にも成功しています。」

「10%石炭をアンモニアに代えるということは、ダイレクトにCO2の排出が10%減ることになります。」

 

ところが、アンモニアを燃やすと、CO2を排出しなくなりますが、大気汚染の原因となる窒素酸化物が増えることになります。

そこで、これをいかに低減させるかも小林教授の大事な研究課題となっています。

高度経済成長時代に日本で大きな問題となった窒素酸化物は大気汚染や酸性雨の原因となります。

そこで、火力発電所などでは窒素酸化物の排出量を5ppm以下にするよう義務づけられているところもあります。

そのため、発電所には窒素酸化物を減らす脱硝装置が取り付けられていますが、大きな設備が必要になることが課題でした。

そこで、小林教授たちは、アンモニアを燃やした時に発生する窒素酸化物の排出量を抑える研究もしています。

小林教授は、アンモニアの濃度を調整することで窒素酸化物が減らせるのではと考えました。

実は、アンモニアは空気と混ぜた混合気体として燃やしています。

そこで、アンモニアの量を増やし、空気を減らしていくと窒素酸化物の量がおよそ7分の1まで下がりました。

空気の割合が減ると、アンモニアと酸素の反応の仕方が変わるため、窒素酸化物が出来にくくなるのです。

窒素酸化物の排出を抑制することで、窒素酸化物を窒素に戻す脱硝装置を小さくすることが出来るので、発電所などのコストをその分削減することにつながるのです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

まず、アンモニアによる火力発電というアイデアは意外に思いました。

番組を通して、この発電のメリット、ディメリットを以下にまとめてみました。

(メリット)

・化石燃料を必要としない

・化石燃料と混ぜた燃料としても使用出来る

・CO2を排出しない

 

(ディメリット)

・大気汚染の原因となる窒素酸化物を排出する

 

普及に向けて肝心の発電コストについて番組では触れられていませんでしたが、いずれにしても化石燃料はいずれ枯渇する運命にあります。

ですから、アンモニアによる火力発電も枯渇後の化石燃料の代替手段として研究を進めることは必要と考えます。


 
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