これまでAI(人工知能)関連の動向について何度かお伝えしてきましたが、その第4弾として今回も8回にわたってご紹介します。
7回目は、AIは雇用を奪うのかについてです。
6月8日(木)放送の「スーパープレゼンテーション」(NHKEテレ東京)で「人工知能は雇用を奪うのか」をテーマに取り上げていたのでご紹介します。
今回のプレゼンテーター、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビッド・オーター教授は、次のようにおっしゃっています。
「驚くべき事実があります。」
「現金の振り込み、預金、引き出しを自動で行うATMの導入から45年、アメリカで雇用される銀行の窓口係の数は、実は2倍に増えているんです。」
「1970年には25万人でしたが、現在ではおよそ50万人に増えています。」
「ボストン大学の経済学者、ジェームズ・ベッセンが明らかにしたこの事実は、ある疑問を投げかけています。」
「窓口係の仕事は、なぜ自動化によってなくならなかったのか。」
「人類は過去200年の間に人間の労働を肩代わりさせる多くのものを発明しました。」
「トラクターやコンピューターが発明されたおかげで、人類は手作業から解放されたのです。」
「ところが、アメリカの労働市場における成人雇用者の割合は120年以上前の1890年より現在の方が高くなっているんです。」
「ほぼ10年ごとに上がり続けています。」
「矛盾してますよね。」
「機械が人間の仕事をどんどん肩代わりしているのに、なぜ人間の仕事は無くならずに依然として多くの仕事が存在しているのでしょう。」
こうした中で、AIが進化してもなぜ人間の仕事は無くならないのか、オーター教授はこの理由を明確に説明していました。
「これには2つの原理が関わっている。」
「1つは人間の才能と創造性、もう一つは人間の欲望です。」
1つ目の理由の人間の才能と創造性を説明するために例に出されたのがオーリングです。
オーリングとはゴムなどで作られた機械部品、洗面台からスペースシャトルまで幅広く使われる、なくてはならない存在です。
機械が進歩すればするほど、オーリングの品質が増々重要になります。
このように機械や仕事が高度になるほど1つの部品の重要性が増すことをオーリング理論といいます。
オーター教授は、次のようにおっしゃっています。
「ほとんどの仕事において、オーリングは人間です。」
「人間が持つ専門知識、判断力、創造性がより重要になってくる。」
仕事が無くならない2つ目の理由が人間の欲望、絵文字やスマホや薄型テレビなどの新しい電子機器のように、人間の欲望から生み出されるものは尽きることがありません。
新しい仕事は常に生まれるのです。
こうした人間特有の創造力や欲望がある限り、仕事は無くならないというわけです。
こうした状況の中で、MITメディアラボ助教で現代アーティストのスプツニ子さんは次のようにおっしゃっています。
「人工知能がこれまで人間がやってきた暗記とか計算とかを全部出来るようになるんだったら、本当に知性のある人間って一体何なんだろうって、教育する側がしっかり考える良いチャンスと捉えるべきなのかも知れないですよね。」
また、進行役でMITメディアラボ所長の伊藤
穣一さんは次のようにおっしゃっています。
「知識とかそういう機械が出来るようなものが測り易いんだよね、試験とか成績で。」
「クリエイティビティとか熱意とかはなかなかテストで測ることが出来ないんで、人間を測って出世させる今までのシステムを根本的に変えないとクリエイティブ人間をつくれないんで、それを変えていかなきゃいけないと思うんだよね。」
「だから、多分一番職業の未来とか失業率というのもすごく重要なポイントだと思うんだけども、そこ(社会)に送り込む人間をどうやって育てるかが人工知能に対する一番重要な我々が変えていかなきゃいけないことだと思うんだけども。」
オーター教授は、次のようにおっしゃっています。
「100年後に人々がどんな仕事をするかなんて誰にも分からないし、未来は誰かの想像で決まるわけじゃない。」
「“運命だから”と決めつけるのも駄目、運命を決めるのは機械ではなく私たちです。」
「過去200年間で学者たちは何度も機械化によって人間の仕事は無くなると警鐘を鳴らしてきました。」
「しかし、その予測は私には傲慢に見えます。」
「彼らはこう言っているようなものです、「人々が将来どんな仕事をするのか、私が思いつかないんだから他の人間が思いつくわけがない」」。
「それは人間の創造性を見くびった考えです。」
「100年後に人々がどんな仕事をするかなんて誰にも分からないし、未来は誰かの想像で決まるわけじゃない。」
「私が100年以上前の農業従事者だったとして、21世紀からタイムスリップしてきた経済学者にこう言われたとします、「今後100年で生産性が上がり、全雇用者の40%を占めていた農業従事者は2%に激減する。残りの38%は何の仕事をすることに思う?」」
「100年前にこう答えると思いますか、「アプリの開発とかかな、絵文字のスタンプを作ったりするんじゃない。そんなこと言うはずがない」。」
「でも、きっとこう言います、「農業雇用が95%減少しても食糧不足にならないなんてすごいな、人類はその知恵と技術で何か素晴らしい仕事を見つけ出していくんじゃない」。」
「実際、そうなっていると思いませんか。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
オーター教授のおっしゃる「人間特有の創造力や欲望がある限り、仕事は無くならない」には全く同感です。
単純に考えれば、人がこれまでやって来た仕事がAIに置き換われば、その分人のやる仕事は減ってしまい、雇用機会が奪われてしまうと思いがちです。
しかし、現実にはその時代その時代のテクノロジーの進化に伴い、それまでの時代に人がやっていた仕事の雇用機会が失われても、一方で新たな雇用機会が生まれているのです。
また、人はああしたい、こうしたい、あるいはああなりたい、こうなりたいという欲望を常に持っており、その欲望がある限り、多くの場合それが経済活動につながります。
そして、人類の持つこうした創造力や欲望が人類を進化させてきた原動力と言えます。
逆に言えば、人類は想像力や欲望を失った時点で人類の退化が始まると言えます。
しかし、人類の長い歴史の中で、例外的にある時点でこうした退化があったとしても、想像力や欲望を持ち合わせていたからこそ、人類はここまで進化してきたと思うのです。
さて、シンギュラリティ(参照:No.3156 ちょっと一休み その502 『IoT、AI、スマートロボットの3つが今後の成長分野!?』)という言葉が話題になるほど、人類は近い将来AIによるこれまでとは異次元のパワーを手に入れている時代を迎えるかもしれません。
そこで、人類が更なる進化を遂げるか、それともAIに依存する脳の退化の時代に突入するかの分岐点がシンギュラリティという解釈もあるのではないかと思うのです。
そして、前者の更なる進化を可能にする重要な要素が伊藤所長の考えているようにこうした時代に沿った教育だと考えます。
ということで、AIが雇用を奪うかどうかは今後の教育のあり方如何にかかっていると思うのです。