2017年07月15日
プロジェクト管理と日常生活 No.497 『”映りすぎ社会”のリスク その1 スマホのピース写真から指紋が盗まれる!』

4月5日(水)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)で“映りすぎ社会”のリスクについて取り上げていました。

そこで、リスク管理の観点から3回にわたってご紹介します。

1回目は、スマホのピース写真から指紋が盗まれるリスクについてです。

 

スマホで撮ったピース写真から指紋が盗み取られているかも知れません。

携帯電話にカメラが付いた当初の2000年、解像度はわずか10万画素でした。

ところが、それから10数年の2013年には2000万画素以上にまで増えました。

こうした鮮明な写真から私たちの指紋などのデータが読み取られ、悪用される恐れがあるのです。

そして、高精細映像を使った防犯システムは私たちの身近な場所にも広がっています。

万引き被害に悩むスーパーやコンビニなどでは私たちも毎日のように不審者かどうかチェックされているのです。

画像技術の凄まじい進歩、その便利さの陰に潜むリスクにどう向き合えばいいのでしょうか。

 

急速に進むスマホの高精細化、それが今犯罪捜査の現場を変えようとしています。

徳島で起きたある性犯罪事件、容疑者の男のスマホに収められていた写真が捜査で大きな役割を果たしたのです。

男はスマホで被害者を撮影、そこに決定的な証拠が映っていたといいます。

ごく普通の顔写真に見えますが、鑑識課が注目したのは被害者の瞳でした。

瞳の中に容疑者の姿が映っていたのでした。

髪の生え際のラインや顔の細い・太いとかの特徴が容疑者と酷似していることが分かったのです。

そして、背後の様子からその場所が犯行現場であることが特定出来たのです。

容疑者、場所、時刻、その全てが揃ったスマホ写真が動かぬ証拠となったのです。

 

一方、鮮明なスマホ写真には思わぬ落とし穴があることも明らかになって来ました。

各国の政府関係者などが出席した国際情報通信技術見本市(3月にドイツで開催)で、ある発表が注目を集めました。

自撮り写真をSNSに公開すると“なりすまし”の被害に遭うと国立情報学研究所の越前 功教授が発表したのです。

スマホのピース写真から盗まれた指紋で生体認証が破られ、パソコンや携帯電話を他人に乗っ取られるリスクがあるというのです。

 

そこで、番組では初の実験を試みることにしました

ピース写真の指先を見ると、確かにくっきりと指紋が映っています。

この画像に加工を施して指紋を強調、これを元に偽りの指、すなわち偽指を作りパソコンなどにログイン出来るか試してみることにしました。

防犯上、詳しい工程は明らかに出来ませんが、市販の機械と材料でわずか1時間ほどで偽指の完成です。

この偽指を使って、実際にパソコンでログインを試みると出来てしまいました。

このことについて、越前教授は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「カメラで撮った写真からログイン出来てしまうということは、今回初めて見えました。」

「生体情報というのは、パスワードと違って終生不変の情報ですので、一旦漏れてしまうとパスワードのように変更することが出来ないということです。」

「取り扱いに非常に大きな注意が必要だと思います。」

 

更に、越前教授はより深刻なリスクについて警鐘を鳴らしています。

顔写真がSNSの投稿などと照合され、氏名、生年月日なども盗まれれば、更に重大な犯罪に遭う可能性が高まるといい、次のようにおっしゃっています。

「指紋情報に紐付いているのが私の顔であり、この顔をうまく分析すると顔だけでこの人が誰なのか、どこに勤めているのかが分かってしまう。」

「その「私の情報」と「生体情報」がペアになって取られてしまうのは非常に脅威だと思う。」

 

こうした状況について、番組ゲストの元LINE社長でC CHANNEL社長の森川 亮さんは、次のようにおっしゃっています。

「今のところ、指紋とか静脈を使った生体認証はあまり一般的ではなく、今はまだメールアドレスとパスワードでログインするというのが中心なんですが、今後生体認証が伸びてくると思いますので、業界としても注意が必要かなと思いました。」

「前職(LINE社長)でも、他社で漏れたIDとパスワードを使ってアカウントの乗っ取りみたいなことが起こりまして、結果的にパスワードを二重化することによって問題を解決したんですが、ただその分使いにくくなったという問題が起こりまして、やはり利用者の皆さんにもご理解が必要かなと思います。」

「(利用者の使い勝手と安全性)の両方のバランスが重要かなと思います。」

 

こうした“映りすぎ”社会の中で、私たちの身の守り方について、番組では以下の方法を挙げています。

・手や指のアップの撮影は避ける

・写真を共有する際は、画質を下げる

・特殊な樹脂で指紋を隠す

 

なお、特殊な樹脂で指紋を隠す方法については、現在開発中といいます。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

それにしても、性犯罪の被害者の瞳に映っている画像が犯罪の動かぬ証拠に結びついたという事実にはとても驚きです。

既にここまでスマホのカメラの画質が向上しているのです。

 

更には、スマホのピース写真から盗まれる指紋で”なりすまし”によるパソコンなどの乗っ取りが出来てしまうという事実は、スマホやPCのユーザーにとってはとても衝撃です。

なぜならば、パスワードは変更が出来ますが、指紋は変更が出来ません。

ですから、一旦指紋を盗まれてしまったら、そのユーザーは指紋認証を使うことが出来なくなってしまうのです。

 

このように、残念ながら無防備に自分のみならず友人などの顔写真をいろいろなSNSに投稿することは、顔写真と紐付けした氏名、住所、年齢、勤務先、交友関係などを合わせた個人情報としていろいろなかたちで悪用される可能性が既に出て来ているのです。

また、個人認証の方法として指紋を使用することは“なりすまし”のリスクを伴うのです。

 

このようにみてくると、いろいろなSNSの利用や個人認証の方法は、ユーザーの使い勝手と他人に悪用されないという安全性のバランスの両面から、リスク対応策としてどのようなかたちでの運用が最善かについてまだまだ検討の余地があります。

いずれにしても、常に不安を感じながらSNSなどに写真を投稿しなければならない状況は避けて欲しいものです。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています