7月5日に発生した九州北部の記録的豪雨以来、日本各地で連日のように豪雨の被害が報道されています。
そこで、今回は7月9日(日)放送の「NHKスペシャル」(NHK総合テレビ)からこうした状況、およびその背景について2回にわたってご紹介します。
1回目は、今回の豪雨の原因は地球温暖化であることについてです。
7月5日に九州北部を襲った記録的な豪雨は6時間で平年の7月1ヵ月分を超える350ミリの雨が降りました。
大量の雨によって土砂崩れが多発、道路は寸断され、孤立する地域が相次ぎました。
7月9日午後5時現在で死者は18人、行方が分からなかったり、連絡が取れなかったりする人は20人余りに上っています。
社会部の島川 英介記者は、次のようにおっしゃっています。
「(今回の豪雨は事前に予測出来なかったのかという問いに対して、)今回狭い範囲に猛烈な雨が降り続くいわゆる“線上降水帯”だったわけなんですけども、これは局地的に起こる現象で予測が極めて困難だということです。」
「このメカニズムなんですけども、高い海水温の影響で大量の水蒸気を含んだ空気が福岡県一帯に流れ込んでいるんです。」
「そして、これが福岡と佐賀の県境にある脊振山地に当たって次々と積乱雲が発達したわけなんです。」
「脊振山地は高さ500〜1000m程度と、専門家によりますと、通常は積乱雲が発達しにくいということなんですけども、多量の水蒸気が上空の高いところまであったということで、今回は次々とこの場所で積乱雲が発達し、朝倉市などへ猛烈な雨を降り続けたということなんです。」
「こういった現象は決して局地的、限定的なものではなくて、他の地域でも条件が揃えば起こり得るものだと専門家は指摘しています。」
一方、九州大学で河川工学が専門の矢野 真一郎教授は、現地に入り、被害が拡大した原因を調査しています。
矢野教授が注目したのは、朝倉市内のあちこちに残された流木で、これらの流木が河川の氾濫を引き起こす原因になったと見ています。
豪雨の後の映像では、川の上流部分で土砂崩れが発生し、大量の木が流されましたが、その木が橋の部分に溜まっていたのです。
流木によって、川の水や土砂は行き場を失い、瞬く間に水位は上昇、その後河川が氾濫し、大量の土砂や流木が周辺の住宅街に流れ出たのではないかと見ています。
河川氾濫の大きな原因とされる流木がなぜこれほど大量に発生したのでしょうか。
九州大学で森林のメカニズムを研究している久保田 哲也教授は、林業が盛んな朝倉市では植樹した杉などが短時間で大量に降った雨に耐えられなかったと見ています。
久保田教授が調査を進める中で注目したのは、通常流されるはずのない樹齢40年を超えるような大木までが流されていたことでした。
今回の豪雨災害について、東京大学大学院の片田 敏孝特任教授は番組の中で次のようにおっしゃっています。
「これほどの雨がこんなにも長い時間続くという、最近では見たこともないような雨の降り方だったと思います。」
「気象庁では数年に1回有るや無しやの大雨の時に記録的短時間大雨情報を出すんですけども、一度出ただけでも多くの場合被害が起こるという状況なんですけども、今回の被災地では19回、それも朝倉市においては7回も出ているということ、もの凄い雨、100ミリを超えるような雨が数時間に渡って続くという非常に大きな豪雨災害だったと思います。」
「このような雨なんですけども、今回は停滞している梅雨前線に向かって南の湿った空気、特に今海水温が高いものですから膨大な水蒸気が巻き上がっている。」
「これを停滞している梅雨前線に送り続けるということでこれだけの雨が降り続いたわけですね。」
「“線状降水帯”という言葉が言われます。」
「これは気圧の配置の状況によってどこでも起こり得る状況でして、これが都市圏でも起こり得る。」
「また最近では北の方でも起こり得ることだろうと言えると思うんですね。」
「(地球)温暖化の影響だと思うんですけども、特に北の方などもこれまでは穏やかな雨しか降ってなかったんですけども、そこに昨年もそうなんですけども、南で降るような今回のような雨が降るようになってきて、北の方では堤防の高さなどがこれまでの穏やかな雨(の想定)で設計されておりますから、それを超えるような雨が降りますとただちに災害が起こる。」
「今回のこのような雨の降り方は全国どこであってもこれからは起こり得ると思うんですね。」
「東日本大震災がありました。」
「我々が想定しているような津波と全然違うレベルでの津波でしたね。」
「今回の雨の降り方は、ある意味豪雨災害における東日本大震災のようなそんな雨の降り方だったんじゃないかなと思うんですけども、地球温暖化の影響、海洋気象は一足先に温暖化が進んでいて海水温が非常に高い状況にありますので、1回当たりこのような膨大な雨が降るという状況はあるんじゃないかなと思います。」
「(今回、被災地では新たな土砂災害が発生するという二次災害のリスクが出ている状況について、)地面の中に膨大な水を含んでいるという状況にありますね。」
「そして、既に土砂災害は起こっているわけなんですけども、あちらこちらで今でも水が溢れ出ている。」
「このような状況の中で、まだ雨が降り続くんじゃないかと言われていますね。」
「土砂災害の場合は、雨がやんでからも地盤の中に水がある以上は災害が起こり易い状況です。」
「ましてや、これから雨が降るかも知れないという状況ですので、二次災害の危険は非常に大きいと思いますね。」
「今回は膨大な土砂が家屋の中に流れ込んでおりますので、復旧・復興にあたってはボランティアの方々の力が欠かせないんだろうと思いますね。」
「ただ現段階ではまだ危険がある状況ですので、中々すぐに入っていくわけにはいかないんですけども、いずれ全国のご支援の中で復旧を目指していただきたいなと思います。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
想定外の記録的集中豪雨により、壊滅的ともいえるような被害を日本各地にもたらしました。
そして、こうした豪雨は今後日本各地で起こり得るので都市圏も例外ではありません。
ちなみに、今世紀末には東京と屋久島がほぼ同じ気温になるという予測もあります。
万一、首都圏で今回のような集中豪雨が発生すれば、その被害規模は都市機能を麻痺させるほどの大きさと見込まれます。
こうした背景は地球温暖化による海水温の上昇による大量の水蒸気を含んだ空気がもたらすものと見られています。
今後、更なる地球温暖化とともに集中豪雨の発生回数は増え、しかもその雨量も増加すると考えられます。
従って、被害はまさにこれまでにない想定外の大きさになると予想されます。
しかも、こうした被害は国内のみならず世界的規模で拡大しています。
例えば、ネット記事(こちらを参照)によれば、南極半島東岸の棚氷から1兆トンを超える大きさの氷の塊が分離、三重県の面積と同程度の氷山になったことが7月12日、英南極調査チーム(BAS)の発表で分かりました。
新たに出現した氷山が直ちに海面上昇に繋がることはありませんが、分離がラーセンC棚氷全体の崩壊の引き金になり、結果的に海面上昇につながる可能性があると専門家は指摘しています。
また、別のネット記事(こちらを参照)によれば、地球温暖化に伴う気温上昇の影響で、飛行機の離陸が今より困難になるとの研究を7月13日、米コロンビア大学(Columbia University)のチームが発表しました。
気温が上がると空気の密度は低くなり、翼が生み出す揚力が小さくなるというのです。
気温が高すぎる環境では、航空機の機種や滑走路の長さなど条件によっては満載状態では安全に離陸出来ない恐れがあるのです。
特に、熱波の襲来時には問題が顕著になるといいます。
温室効果ガスの排出量を抑制しない限り、今後数十年のうちに、特に暑い日には燃料や乗客、貨物の積載重量を最大4%削減しなければ離陸出来ない場合が生じると警告しています。
更には、シリア内戦の原因の1つは地球温暖化だという研究があります。(こちらを参照)
このように地球規模で地球温暖化による弊害が様々なかたちで表面化しつつあるのです。
ですから、地球温暖化の阻止に向けて世界的に取り組む必要があるのです。
そういう意味からして、CO2排出量が中国に次いで世界第2位のアメリカのトランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明していることは論外と言わざるを得ません。
世界各国が協力して地球温暖化阻止に向けた取り組みを進めなければ、私たちの次の世代は大変な苦難の中で暮らさなければならないことを現在の世界的な集中豪雨の増加や海面上昇による沿岸部の水没は暗示しているのです。