2017年07月29日
プロジェクト管理と日常生活 No.499 『”映りすぎ社会”のリスク その3 既に身近な顔認証システムの“光”と“影”!』

4月5日(水)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)で“映りすぎ社会”のリスクについて取り上げていました。

そこで、リスク管理の観点から3回にわたってご紹介します。

3回目は、既に身近な存在となっている顔認証システムの”光”と”影”についてです。

 

1回目ではスマホの顔写真が犯罪の決定的証拠となるほど高解像度化が進んでいること、およびピース写真から指紋が盗まれるリスクについてお伝えしましたが、高解像度化が進んでいるのはスマホだけではありません。

そこで、2回目では防犯カメラの運用規定の必要性についてお伝えしました。

 

実は個人を識別する技術を利用した防犯カメラは既に私たちの身近な場所に幅広く導入されています。

深刻な万引き被害に悩むスーパーやコンビニなどの小売業界です。

「万引き対策強化国際会議2017」で、ある大手書店の講演者は次のようにおっしゃっています。

「万引きの被害が深刻になっております。」

「顔認証はものすごく有効です。」

「顔認証カメラもほぼ全店舗に入れていますので、調べていくと(万引き犯が)判明します。」

 

また、ある大手ドラッグストアの講演者は次のようにおっしゃっています。

「特に万引きについては、(犯人の)映像を取り込みまして、それをリアルタイムで早めに各店舗に情報として流すと。」

 

万引き被害に悩み、実際に顔識別システムを導入しているある現場を番組で取材することが出来ました。

大手スーパーや100円ショップなど40の店舗が入る駅前の商業ビルです。

館内の全ての入り口に顔識別用防犯カメラが設置されています。

このシステムが万引き犯を見つけた場合、本人に伝えたうえでシステムに登録、既に200人以上がリストアップされていて、館内に入って来ると警報が作動するといいます。

番組スタッフを万引き犯として登録し、実験を行いました。

年齢や特徴などをシステムに登録しておくと、次に反応した時にこの情報が出てくるのですぐに分かるといいます。

入り口をくぐると全てのお客はいったん録画され、あらかじめ登録されている“万引き犯”と照合されます。

“万引き犯”役の番組スタッフが入り口に入ると、システムが反応しました。

すると、監視ルームからこの番組スタッフの特徴の知らせを受けた店内を巡回中の警備員が番組スタッフを追尾するのです。

なお、地域の警察から依頼を受け、万引き犯以外も指名手配犯を登録しているといいます。

顔という個人情報を撮影する一般客に対しては、掲示板などを通じて顔認証を行っていることを通知し、録画から10日後には顔の画像を消去するなどの対応をしながら運用しているといいます。

こちらの商業ビル顧客部門の長田 泰文部長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「顔認証システムを入れてから、約ロス高(被害額)が半分以下には抑えることが出来ておりますね。」

「今は認証率も上がってきているし、なくてはならないシステムの一つになっていますね。」

 

こうして、顔認証技術は様々な場所で利用されているのです。

しかし、番組では運用を巡って心配なことも見つけました。

ある店舗では、店員による“腹いせ登録”や“巻き添え登録”がなされているケースがあるといいます。

なお、“腹いせ登録”とは、実例としては自分のバイクを触られた店員が腹いせにこの人の顔を万引きリストに登録したことを意味しています。

また、“巻き添え登録”とは、直接関係のない人の顔を万引きリストに登録したことを意味しています。

 

一方、深刻な万引き被害に悩む小売業者の間では、万引き犯の情報をデータベース化し、企業の枠を超えて広く共有するという構想も検討されています。

こうした顔という個人情報を扱う最新技術の導入について、専門家の間では慎重な意見もあります。

新潟大学の鈴木 正朝教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「万引き犯以外の全ての顧客の顔識別情報が蓄積されるわけですから、様々な本人の行動履歴などを追跡出来るようになりますので、極めて使い方によっては危険な情報だなと。」

「かなりオーバースペック(過剰)な技術になると思います、万引きに対してね。」

「これはね、テロ対策だとまた話は別です。」

「で、空港に入れるなら話は別で、このあたりは、この技術に対して皆さんがどう思うか、社会的コンセンサス(合意)を形成いていく途上にある。」

「まさに管理社会の入り口が開いてしまう話ですから、これは極めて慎重に議論していかないとならない問題です。」

 

また、番組ゲストで防犯カメラをめぐる法的議論に詳しい首都大学東京の星 周一郎教授は、次のようにおっしゃっています。

「勿論、こういったようなシステムが入った場合、映像を撮られる側の不安というものも当然あると思います。」

「(防犯カメラに関するルールについて、)これだけ高精細の画像になってきますと、個人を識別することは非常に容易になってきますので、撮られた画像は全部個人情報に原則として当たるんだということで、個人情報保護法の対象ということになってきます。」

「で、個人情報保護法の対象になりますと、本人に対して取得していることを通知しなければならないと。」

「あるいは第三者に提供する場合には(本人の)同意を得て行わなければいけないといったような原則になっています。」

「(お店で顔識別が行われていることについて分からないお客が多いことについて、)一つには犯罪者の情報は、通知をして同意を得て運用するということは出来ないものですので、どうしても“(同意)無し”というかたちになるんですが、他方でこういう技術についてそれほど理解が得られていないということがありますので、店の側もちょっと躊躇してしまっているという現状があるんだと思います。」

「(お店が個人を識別していることをお客に知らせると、お客がお店に対して反感を持ってしまう懸念について、)まだそういったところに対する一般の理解が得られていない新しい技術なんだということだと思います。」

「(変更の効かない顔などの個人情報が誤って登録されたり、流出した場合の対策について、)誤登録されてしまうというのは、登録された側にとっても非常な不利益なんですが、実は登録する側にとっても誤った情報を登録してしまうというのは無用なトラブルを生じてしまうだけだというところがあります。」

「従って、個人情報は内容を常に正確に保たなければいけないという法律上の義務がありますので、それをいかに実効的なものにしていくかと。」

「例えば、第三者機関みたいなものを作ってチェックしてもらうといったような仕組みを考えていく必要があるかと思います。」

 

そして、番組ゲストの元LINE社長でC CHANNEL社長の森川 亮さんは次のようにおっしゃっています。

「(この新しい技術をどう使いこなしていくかについて、)新しい技術というのは必ず“光”と“影”の部分があって、顔認識カメラに関しても“防犯”と“プライバシー保護”、この両面からもっともっと議論を詰めていく必要があるかなと思います。」

「ただ、セキュリティに関しては完璧ということはないので、むしろ問題が起こった時にどう対応するのか準備をしていく必要があるかなと思います。」

「こういった新しい技術全般ですが、やはり人類の進化につながってきたので、画像認識技術に関しても、例えば医療の分野でがんを発見したりとか、農業の分野でドローンを使って農地を改善したりとか、またスポーツの分野でも様々な応用がされているので、こういった技術をいかに賢く使えるのか、教育も含めて議論が必要かなと思います。」

「まだまだ知られていない技術とか、知られていない使い方があるので、いかにそれをシェアして問題解決につなげていくか、これが大事なんじゃないかなと思っています。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組でも取り上げられているように、顔認証技術を用いた防犯カメラはスーパーやコンビニ、あるいは書店など様々な商業施設で既に導入されています。

そして、驚くことにお店によっては、一店員の権限のみで万引きに無関係な人が万引きリストに登録されてしまうという現実があるのです。

番組ゲストの方々がおっしゃっているように、防犯カメラには“光”と“影”があるのです。

そして、今はまだ便利さと個人情報の保護などの安全性の両面からどのような運用が望ましいかが専門家の間で議論されている段階のようです。

こうしたリスクを完璧に防ぐようなリスク対応策はまず不可能です。

ですから、現実的なリスク対応策を実施したうえで、リスクが発生した場合に備えて、有効なコンティンジェンシープランを準備しておくことが求められるのです。

いずれにしても、どんな商業施設においても万引き犯の増加はお店の経営を揺るがすほどの影響があるので、防犯カメラを含めた防犯システムは今後とも普及していくと思われます。

ですから、こうした防犯システムの開発企業には防犯機能を進化させるだけでなく、しっかりしたコンティンジェンシープランも考慮したかたちで開発していただきたいと思います


 
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